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2、準勇者パーティー①

 ジョブ鑑定が終わってから、クラスの連中は遠足にでも来ているかのように、きゃっきゃと騒いでいる。

俺の周りだけ葬式のような重い空気が流れていて、他の連中の周りにはヘリウムガスが充満しているようだ。

この後起こるであろうことの大変さを全く憂えずに。

黒光りしている石造りの柱にもたれると、ひんやりとした冷たさが背中から伝わってくる。

今朝、紙で手を切ったところが、ズキンと痛んだ。


(……やっぱり、現実なんだ)




 皆が希望に心を膨らませて歓談している中、俺の隣りにいるのは部屋の柱だった。

まあ、これが俺の意志だからな。

俺だけの世界に浸っていると、誰かが近寄る足音で、引き戻された。誰かと言っても、俺に好き好んで近付いてくる奴なんて、一人しか考えられないが。


「ねえ、藤堂君はどう思う?」

「何がです?」


 両親も含めて、この人だけが、俺とコミュニケーションを取ってくる。

もしかしたら……と考えたこともあったが、モブキャラは大人しく王子様とお姫様がくっつくのを眺めているのがふさわしい。


「王女よ」

「ああ、あれですか。一般的には『可愛い』に入る部類なんじゃないですか」

「あら、あなたは違うの?」


 いつもはクールなこの人の声が、なにやら楽しげだ。

それとは裏腹に、俺はこれ以上の悪評を立てないよう気を使うのに、結構精神を使う。

これ以上、どこぞのヤンキーに絡まれるのは面倒だ。足音を立てただけで睨まれるのも、勘弁して欲しい。


「俺の周りにいる女子の平均と比べたら、差がありすぎですよ」

「あら、平均を取る程いたのね」


 正論なのだが、なんかムカつく。これだから、お高く止まった女帝様は。まあ、あの王女よりかはマシだ。ただ本質的には、あまり変わらないように思う。

この人相手に、誤魔化すのは無理だ。

確か、今の状況についてだったか。


「話を戻すと、あいつらのために命を懸けるのは論外です。まず、王女からして気に食わない。俺たちを道具としか見ていません」


 これだけは断言できる。

あいつは、親父と同じ目をしていた。


「さすが道具未満が言うと、説得力あるわね」

(なんで、そこで語尾を弾ます!)


