30、決意②
朝食を取ってから、俺は冒険者ギルドへ向かった。
異世界で情報を集めるなら、冒険者ギルドだと相場が決まっている。何かあったときのため、ファーストンのギルマスに紹介状をねだっていたから、きっとすぐ情報にありつけるはずだ。
「すみません、ギルドマスターに会えますか?」
紹介状をカウンターの上に置いた。
「少々お待ち下さい」
そう言い残して、階段を上っていった。
絨毯が引かれた大理石の床、きれいな装飾の付いた照明、掲示板を見たり談笑したりする冒険者、いくら眺めていても、飽きそうにない光景だ。
しばらく、これまでのギルドより二回りくらい大きいギルド内を見回していると、受付嬢が二階から戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへ、どうぞ」
ちょっと惜しい気もしたが、今回の目的は冒険者ギルドの見学ではないのだから、大人しく諦めよう。
フィーやユリアがいなくて良かった。
二人がいたら、いくら経っても、一階のエントランスから抜け出せなかっただろう。
「私はギルドマスターのジェラルドだ。セイジ殿、よろしく頼む」
ギルマスの部屋も、二回りは豪華だ。
それで、こちらが王都のギルドマスターだ。ガチガチの歴戦の戦士みたいな人かと思っていたが、冷静沈着そうな老紳士だった。
奴隷商館の老執事のクリスさんみたいな感じだ。
「この紹介状には何でも協力してやれ、と書かれていましたが、何がお望みですかな? 応えられる範囲でお答えしましょう」
「ありがとうございます。では、勇者関連の話題は、何かご存知ですか?」
「勇者様ですと、やはり魔族裁判でしょうな」
ジェラルドさんが即答したし、他の選択肢が無さそうなところを見ると、相当有名なトピックなのだろう。
「魔族裁判?」
「ええ、詳しくは分かりませんが、風邪の噂によりますと、勇者様のパーティーの中に魔族が紛れていたとか。知り合いからの噂ですと、バンパイアだとか」
まあ、その魔族ってのが委員長だと考えるのが自然だ。
しかし、バンパイアか。魔物の強化版ともいえる魔族は、人間から見たら天敵とも言える存在だ。正確だけ見たら、あながち間違いではないのだが。
向こうには上大路らもいるはずなのに、ここまで大事になるとは、王国はよっぽど魔族が嫌いなのだろう。
「いつ、裁判が始まるのですか?」
「明日、大広場で公開裁判が行われるそうですよ。公開裁判とは言っていますが、公開処刑のようなものでしょうな。魔族裁判の判決は、死刑一択ですから」
死刑かぁ……この世界からしたら外野の人間でしか無いから、一概にそれが悪とは言えないが、もやもやする。
委員長のことだから、絶対に他人を理由なしに傷つけたりなどしない。
それに、ボッチの俺に委員長はいつも話しかけてくれた。多少遊ばれていた感は否めないが、少しくらい恩返しをしなければ、男の名折れというものだ。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、大したことは」
「それでは失礼します」
ギルマスに聞くような話では無かったが、確実性は誰にも劣らないだろう。
買い物終わりの三人に合流した。
彼女らの両手いっぱいの紙袋の犠牲になった俺の財布は、もうほとんどすっからかんだ。マジで、こいつら金遣いが荒い。
フィーもセリアも真面目枠なはずだが、女の子ということに変わりはない。やはり、ショッピングしてると楽しくなって、ついついいっぱい買ってしまうのだろう。
まあ、今回に限って言えば、俺の注文で買い物をしてもらったから、あまり強くは言えないが、立つ鳥跡を濁さずにしなくても……。
「さて、どうしようか」
「ちゃっちゃと行って、助けてきちゃえば?」
うーん、相変わらず、てきとうだな。
でも、悪くはない選択肢だ。
委員長が監禁されているのは、おそらく王立第一監獄らしい。重大事件の犯人は、基本的にそこに入れられるらしい。
