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37、温泉へ?①

 自作ポーションとコーヒー豆の売上のおかげで、やっと生活に余裕が生まれてきた。ユリアのこともあるし、何があるか分からないから、みんなが俺のポーションを常に持っておくのがいいだろう。

セイジの足は早速、ラビリスの街へと向かった。

もちろん、ケーニッヒ商会に収める商品は、すべて彼のマジックバッグの中に入っている。マジックバッグを狩ってからというもの、三キログラムの麻袋を手で持ちながら走る必要がなくなり、毎度の往復がとても楽だ。


「ハンスさん、おはようございます」

「おはようございます。いやあ、ドクトルが来ると、月曜日という感じがしますな」

「いつもと同じく、赤が【HP回復ポーション】、青が【MP回復ポーション】、黄が【疲労回復ポーション】で、各十本ずつあります」

「はい、確かに」


 ハンスさんはそう即答したが、目はポーションの本数を数えていた。

毎度のように、コーヒー関連の話が始まるのかと、机を見回したが、コーヒー豆の欠片すら見当たらない。紅茶の入った白いカップがぽつんとあるのみである。

ハンスさんは「今日はお話なのですが」と前置きをしてから、離し始めた。


「最近は、ヤーパンという温泉街に支店を展開する計画を進めていまして。店舗は完成したらしいのですが、旅館との間に少し問題があったらしく、私が向かわなければならなくなり……」


 珍しくハンスさんが言葉に詰まった。


「なるほど、それは大変ですね。ラビリスの支店長もしているのに」

「実は、ヤーパンの支店長を兼任することになりまして、喜んでいいのか、悲しむべきなのか」

「それで、私に何か手伝えと?」

「いえ、『手伝え』というわけではなく、あくまでお願いなのですが。ドクトルに冒険者の知り合いがいらっしゃいましたよね?」

「……あっ、ああ、セイジのことですか?」


 まさか、ハンスさんの口からその名前が出るとは思ってもいなかった。

お腹に力を入れて、震えかけた声を矯正してから、頭を高速で回転させた。さすがに、俺の正体がバレたと考えるのは早計すぎるだろう。とはいえ、用心するに越したことはない。万が一気づかれでもしたら、信頼家系に少なからず傷がつくはずだ。


「つかぬことを伺いますが」


 セイジの喉がごくりと鳴った。


「彼に、ヤーパンまでの道中の護衛を指名依頼したいのですが、今日中に会えますかね?」

「今日中ですか?」

「明日でして」


 随分急な話だと思ったが、そういえば俺が商会に来るのは月曜日だから、週半ばで決まっていたとしても、相談が今日になるのは致し方ないか。


(でも、明日かぁ)

「離してみます」

「どうも歳を取ると、ますます心配性が強くなりまして。それに、最近は盗賊が頻出するとも聞きますし。つい先日も他照会の馬車が襲われているので、信用できる冒険者の方に護衛していただきたかったのです」


 無理な薬草の買付を看過してもらっていることの恩返しも含めて、なるべく力になりたい。あとは……。




 「どうかな? 俺は依頼を受けたいんだけど?」


 家まで爆速で帰った俺は、五人を前にハンスさんの依頼の話を切り出した。最悪、一人でも参加するつもりだ。

五人は輪になった。

ぶつぶつと何かを言っているのが聞こえる。時々、フィーやユリアの弾んだ声が漏れ聞こえる。


「決まりました」


 時雨が全校生徒を前に、生徒会の発表をしている様子が脳裏をよぎった。真剣な顔つきのまま、大きく息を吸い込んだ。

いつのことかは覚えていないが、なんか、見覚えがある気がする。


「温泉に行きましょーっ!」

「おーっ!!!」


 一連の流れを見て、やっと思い出した。

確か、文化祭のスローガン発表のときだった。普段は冷静沈着な彼女が大声を張り上げた、ということでちょっと話題になったものだ。


「いや、温泉がメインじゃないからな?」

「えー、ユリアの浴衣見たくないの〜?」


 時雨が一歩近寄ってきた。

自分が返事に窮する未来が見え、咄嗟に危機感を覚えたセイジは急いでハンスさんの元に戻った。




 「ということで、ハンスさん、セイジたちは依頼を受けるらしいです」

「そうですか、それは良かった。ドクトルに頼んで、正解でしたな」


 ハンスさんは顔をほころばせながら答えた。

よっぽど、道中のことが心配だったのだろう。まあ、ここ最近はずっとラビリスに引きこもっていたらしいから、不安な気持ちがどうしても拭いきれないのだろう。夏休み明けの学校のようなものだ。


「では、明朝、東門でお待ちしていると伝えてください」

「はい、分かりました。道中、お気をつけて」

「ありがとうございます」


 机の上に置かれたポーションとコーヒー豆を見て、先週卸した商品の売上の五割をもらうのを思い出した。危うく忘れるところだった。

ちなみに先週は、一本二万三千ピロのポーションが三十本、一セット五千円のコーヒーパックが三十セット、どちらもすべて完売した。よって、ブランド『カイザー』の先週の総売上は八十四万ピロ。つまり、俺に入る金は四十二万ピロだ。

いつの間にか、ポーションの値段が三千ピロ上がっているし、ハンスさんはまだ単価を吊り上げるつもりだから、そのうち五十万の大台も越えるだろう。

いつも通り、食費や装備の費用を引いて、残りの二十万ピロはすべて薬草を買うのに使った。普段から余分にポーションを作ってはいたが、護衛依頼を受けたからには、万全を期したい。ドクトルの対面だけではなく、ハンスさんんの命もかかっているのだ。失敗しましたでは、済まされない。

そういえば、マジックバッグはせっかくなら良いものを買おうということで、もうちょっとお金が溜まってから、魔道具の街*****に出張ることになった。




 初めて薬草採取以外の依頼を受けるためか、セイジはポーションを作る時も、夕食の時も、風呂の時も、マジックバッグに荷物を詰めている時も、気持ちが昂ったまま落ち着かなかった。

おかげで、夕食担当の時雨に、散々嫌味をこぼされた。

彼女を機嫌を取っていると、次第に夜も更けてきたので、依頼に備えて早く寝た。


翌朝、フィーのアイテムボックスに詰めていた荷物の量に驚愕した。まるで、引っ越しをするかのような量だった。本人たち曰く、女の子は荷物が多くなるんだとか。

少々のカルチャーショックを受けながらも、待ち合わせ場所のラビリスの東門に向かった。

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