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44/44

44、捕物帳③

初めて夕方に投稿することは置いておきまして、未投稿のストーリーがありましたので、至急投稿させていただいたことを報告します。

37話を新たに追加し、以前の37〜42話を、38〜43話に変更いたしました。


これからも投稿がんばります!

それでは楽しい小説ライフを〜


追伸 PAT:物理攻撃(Physical Attack)、AGI:俊敏(Agility)

 まだ日の出前で薄暗い木張りの廊下には、冷気がやんわりと染み込んでくる。


「何があったか、詳しく教えてくれない?」

「了解。セリアとユリアが盗賊のアジトに突入。時雨は二人のフォローに行った」

「マジかぁ」


 思わず、セイジは息を漏らした。

本来は、時雨とルシェをハンスさんの護衛のために宿に残す予定だったが、こうなっては時雨はセリアたちに付けておいた方が安心だろう。


「盗賊団は何人くらいいた?」

「大体、五十だった」


 んー、悩ましい。

あの武闘派三人組なら、万が一ということはないだろうが……。


「お兄ちゃん、行きたい?」

「ん、いや、ポーション渡してるから、きっと大丈夫だよ」


 俺が心配そうにしていたから、フィーに移ってしまったのだろう。心配そうにしているフィーの頭を撫でながら、ルシェを振り返った。


「じゃあ、ルシェは予定通り、ハンスさんの護衛をお願い。俺たちも予定通り、騎士団の所に行ってくるよ」

「了解」


 ルシェはハンスさんの部屋のドアの向かいの壁によっかかった。

外に出たセイジは【筋力増加ポーション】と【AGI増加ポーション】を、フィーは【精神耐性ポーション】を飲んだ。それから、例のごとくセイジがフィーをおんぶして、地面を滑るように走り出した。




 時間は戻って、満月が少し傾いた頃、つまりセイジが早朝ながら黄昏れていた時に戻る。

セリアとユリアは、時雨とルシェの働きで分かった盗賊団のアジト前の草むらに潜んでいた。すると、彼女らの前に二台の馬車が音もなく停まり、御者の席から三人が飛び降りた。一人が馬の手綱をそばの木にくくりつけ、他の二人は荷台に駆け寄り、幕をバサッと上げた。

もう一両の馬車でも、同じような動きを見せている。

そして、アジトの洞窟から、筋骨隆々な男たちが十数人わらわらと出てきた。そのいずれも質素な革の鎧を着て、腰に剣を提げている。

数人が周辺の警戒のため、セリアとユリアのいる草むらの方へ歩き始めた。

二人は右手で拳を作りながら、左手で【擬態ポーション】の蓋を開け、静かに喉を鳴らした。

ポーションの瓶を出し入れする音に気づいた耳の良い見張りが草むらを覗いた時にはもう、一揺らぎの気配も残っていなかった。

しかし、見張りが離れると、「ご主人様、スゴいね」「まあ、ポーションだけはね」と、妖精のささやき声がどこからともなく聞こえた。


セリアとユリアが木の上にポジションを変えたとき、馬車の積み荷の搬入が始まった。

馬車から洞窟まで人の壁を作り、それに沿って彼らの商品を規律よく歩ませていた。荒々しい怒鳴り声、転んだ商品を叩く鞭の音、ぼろ切れを巻いただけの服。

二人も同じ立場ではあるが、彷徨っているところを偶然大店の奴隷商に保護された二人とは違い、盗賊によって村々から誘拐されてきた者たちだ。まともな扱いを受けられるはずがない。衣食住の食が精々だ。

セリアもユリアも耐えた。唇を噛みしめて耐えた。動きそうになる足に力を入れて耐えた。二人は耐えたのだ。二人とて、物事の優先順位は分かっているし、眼前に潜む危険性も分かっている。

しかし、ある少年の横顔が、その均衡を保っていた一本の糸を引きちぎった。


「お姉ちゃん……」


 ユリアは一人の少年をその瞳に映しながら、体勢を変えた。

「ごめん」と言い残して、盗賊の集団の中に飛び込もうと膝を折り曲げたユリアの肩に、セリアが包み込むように手を乗せた。


「ユリア、落ち着きなさい」

「――でも」


 ユリアは後ろを振り向いた。予想に反して、セリアの目に浮かんでいるのは非難でなく、優しさだった。

セリアは嬉しかったのだ。

ついこの前まで、隅でうずくまって殻に閉じこもっていたユリアがこんなにも真っ直ぐな目をしているのだ。

ついこの前まで、病気のせいで、自分のことすら満足にできなかったユリアが人助けをしようとしているのだ。


「いいわ、一緒にやりましょう」


 ユリアのことだから止めてもやるだろうし、ユリアに友達を見捨てるようなことをさせたくない。

ユリアは目を見開いてから、大きく頷いた。


「うん、行こう!」

『限界突破』

『限界突破』




 ズバァーン!