「その、フィーは……」
「ん、どうした?」
「もしフィーだったら、側にいて欲しいと思う、と思う。独りで捕まるのは心細いから」
「そうね、フィーの言う通りよ。あんた、何悩んでるのよ。まさか怖気づいた?」
そんな簡単に言うなよ、と言いかけた口をつぐむ。
俺がどうするかは、もう決まっている。
あとで後悔はしたくないから、俺が正しいと思う選択肢をとる。だから
「――行こう」
「うん、フィーも賛成」
「ええ、そうね」
「りょーかい」
ゲーマーは思い立ったら、すぐに行動に移すのだ。
『調合のレシピ本』で必要そうなポーションの材料のリストを作って、ケーニッヒ商会王都本店の受付に叩きつけた。
もちろん、ドクトル・トードーの姿でだ。
「あの、どちら様ですか?」
「こういう者です。大至急、このリストのものを持ってきて欲しい」
まったく、これが無かったら、押し売りの逆の押し買いだ。
もちろん、払うべき金なんて無いから、全部つけにしてもらうのだが。
白衣の胸ポケットから、「ケーニッヒ商会との契約書」を取り出して、リストの横に置いた。
「なるほど、かのドクトル・トードー様でしたか。ポーションは、王都でも大変人気ですよ」
「それはどうも。で、それは集められるかね?」
「はい、お任せください」
周りからの興味の視線を感じるが無視だ。
今は、よく分からん商人のおっさんの相手をしている暇は無い。急いで材料を貰って、音速でポーションを作って、光速で王立第一監獄へ行かねばならない。
なにせ、明日が魔族裁判の日だ。監獄に公開処刑場までの移送部隊が来るまでが戦いなのだ。
「お持ちしました」
「ああ、助かる。支払いは、つけで問題ないか?」
「はい、オーナーから許可は出ております」
さすが、ハンスさん、助かるぜ。
商会の門の脇で待たせておいたフィーのアイテムボックスに突っ込んで、【AGI増加ポーション】をグビッと飲んでから、一目散に走り始めた。目的地は、王立第一監獄の裏山だ。
山道に入ってから、白衣を脱いだ。俺の一張羅を、ピョコって出てる小枝なんぞで破かれては困る。これでも、結構高かったのだ。
『調合(A)』
『調合(A)』
『調合(A)』
そこからは、西の空が夕焼け色に染まるまで、延々と作業が続いた。
新しく作るポーションは、『調合のレシピ本』でレシピを確認しながら作った。作ると言っても、材料を一箇所に集めて、『調合(A)』と唱えるだけだが。
『調合(A)』
『調合(A)』
一、二、三、四……
「よっしゃあ、終わったぁ!」
「何言ってるのよ、これからじゃない。早く行くわよ」
「いや、五分休憩させて。さすがに、もう無理」
「仕方ないわね」
ちょっとくらい伸ばしてくれるかと期待してたが、きっちり五分で叩き起こされた。
「鬼」
「何か言った?」
「いえ」
「あんたが五分って言ったんでしょう、まったく。ほら、ユリアも起きなさい」
俺の隣を見ると、ユリアもレジャーシートの上にぶっ倒れている。
やはり、俺が「ぐうたら同盟」の副隊長に見込んだ人材だけはある。
「あと、五分」
「は?」
「さっきのはご主人様の五分、今回はユリアの五分」
「さすがだ、ユリア副隊長」
「いえいえ」
ということで、俺も再びぶっ倒れた。
夕焼け色に染まりゆく空に、あくびを誘われる。
ふうぁー
俺とユリアがだらけ切ったあくびをした瞬間、視界が黄金色から茶色になった。
「起きないなら、今日の夕食は抜きよ!」
「あっ、それはマズい。ほら、ご主人様起きないと。今晩は焼串だよ」
焼串一本で、俺たちの「ぐうたら同盟」は破綻するのか。なんと薄情な話だろうか。
まあ、制限時間が迫ってきているのは事実だ。さっさと委員長のところに行こう。
「行くぞぉー!」
「おーっ!」
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