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3、準勇者パーティー②

 俺の話は置いておいて、一ヶ月の授業と訓練の後、チームごとに別々のダンジョンを攻略することになった。

王様曰く、初心者冒険者御用達のダンジョンらしい。

調合師は図書館と裏山で薬草の本でも読んでいればいいと思うのだが、俺も行かないといけないらしい。それも、あの不良たちと。

魔物よりも、味方からより高い殺意を感じるダンジョン攻略が始まった。

そして、地獄の一日目が終わった。

何があったかって? ただ、罵倒され、荷物運びをしていただけだが。

一日目、二日目と、俺は全く戦闘しないままダンジョン攻略が進んでいった。俺がしたことといえば、料理に家事に洗濯、それから荷物運びとかだ。

ぼやく暇もなく、三日目が終わった。

魔物と戦闘しているクラスメイトは飯を食い散らかすだけ食い散らかして、そのままテントで寝入ってしまう。トランプや恋バナをする余裕があるのは俺くらいだ。

まあ、仕事は猫の手を借りたいくらいあるし、それらを一人でやっても、全く楽しくなさそうだが。




 なんやかんやで、上手く進んでいるように見えるダンジョン攻略は、四日目を迎えた。

おそらく、七階層だっただろうか。もちろん、全十五階層あるこのダンジョンの中層に現れる敵ですら、十分俺をワンパンできる強さだ。

まったく、何が初心者御用達なんだか。

冒険者基準の初心者を、調合師の俺にも適用しないで欲しい。だいたい、ダンジョンの守衛の人も驚いてたし。


「ねえ、変な音しない?」


 普段の状況でクラスメイトが言ってきているのであれば、鼻で笑っておくところだが、なにせここはダンジョンの中だ。

もしかしたら……と考えると、どうしようもなく不安になってくる


「そ、そう?」

「うん。ドタドタって」


 俺よりステータスが高い奴が言うんだから、多分そうなんだろう。

しかし、他のパーティーメンバーは、俺たちを今夜のキャンプ地に残して、この先の探索に行ってしまったから、戦力としては俺とこいつの二人。


「なあ、園田。お前って、バッファーだったよな?」

「うん、支援特化だよ」


 最悪だ。

バッファーと調合師だけのパーティーとか聞いたことがない――というか、ろくに運用できるはずがない。

そもそも、俺は戦力外だから、戦うとしても彼女自身に任せっきりになる。せめて、ヘイトを取るくらいしかできない。

当然、一発食らったら死ぬが。

俺のスキルは『調合(A)』と『薬草鑑定(A)』の二つ。ほんと、もうちょっとどうにかならなかったのだろうか。死んだら、神様に苦情を申し立てよう。


「園田、結界張れるか?」

「小さいのなら」

「じゃあ、自分の周りに張って、あいつらを呼んで来い」

「え、でも……」

「いいから! 俺とお前じゃ、敵は倒せない」


 彼女の小さい背中が暗いダンジョンの先へと消えていく。

気が小さい奴で良かった。

音が響く洞窟内だが、あいつらの音が聞こえないということは、ある程度離れているのだろう。

でも、異世界で強化されているなら、数分で戻って来られるはず。

今はそう思うことにした。


「さて、どうしようか」


 持っているものといえば、【HP回復ポーション】が三本、【MP回復ポーション】が二本。しかし、ワンパンされる俺には、文字通り猫に小判、豚に真珠だ。

あとは、試しで作ってみた【Cランク麻痺液】と【Cランク毒液】が四本ずつ。この二種類は瓶ごと敵に投げつけて、割れた瓶から出た液体をかけてやれば、敵が麻痺と毒状態になるのだが、自分の遠投力とコントロールに自信がないから、あまり期待はできない。

