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6、新しい出会い③

 チラシの道案内通りに歩き進める。

大通りから外れて裏路地に入り、商店街の一本隣の道に出た。そして、鍛冶屋や魔道具点などがある方とは逆に歩くと、この道沿いで一番大きい建物があった。

そう、看板に書いてある通り、ここが奴隷商館である。

いや、しかし、こんな立派な商館の奴隷を買うほどの金は無い。

とりあえず、ものは試しだ。チラシを握りしめ、ドア。いや扉と言うのが正しいだろう。扉をノックした。

執事風の老紳士が出てきた。

全く老いを感じさせないキビキビとした物腰と、鋭い眼光は、未だ現役の冒険者にも引けを取らない。

その鋭い視線で、瞬時に客である俺の値踏みをする。安物の服に身を包んで入るが、中々面白い眼光をしている、彼はそう思った。


「お客様、でよろしいですか?」

「はい」


 これは俺が選んだ道。何も臆することはない。

この商館に似合わないボロい服だが、堂々と入ってやる。


「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

「分かりました」


 絨毯に引かれた直線に沿って歩いているかのように。寸分狂わずに真っ直ぐ足を進めている。姿勢は背筋を張ったまま。もちろん、足音なんて

少しも聞こえない。


「ここでお待ち下さい」


 軽く会釈をすると、彼は出て行った。

通された応接室には、王城のそれのようにアンティークが配置され、物音を立てるのさえ憚られるくらい重々しい雰囲気を醸し出している。

こんな立派な椅子に座っていいのか考えものだが、この部屋に通されたということは座っていいのだろう。お尻をはたいてから、ゆっくりと腰を下ろした。


「はぁ〜」


 部屋の雰囲気に反して、そんな間の抜けた声が出てしまうくらいの居心地の良さだ。俗世間で言うところの、実家のような居心地だ。


「お疲れのようですね」


 おっと、いつの間にか、さっきの執事風の彼とは違うが、同じようにちょっと渋めのおじさんが目の前に座っていた。


「いえ、すみません。色々ありまして」


 ドラマで見た営業トークって、どんなんだっけ?

