45、捕物帳④
少し早めの夏休みを満喫しすぎてしまいました。
決して、投稿を止めたわけではありません!(汗)
さて、皆様はどうお過ごしだったでしょうか。
私は溜まっていたアニメを見たり、新作ラノベのプロット(すでに3作品分溜まっております)を考えたりと、楽しい時間を過ごせました。
セリアとユリアは力一杯、魔力一杯、『魔力拳』を目の前の大きな壁に繰り出した。
ドカーンという耳を穿つ金属音が洞窟中に鳴り響く。
洞窟の端に当たって跳ね返ってきた爆風は、二人がずるずると押し戻される程の威力だった。
これならと安心した二人を、土埃の中に浮かぶ四つの赤い目が睨みつけた。
「うそ……」
さっきまで意気揚々としていたユリアが、ぽつりと一言こぼした。
「ユリア、助けるんでしょ?」
セリアの言葉が泣きそうなユリアの気弱な部分を打ち砕いた。ユリアは頭をぶんぶん振ると、セリアにとびっきりの笑顔を向けた。
「うん!」
土埃が収まると、二人の目の前には二体のトロールが天井いっぱいに立っていた。片方は赤い鎧と大剣、もう片方は青い鎧と大盾を付けて、大きな目で上から見下ろしている。
「ユリア、気をつけて。ツイントロールよ」
「ツイントロール?」
セリアは唾をゴクリと飲んだ。
「Cランクの魔物で、赤い方が攻撃特化、青い方が防御特化よ。一体ずつなら大したことないけど、両方を相手にすると厄介な魔物とされているわ」
ツイントロールは冒険者パーティーの強さを判別する、一種の試金石のような魔物だ。
攻撃力が不十分なら、防御に関してはBランクに匹敵する青いトロールに攻撃を全て阻まれる。防御力が不十分なら、攻撃に関してはBランクに匹敵する赤いトロールの攻撃にパーティーが半壊する。連携力はもちろん、個々の能力も求められる。
さて、セリアとユリアはどうだろうか?
二人が初めて魔物と戦ったのは、つい数週間前のことだ。
それに、二人は攻撃特化で、防御力は無いに等しい。頼みの綱の俊敏力も、スキル『限界突破』のデバフで【AGI増加ポーション】のバフが相殺され、全くアドバンテージになり得ない。
完全に不利な状況だが、逃げ出すという未来は、二人の頭にその片鱗さえもよぎらなかった。
二人はポケットに入っていた最後のポーションを飲んだ。体の底から熱が湧き上がり、心地よい温もりが彼女らを包み込む。
目で合図をすると、まずセリアが突っ込んでいった。狙いは赤いトロールだ。赤い方さえ落とせば、少なくとも負けるという未来は無くなる。
彼女の足が地面を踏み切り、土埃を盛大に立てながら目標へと矢のように走っていくが、やはり青いトロールが立ちはだかった。
それでも、彼女の目は変わらず決意と闘志がみなぎり、眼前に控える敵に右手を振り上げた。
ドカーンという音とともに、思いを託したセリアの魔力の拳と青いトロールの大盾が真っ向からぶつかり合う。
だが、二人の本気でも捻じ伏せられなかったのに、セリア一人で勝てるほど、世界は都合よくできていない。
始めは想いで押し込められていたものの、じりじりと押し戻されていく。
ジリ貧だと判断したセリアが右足蹴りで虚を突くも、青いトロールの左腕がそれを難なく受け止めた。
その回し蹴りの勢いを使って、体をくるっと半回転させ、左足で後ろ向きに鋭い一蹴を繰り出すも、敵の膝を地につけるのに留まった。
手詰まりとなり、セリアがよろめきつつ攻撃を中断すると、青いトロールはにっと笑った。
しかし、これは演舞ではなく、実戦だ。
セリアがふっと笑いをこぼすのと同時に、天井に張り付いていたユリアが赤いトロールの上に落下した。
初撃とは違い、ドスンというお腹がキュンとなる音、バキッという骨が砕けた音、ビシャという肉が飛び散る音が聞こえた。
勝ちを確信したセリアがしたり顔で青いトロールを見ると、そこにいない。
脳が状況を把握しようとフル回転していると、ユリアの声が飛び込んできた。
「お姉ちゃん!」
ハッと我に返ると、自分がやけに暗がりにいることに気づいた。
「上っ!」
上から猛然と迫る気配に慌てて上を向いたセリアの目に、血色にヌメッと輝く赤い鎧が映った。
とっさに頭上で両腕をクロスさせた。
それとほぼ同時に、口から内臓が飛び出しそうになる激しい力を受けた。土煙が舞い上がり、セリアの姿を消し去った。