武器は、無いよりはマシくらいの果物ナイフだけ。




 ダッダッダッ、ドッドッドッ

だんだん、振動と音が大きくなってくる。それに比例して、俺の汗も出てくる。

土煙が見えたと思うと、その中に隠れた敵影が一気に眼の前まで迫った。

土煙が晴れると、動物園で見たことあるような狼が立っている。ただし、毛の色は真っ黒で、魔物という言葉がふさわしい見た目だ。


「ヴウゥー」


 敵の動きを止めるために投げようとしていた麻痺薬の瓶が手から滑り落ちそうになる。

イヤな手汗だ。

俺を警戒していた敵も、そろりそろりと姿勢を低く保ったまま近付いてくる。

リアル過ぎるVRだと錯覚しそうになるのは、もう現実逃避を始めたからだろうか。別に死にたいわけではないのだが、眼の前のこいつの殺気に飲まれそうになる。


 パリーン

余計な考えを振り払うためにも、【Cランク麻痺液】の瓶を指先に力を入れて放った。

俺の力でも届いたということは、それくらいの距離しか離れていないということだ。

まったく、逆効果もいいところだ。

しかし、アイテムはしっかりと効果を発揮しているのだろう。敵の動きが止まった。だが、七階層の敵相手に、俺が初めて作った麻痺液と毒液がたった一本で意味をなすわけがない。頭をブルブルと振って、再度動き始めた。


「ヴゥゥーー」


 もう一本投げて、さらに一本投げて、やっと敵の頭が地面についた。

とは言っても、まだ目がギラギラ光ってるし、喉の奥から低音で唸ってるしで、恐怖心を煽られ続ける。


「ヴ、ヴゥゥゥゥ」


 黙っててください、という気持ちを込めて、【Cランク毒液】の瓶をもう一つ投げつけた。あんまり、効いている感じに見えないが、無いよりかはマシなはずだ。

普通の『鑑定』なら状態異常になっているか判別できるが、俺が持っているのは『薬草鑑定(A)』だ。薬草の名前とか、何の薬になるかとか、薬草図鑑を持ち運ぶ手間が省けるくらいの能力しかない。

麻痺毒の効果が切れたとき用に、麻痺毒の瓶を右手に握りしめながら、テントの裏に隠れた。


 不本意だが、今回に限っては不良どもを頼らなければならない。毒が効いていればまだしも、そんな気配すら見せないやつとタイマンとか、勝率ゼロだ。

大きなテントの影に入って、つい安心してしまったのだろう。

ダンジョンで幾人もの冒険者を殺めてきた歴戦の狩人相手には、十分過ぎる致命的な隙だった。

生暖かく背筋が思わずゾクッとするような空気が、俺の首筋を撫でる。それが何を意味するのかに気付いたときには、もうすでに遅かった。

俺の真横に、やつの顔があった。

死を連想させるほど赤い目、自分の影からさえも飛び出して来そうな恐怖を感じるほどの黒い毛。そして、何より強者が放つ独特の殺気。

それは、俺の体が押しつぶされそうになる、決して地球では感じ得なかったものだ。

殺気を向けられることには耐性があったはずだが、久しぶりに恐怖を感じた。心臓も自分の仕事を忘れるほどの恐怖、いや敗北感、言うなれば既死感だろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。お、俺は」


 目を細めて笑ったように見えた。

それから先は記憶の断片しか思い出せない。体が本能的に記憶を封印しているからかもしれないが、一瞬のことだったことは覚えてる。

彼の牙がキラリと銀色に光り、俺の目の前に小さな噴水を作った。堰を切ったように、俺の体から液体が吹き出す。

視界がどろりと赤く染まってゆく。

それはどんなホラーゲームのよりも生々しく、ただ淡々と死を告げる。

そのヌメッとして、不快感な鉄の匂いを含んだ水が、血だと認めるのに何秒かかっただろうか?

今まで他人に流され続けてきたことが、この結果を生んだと認めるのに何秒かかっただろうか?

中途半端な覚悟だったことが、俺の全ての元凶だったと認めるのに何秒かかっただろうか?

死を前にしてやっと、自分の愚かさに気付いた。

ほんと、俺はダメな奴だ。

中途半端なくせに、変なところで格好つけようとするから……ハハハ。

思わず笑ってしまった。


(もっと早く気付けていれば、もうちょっとマシな死に方ができたかもな)


 その時、何かのたがが外れた音がした。

今まで押し殺してきた、目を逸らしてきた、触れないようにしてきた感情がどろりと俺を飲み込んでいく。

胸の痛みが増幅されていく。

やがて、それは上へ上へとひたすら渦巻き、俺をすっぽり飲み込んだ。

薄れゆく意識の中で、心に呪に近い誓いを一つ立てた。


(もし来世があるなら、あとで後悔しないために、俺が進みたいと思う道を選ぶ。もう二度と、思考の放棄をして周りに流されない)

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