例の少年に鞭を振り上げた男が、他二人を巻き込んで吹き飛んでいった。

全員が唖然としている間に、二条の光が盗賊を縫うように稲妻を描く。そして、その軌跡上に盗賊がバタバタと倒れていった。

慌てて洞窟内のアジトから出ようとした盗賊の前に、ユリアが立ちはだかった。


「おい、女、そこをどけ!」

「ふん、やだよ〜」


 ユリアの安い挑発にのった盗賊が地面に転がった。

ふんと鼻を鳴らしたのが気に食わなかったのか、もう一人が泡を吹いて倒れた。

更に、あっかんべーで煽ったが、さすがに学習したのだろう。今度は睨み合いの眼光がより鋭くなっただけだった。


 その頃、洞窟の外で誘拐された人たちを保護していたセリアは時雨と合流した。


「あら、随分派手にやったわね」

「ごめんなさい。折角、皆で計画を練ったのに」

「いいわよ。あいつには少しくらいどぎまぎさせた方が面白いから。ほら、早く行きなさい。ユリアが待っているんでしょう? 後始末は私がしておくわ」


 セリアは「ありがとう」と言ってから、ユリアの待つ洞窟内へ走っていった。


「おまたせ、ユリアの体調はどう?」

「元気だよ。向こうはどうしたの?」

「時雨に任せたわ」

「じゃあ、始めよっか」


 ユリアはストレッチをしながら、そう言った。


「そうね、無理はしないでね」


 二人は同時に左足を踏み出してから、同時に右腕を前に突き出した。

バーンという衝撃音とともに、洞窟内を暴風が襲った。その暴風は盗賊をなぎ倒しながら、奥へと消えていった。その威力は、ドカンという音のあとに、二人の足元まで土煙が漂ってきたことから分かるだろう。

とりあえず、二人は最奥へと向かうことにした。きっと、親玉かお宝かは見つかるだろう。

道中、まだ蠢いている敵や降伏してきた敵をデコピンとビンタで気絶させながら、以前のユリアなら決して通れなかった薄暗くじめっとした道を、奥へ奥へと歩いていく。

大きな横穴が一本あり、そこから小さな横穴がちょこちょことある、まるで木のような構造だったようで、スキル『魔力拳』による爆風と相性が良かったらしい。ほとんどの盗賊が気絶していた。

しかし、どんな爆風も奥に進むほど、威力が減衰するのは必至だ。そして、奥にいる者ほど強い敵なのだ。

彼女らの目の前に見えていた壁が動き出した。


「お姉ちゃん、あれ……」

「おそらく魔物ね」


 未知の巨大な魔物にエンカウントしたら、本当は逃げるべきなのだろう。しかし、洞窟内の小さい横穴にまだ人がいるかも知れないし、洞窟の入口まで来られては戦えない人たちを巻き込んでしまう。

だから、ここで倒すしかない。

だが、スキル『限界突破』のクールタイム明けにはまだ時間がある。その上、デバフで今までのような機動性は期待できない。


「お姉ちゃん、早く片付けて戻ろう」

「でも、スキルが」

「大丈夫だよ。ユリアたちは強くなったんだから。それに、まだご主人様のポーションも残ってるし」


 セリアも覚悟を決めたようで、短く息をついた。


「そうね、ここまでして引き下がるわけにはいかないわね。ユリア、一気に片付けるわよ」

「うん!」


 スキル『限界突破』の効果は「三分間その時のPAT、AGIの値が1.5倍になる。ただし、効果が切れると、AGIが20まで下がって、『麻痺』という状態異常がつく」だ。

自分へのバフもデバフも一線級だ。そのため、短期戦なら圧倒的な強さを見せるが、長期戦になると使いどきが難しい。なんなら、今回はもう使ってしまっている。

セイジのポーションを使っても、バフを消し去るのが精一杯だ。だから、実力差のある敵が相手では勝ち目は薄い。

つまり、AGIが人並みになった高機動アタッカーの二人には、初撃、少なくとも自分のターン内で倒し切る他無いのだ。


「せーのっ!」


 セリアの合図で、二人とも駆け出した。

不利な戦いになるだろうが、二人の目に迷いはない。むしろ、いきいきとしていた。他人を守るために戦う妹と、その成長が嬉しい姉は、同時に拳を突き出した。

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