 転生したら、悪役令嬢ルート一直線であろう委員長様は放っておこう。ストレス許容値がもう限界を迎えそうだ。

さっきから、不良の親玉、十条なんとかが俺を睨みつけている。全く悪いとは思っていないが、ごめん、とだけは心の中で言っておく。


「ほら、委員長、用が済んだなら、向こう行ってください」

「おい、藤堂! その態度はねぇだろ。てめぇ」


 俺史上一番ウザい絡み方をしてくる奴の尻尾を、うっかり踏んでしまったようだ。駄犬を超えて、躾のなっていない猛獣に等しい。

ちなみに、対処方法はまだ見つかっていない。

髪を染めて制服を着崩しているあたり、ひと目見ただけで分かるほどの不良だ。その赤い髪が発火して丸焦げになればいいんだ。

まあ、こいつに面と向かって対峙できるのは、委員長と上大路と虎の威を借る狐どもくらいだろう。他の連中は、磁石のN極同士のように、一定の距離を保って行動している。

俺もその「他の連中」のはずなのだが、誰かさんが強烈なS極のせいで、俺のN極は打ち消されてしまう。


「おい、聞いてんのか!」


 できれば、能動的な「listen」じゃなくて、勝手に聞こえてくるだけの「hear」の方でいたい。いや、そもそも耳を塞いでしまいたいくらいだ。

ラブコメは他所でやってくれ。

腕力じゃ勝てないし、調合師だから戦闘力は全く期待できなさそうだし、もう面倒くさいから、平和的解決に臨もう。


「委員長、そろそろ戻ってください。皆をまとめないと」

「また、振られちゃったわね。十条君、行きましょう」


 敵対心より憎しみを感じる視線で俺を睨んでから、委員長の隣まで走っていった。なんだ、躾はできてるじゃないか。全部、主人が悪いということか。

俺がこいつに睨まれる原因の一つは、委員長だと思うのだが、そんなことを言っても、あの人が変わることはないだろう。

それに、どうしてか分からないが、それが原因かもしれないけど、あの人と話すのは疲れるから、このまま柱になり続けよう。

もちろん、人柱は御免だ。


「おい、行くぞ!」


担任の低い声が響く。




 てっきり、国王と面会するのかと思ったが、それぞれの部屋に案内された。

俺の部屋の隣が、例の不良なのは気になるが、俺たちが泊まるはずだったホテルよりも豪華なのは間違いない。だって、布団じゃなくてベッドだし。

少なくとも、俺は複数人で同じ部屋に入れられるより、一人ずつ部屋を割り当てられる方がいい。誰かに気を使う必要はないし。


ベッドの上に、俺の着替えらしきものがあった。

ボタンを外すのは面倒だが、今着ている制服は汗で湿って、気持ち悪いから、これに着替えることにしよう。

肌触りが使い古した雑巾みたいにパリパリなのを除けば、動きやすくて良い服だと思う。

ホコリが溜まった窓に映る自分を見ると、これからの生活が億劫になる。


さっき教えてもらった方法で、自分のステータス画面を開くと、異世界に来たんだなぁと実感する。ラノベでなら読んだことがあったが、実物を見ると、なんとも感慨深い。

そういえば、いくつかスキルを持っている。

例えば、スキル『薬草鑑定(A)』は、その名の通り薬草の鑑定ができる。ほら、この部屋の隅でこごえている植物だって薬草らしい。

何回見ても、すぐ魔物に食われそうなステータスは変わらないが、ステータス画面を開いては閉じるのを繰り返していた。

それをするのが虚しくなった頃、夕食ができたと委員長が部屋に顔を覗かせた。


「あら、似合ってないわね」


 俺もそう思うから、そう言われるのは別に構わない。

でも、わざとらしくプッと笑うのはいかがなものかと思う。いや、ほんと、他人の嫌がるところを正確に突いてくる。

少しムッとしたので、

「何を着ても似合う女帝様は、さぞ俺が哀れに見えるでしょうね」

と言い返してやった。


「あら、そうでもないわよ」


 皮肉にしか聞こえない謙遜を聞き流しつつ、食堂に向かった。

建物だけで学校の三倍はあるのに、どこにも案内図がないのには苦労しそうだ。

ちなみに、夕食はすごく美味しかった。




 翌日からは、五チームに分かれて、授業が始まった。

この世界の知識や、剣術と魔法の授業や、戦闘の実践練習など、この世界で生きる以上、有用そうな授業が始まった。

一番気がかりなのは、俺が準勇者チームに入れられてしまったことだ。

魔王との最終決戦を見据えた勇者チーム、魔族や魔物の殲滅を目的とした準勇者チーム、強いアイテムなどを集める攻略チーム、資金集めや防衛や研究や開拓などをする雑用チームが二つ。

この中だったら、開拓要員になると思っていたのに……。俺、料理なら作れるし。


「は! なんで、お前がここにいるんだよ」

(いや、こっちのセリフだわ。どうして、お前がここにいるんだよ!)


 明らかに嫌そうな顔をしている。

俺だって、したいさ。どうして、不良どもと同じチームに入れられるんだよ!

考えられる中で、相性が最悪のチームができてしまった。ほんと、この中に委員長が入ってないのは僥倖としか言いようがない。

「まあ、頑張りなさい」と笑いながら言う、励ましてんのか、煽ってんのか分からない委員長の顔を脳裏から消しつつ、椅子に座った。

不良のリーダーと対角の位置にだ。

真横から圧力を受けるか、ヤンキー面で睨まれるか、その二択を考え抜いた結果だ。

調合師の俺は、結構投げやりな感じに、剣と体術の訓練を受けさせられた。もちろん、いつも部屋にこもってパソコンの画面ばかり見ていたのに、急に剣を持てとか言われても、そんな腕力はない。


「おい、もっと腰を落とせ!」


 いや、腰を落としたら、剣の重さで両足が地面についたまま動かないんだが。

やっとの思いで、木刀を振り上げても、木刀の重さで体がよろめくのを見た指南役がため息をつくのが関の山だ。

若干期待したのだが、都合よく魔力があるわけでもなく、半ば呆れられて、図書館で自習することになった。

だって、仕方ないじゃん。始めからステータスが高いお前ら戦闘職とは違うんだよ!

そう毒づきながら、ドシンと椅子に座った。

まあ、読書は好きだから、苦行ではないのだが、食事の時クラスメイトが「訓練、きつー」「まめができちゃった」「魔法、楽しいー」などと騒いでいるのを聞くと、疎外感を感じた。

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