「お姉ちゃーん!」
ユリアの絶叫が洞窟内に、セリアの頭の中に反響する。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
セリアは耳から入るユリアの声に、意識の底無し沼から辛うじて引きずり揚げられた。
ゆっくり深呼吸しながら、薄く目を開けると、前髪が目に入らんばかりの距離にユリアがいた。
「まったく、ひどい顔よ」
眉をひそめた心配そうな顔から、口角を上げた安堵した顔になったが、目に溜まった涙はどんどん形を成していき、セリアの頬にポトポトとこぼれ出した。
「もっとひどくなってるわよ」
「……うん」
そう答えるユリアの声はどこか嬉しそうだ。
セリアの顔がユリアの涙まみれになってから、ユリアはほっとしたように立ち上がり、【Cランク麻痺液】をツイントロールとの間に撒いて、一時的な安全地帯を作った。
その時、突如として心臓が鷲掴みにされるような殺気が、大波のように押し寄せてきた。思わず首をビクッとすくめてしまう、首筋に刃物を当てられたような殺気に、ユリアは慌てて身構えた。
「何なの!」
ユリアが鋭い声を飛ばす。
その真剣さと打って変わって、明るい返事が返ってきた。
「ユリア、落ち着いて。私よ、時雨よ」
「え、時雨なの?」
「そうよ、時雨よ。私の他に誰がいるのよ。それで、二人は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ただ魔力がほとんど無いわ」
ユリアを制して、セリアが答えた。
これはユリアの姉ポジションを奪われないように強がったわけではなく、セイジのポーションの効果が切れたものの、ちょうど『限界突破』のデバフが消えたのだ。
「じゃあ、これ飲んで。青い方は私が止めるから、赤い方は頼んだわよ」
「時雨、あれは――」
「大丈夫、ツイントロールでしょ、分かってるわよ。だから、即倒しなさい。3、2、1でいくわよ!」
「えっ」という顔で、ユリアはポーションを二本同時に飲み干した。セリアは「やれやれ」とため息をつきながら、手早く一本ずつ飲み干した。
「3」
「2」
「1」
時雨が目を閉じ、軽く息を吐いた。
目を開けると同時に、彼女の背から黒い翼が生え、足元から血のように赤い線がすぅーと伸びていき、青いトロールの足元から四方八方に赤い枝が飛び出した。その枝は枝分かれしながら広がって、赤い鳥かごを形成した。
スキル『血の牢獄』である。
時雨が目を開けるのに、やや遅れて駆け出した二人は青いトロールの横を通って、右からセリアが、左からユリアが『魔力拳』を叩き込んだ。
彼女らと同様、紙装甲の赤いトロールにそれが耐えられるはずもなく、さっきまでの苦労がなんだったのかと思えるほど呆気なく、いとも簡単に吹っ飛んでいき、後ろの壁に遺影を残して、ドロップアイテムに帰した。
それを見届けた時雨は、スキル『強制執行』と唱えた。
すると、血の牢獄から内側に向かって、幾十もの針が突き出し、アイアンメイデンのようになった。そして、そのまま敵はポリゴンエフェクトに包まれた。
「やったあ、やったよ、お姉ちゃん」
「ええ、そうね。よく頑張ったわ、ユリア。時雨も助けに来てくれてありがとね」
「いいのよ、気にしないで」
「ううん、ありがとう。時雨おね……時雨」
ユリアはそう言い直すと、ほっと息をついた。
戦闘時よりも鋭くなったセリアの眼光は、奮闘した妹への優しい眼差しに変わった。
右隣からの威圧感が消えたユリアは、ふと思い出したように外の様子を聞いた。
「外はフィーに任せたわ。フィーの結界なら、きっと大丈夫よ」
「フィーも来てくれたの?」
「そう、ポーションを持ってきてくれたのよ。さっき飲んだやつがそれ」
「騎士団に行ったご主人様が戻ってきたら、帰ろう」
「ねえ、置いていってみる?」
「んー」
真面目に考え始めたユリアに「うそ、冗談よ」と言って、時雨は笑いながら洞窟の出口の方へ歩き出した。
セリアとユリアもドロップアイテムを拾ってから、それに続く。
はてさて、セイジはどうなったのだろうか?
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