31、救出
さすがに、警備が厳重だ。
裏山からみた感じ、外向きにも内向きにも攻撃に備えている。
「じゃあ、作戦通りに行くぞ」
全員、【透明化ポーション】を飲み干す。
なるべく支出を抑えたかったが、これだけは高級なものにしたから、お互いがしっかり見えている。
俺の合図で突入した。
門が閉まっている。頑丈そうだが、ポーションで完全武装しているからいけるはずだ。
「ユリア」
「りょーかい」
ユリアが門に飛び蹴りをすると、門がちょうど真ん中でへし折れた。
完全には開いていないが、左右にできた隙間から侵入成功だ。
「敵襲だ!」
「警備隊、隊長に続けぇ!」
ドカーン、メキメキ、という爆音を出せば、そりゃあ気付かれるだろう。
両脇にそれて、警備隊を避けてから、開けっ放しの監獄内に侵入した。
(よしっ、あいつにしよう)
【Cランク麻痺液】【Dランク自白液】、この二瓶を取り出した。
まず【Cランク麻痺液】をかけます。
「うわっ、な――」
すると、どうでしょう。
口も麻痺して動かなくなるので、助けを呼ばれる心配もありません。
そして、【Dランク自白液】をかけます。
すると、あら不思議、何でも話したくなってくるのだ。
「明日の魔族裁判にかけられる、勇者パーティーのメンバーはどこにいる?」
「この監獄の最上階の一番奥の部屋」
「一応聞くけど、その人の性別は?」
「女性」
おそらく、委員長で間違いないだろう。
ユリアに一発殴ってもらって、彼にはすべてが終わるまで、眠っていてもらおう。
階段を上るたびに、カタカタと音が鳴るのは困るが、階段を使わないと、上には行けない。
なるべく音を立てずに、ネズミと勘違いしてくれるように進んでいった。
五階建てだろうか。
やっと、階段が途切れた。
あの、警備がたむろしているところが委員長の牢屋だろう。
こっそり近寄って、四人で同時に【Bランク睡眠液】をぶちまけた。この睡眠液、揮発性も高いらしく、かかっていなくても揮発した睡眠液を吸うことで、同様の効果を得られる。
「うん、間違いない」
やつれているが、委員長だ。頬に生々しく涙の跡が残っている。
警備兵と同様、【Bランク睡眠液】の効果で気持ちよさそうに寝ている。
ゴーンッ
ユリアが思いっ切り檻を蹴り飛ばすと、ジョッ屋の鐘の音とともに、ぐにゃりと鉄格子が曲がった。
「ほら、早くおんぶしなさい」
「えっ、俺?」
「当たり前でしょ。あんたが助けたかったんでしょ?」
「分かった。じゃあ、逃げるぞ」
ちょうど、外から警備隊が戻ってきた。
入口の頑丈そうな門のところに数人待機しているが、問題なく抜けられそうな配置だ。
横を通った時に、うん?、と首を傾げたやつはいたが、誰も気付いてはいない。
しかし、警備兵を眠らせたまま放置してきている以上、気付かれるのは時間の問題だ。腐っても王立第一監獄、王国で一番大規模な監獄の警備隊だ。そこまで、馬鹿ではないだろう。
今のうちに、距離を稼がなくては、
あの門が壊れるとは、珍しいこともあったもんだ。
まったく、何がアースドラゴンの突進にも耐えられますだ、自分で壊れちゃ意味無いだろ。
「隊長、警備兵が一人眠っております」
「叩き起こせ! 我が隊に、気の抜けたやつはいらん!」
なにやら、胸騒ぎがする。
いつもと大した変わりはない。門が壊れたが、警備兵は誰も見ていないと言っている。ならば……。
「隊長、賊にやられた、と言っております」
彼の頭の中で、急に壊れた頑強な門、眠らされた警備兵、その二つが一つの答えを導き出した。
「全員、賊が侵入した可能性が高い。異常がないか確認せよ!」
手の空いている警備兵計三十人が一斉に階段を使い始めた。カンカンという甲高い音が監獄内に響き渡る。
貧乏ゆすりをしながら、言いしれない不安に駆られる。
「一階、異常なし」
「二階、異常なし」
「三階、異常なし」
「四階、異常なし」
安堵して、椅子にかけようとしたその時、不安が的中した。
「五階で脱獄です!」
「誰だ?」
「明日魔族裁判にかける予定だった魔族の女です。独房の前に詰めていた警備兵十人は、眠らされておりました」
くそっ、このタイミングでか。
あと二時間もすれば、魔族移送用の騎士団が中隊規模で来ただろうに。
怒りと後悔が体中に満ちていく。しかし、彼はその感情が決して良い結果を生まないことを知っている。
「最低限を残して、全員出撃だ! エリック、賊を追えるな?」
「はい、もちろんです。『追跡』、位置の特定完了です」
「了解した。全員、我に続け!」
俺たちがちょうど裏山の頂上に着いた頃、王立第一監獄の方が騒がしくなってきた。
もう、気付いたのか。
しかし、これだけ距離があれば、そう簡単には追いつけないはずだ。跳梁跋扈の森くらいまでは追いつかれないだろう。それに、Bランク以上の冒険者しか入れない規則の跳梁跋扈の森の仲間では、いくら警備隊といえど、ついてこれまい。
ユリアが壊した門から、騎兵が飛び出している。
彼らの松明の火から、俺たちの方へ向かって来ているのが分かる。
「セリア、ユリア、もっとスピード上げられるか?」
「ええ、余裕に決まってるでしょ」
「もちろん、余裕、余裕ぅ〜」
デフォルトでAGIが100近くある二人と同じポーションを飲んでいても、足手まといなだけだ。
これを飲もう。
値段分の仕事くらい、してくれよな。
ポケットから【AGI増加ポーション+】を取り出し、走りながら中身を口に流し込んだ。
食道と胃がカァーと熱くなる。
体が軽く感じ、全ての動きがゆっくりに感じる。
まるで鳥になった気分だ。
「スピード上げるぞ」
「ええ、分かったわ」
「りょーかい」
二人はだんだんとスピードを上げる。
ここで置いてかれるわけにはいかない。
置いていかれて、フィーの結界からはみ出た瞬間、フィーの結界で粉々に砕け散った何かが命中するだろう。それも高速で。
まさに、命懸けだ。
止まって【HP回復ポーション+】を飲んで、ボロボロになったであろう筋肉を回復させて、また走り出す。これを何回繰り返しただろうか?
そもそも、何時間経っただろうか?
昇ってくる太陽で、空がクリーム色になり始めた頃、目的地に滑り込んだ。三人とも、立ち止まるなり、草でふかふかの地面に倒れ込んだ。
「ハァハァ」
「ハァハァ」
「ハァハァ」
三人の荒い息遣いだけが聞こえる。
フィーは死にそうな顔をして、地面に倒れ込んでいる。
ただ一人、委員長だけはふかふかの草の上で、スースーと寝息を立てている。
そういえば、前来た時はフィーと二人きりだった。
でも今は、フィー、セリア、ユリア、委員長、俺も合わせて五人もいる。こりゃあ、賑やかになりそうだなぁ。
そんな事を考えながら、眩しい朝日に目を細めているうちに、疲労の導くままに眠ってしまった。
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