うーん……全く思い出せない。

こんな、いかにも貴族と関わりがある人を怒らせたら、異世界ライフが獄中ライフに様変わりしてしまう。


「当館の主、ローレンスと申します。では、これにご記入してください」


 冒険者登録するのに書かされた用紙と内容はほぼ同じだ。


「なるほど、一人目の奴隷ですか……となると戦闘奴隷がよろしいでしょうか?」

「まだ決めていなくて。ざっと見せてもらえませんか?」

「そうですね、では、これをご覧ください」


 空中にポッと空いた穴に、手を突っ込んだかと思うと、何やら分厚い紙束を取り出した。

机の上に置かれたそれは、数学の教科書くらいの厚さだ。絶妙に読みたくない厚さをしている。だが、読まないわけにはいかない。


「気になる者がいましたら、お声がけください」


 それぞれの奴隷の詳細がB5サイズくらいの紙に書かれている。

書いてあるのは、名前、種族、性別、年齢、レベル、ジョブ、スキル、出来ることなどが簡潔に書かれている。

正直、百数十枚全部を読むのはキツい。

だから、審査条件を明確に設けておこう。その条件を超えているのだけを見比べて、連れて来てもらおう。

・種族は何でも良いけど女性

・ジョブは戦闘職

まあ、ここで欲張っても仕方ないので、条件はこの二つくらいにしておこう。

とりあえず、魔物の討伐が出来るようになれば、すぐ理想通りの奴隷を買う金が手に入るだろう。


「すみません、種族は何でも良いので、女性だけ取り出してもらえますか?」

「かしこまりました」


 ローレンスさんの隣りに立っている、俺を出迎えてくれた執事風の人が答えた。

紙束を机にトントンとして端を揃えると、パラパラパラと紙を高速でめくっていく。


「完了しました」

「え……」


 老執事は少し目の端で笑い、持っている紙束の下を指差した。

紙束をめくっているのだけに気を取られていたが、紙束の下にもう一つ紙束ができていた。正確に言うと、あの一瞬で俺の条件に適するものだけを選び取ったのだろう。


「老婆心ながら、セイジ様。冒険者ならば、常にその自称の周りにも気を付けねばなりませんよ」

「そうですね。ご忠告ありがとうございます」

「では、気を取り直して、ご覧ください」


 そうだった、そうだった。

俺は奴隷を見に来たんだ。決して、初老のスゴ技を見に来たわけではない。

それにしても、色んな種族がいる。

エルフ、ドラーフ、獣人族というラノベ定番の種族から、人狼族やドラゴニュートや猫又族なんてのもいる。もちろん、人間もだ。

種族ごとの詳しい特徴は分からないが、エルフなら魔法と弓、ドワーフならハンマーなどといった定番はそのままっぽい。しかし、全員がそういうわけではないようだ。


「お決まりになりましたか?」

「はい。では、これで」


 そこからは、ローレンスさんの指示を受けたメイドたちが代わる代わるに、俺がピックアップした奴隷を連れて来て、服ではなく、その奴隷自身がメインのファッションショーが始まった。

ステータスは高い。容姿も整っている。

ただ、何かが足りない。俺たちの言葉に機械的に頷き、無機質な笑みを返す。しかし、その何かは、俺には分からなかった。


「いかがでしたか?」

「なんとなく、物足りないですね」


 金があまり無いから買えないのを誤魔化すためでもあったが、確かに何かが物足りなかった。

ローレンスさんが興味ありげに、ほお、と言った。


「そうですか、残念です。まだ、見ていかれますか?」

「いえ、今日は予定があるので」

「そうでした、セイジ様は冒険者でしたね。では、またのご来館、お待ちしております」


 少し頭を下げてから、老執事が開けてくれたドアを通った。そういえば、この人の名前、聞いてないな。




 パリィーーン、と何かが割れる音が、奴隷商館の厳かな雰囲気を破った。


「大丈夫、ユリア!」


 少女の声が聞こえてきた方向に目を向けると、猫耳の少女がかがみ込んでいる。そして、その子の背中を別の猫耳少女が擦っている。


「あれは?」

「メイドの作法の練習中の者です。ただ、妹の方が病弱で。薬は与えているのですが、一向に治らず」


 そう言う老執事の顔は少し悲しそうだ。

後々の面倒事を避けるために、病気の奴隷は売らないのが暗黙の了解らしい。まあ、大金払って買った奴隷が病気で余命僅かだったら、問題になるのは自明だ。


「何の足しにもならないかもしれませんが、ポーションいりますか?」

「では、ありがたく頂かせていただきます」


 奴隷商だからといって、奴隷を商品として物のように冷淡に扱っているというのは偏見だったようだ。だって、この人はその奴隷のために頭を下げているのだから。


「優しいんですね」

「この歳になると、孫のようにも思えてきまして」


 老執事は彼女らの横にいたメイドに俺の薬を手渡してから、商館の出入り口まで送ってくれた。


「そういえば、彼女らも買えますか?」

「ええ、姉妹揃ってお買い上げいただくことになりますが、ある程度はお安くできるかと。では、またのご来館、お待ちしております」


 老執事が深々と頭を下げる。


「もう、早くしてよっ!」


 商館の窓から漏れる声に、思わず笑ってしまった。

その瞬間、ハッとあることに気がついた。

奴隷を見せて貰った時のあの違和感。

それがただ奴隷というものが肌に合わないことから来ていると勝手に納得していたが、あの子たちのやり取りを聞いて、ようやく分かった。人間っぽさが無かったのだと。

あんなに人との関わりを避けてきたのに、まだ人との関わりを求めるなんて、ちゃんちゃら可笑しい話だ。

ただ、もう自分の気持ちに嘘をつきたくない。

俺が買うのは、彼女らだ。

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