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1、ここは異世界?

 県境の長いトンネルを抜けると異世界であった。

パロディを込めて言ってみたのだが、文学少年気取りの言い回しは、やっぱり俺には似合わない。半ばオタクには、こっちの方が似合う。


「え、ここはどこ? この西洋風の部屋......まさか、異世界!?」


 クラスの連中がゴミを見るような視線を送ってきた。

おそらく、心の声に漏れてしまったのだろう。

顔が熱くなってくるが、俺の妄想は収まるところを知らない。

だって、嫌気が差していたあの生活から離れ、今までと全く別の人生を始められるかもしれないのだ。

さっさと、平穏に田舎で暮らしたいものだ。だいたい、ラノベの定番として、王族に関わると、ろくでもない権力闘争に巻き込まれるのがお決まりの展開だ。


「ようこそ、勇者様方、エルフォート王国第一王女エリーゼ・エルフォートです」


 俺の想像通りだ。

さすが、異世界転移のお約束は破られない。


「皆様、ようこそおいで下さいました。混乱されている中、申し訳ありませんが、ジョブ鑑定をしてくださいませんか?」

「おい、ここはどこだよ!」

「普通にダルいから、帰らせろよ」

「ていうか、そのコスプレ、センス無くね」

「お姫様ぶってんの? ちょー、キモいんですけど〜」


 反抗期真っ盛りの連中が、宅配便のお兄さんに執拗に喧嘩腰になる駄犬のごとく、ワンワンと吠えている。

いつも偉そうにしていた担任はというと――はぁ、腰を抜かしてキョロキョロしている。これだから、オタクを殲滅しようとしている教師はいかんのだ。

秩序を失ったスクランブル交差点のような騒々しさの中、ある二人が前に出た。

俺と違って、桜が舞い、心も舞い、女子のスカートも舞い上がる青春街道を駆け抜けている、平賀学級委員長の懐刀、上大路優斗が口を開いた。

地球でも、眉目秀麗、文武両道、聖人君子、探せばいくらでも褒め言葉が出てくる。元から、チートなんだから、異世界で強化されたら、勇者を超えて亜神にでもなりそうだ。


 まあ、こんなこと言うと、「僕なんて、まだまだだよ」とか言って、女子からの好感度を総じて上げるだろうが。

だいたい、一人称が「僕」の男は嫌いなんだ。

これが偏見に姿を変えた僻みなことは分かっている。だが、俺もいくらか遺伝子が異なっていたら、ああなっていたかと思うと、嫌味の一つも言いたくなるのである。まあ、直接言えはしない。

対等にやり合えると思ってはいないが、俺の好きな子が告白しては断られているのを聞くと、恨みがましくも思ってしまう。


(ていうか、女子連中もきゃあきゃあ、うるさいんだよ!)


 パンダでも、コアラでもなくて、ただの男のどこに奇声をあげるほどのものがあるんだか。


「はい。皆、静かに」


 思考が脱線している間に、委員長が上手く皆をまとめたようだ。二昔前の国会のような喧騒は過ぎ去っていた。


「私は、平賀時雨です。私たちが置かれている状況を説明していただけないでしょうか?」


 さすが、学級委員長。こんな訳が分からない状況でも、いつも通りの頼りになる委員長のままだ。

まあ、俺は八方美人な彼女は苦手だ。

礼儀正しい言葉遣いだが、言葉に芯があって、絶対に断われない威圧感がある。スキル『威圧』とかをデフォルトで持っていそうだ。


「ええ、もちろんですわ。勇者様方はこのエルフォート王国の窮地を救うために勇者召喚によって、異世界

から転移して頂きました。混乱されているのに申し訳ないのですが、どうか、エルフォート王国の幾十万もの民をお救い頂けませんか?」


 涙ながらに、そう訴える王女。

まあ、なんとも演技っぽいが、こんな美人にここまでされると、それが嘘と分かっていても男としては騙されたふりをしないといけない気がする。

だが、委員長は女子だ。

女子、それに大人相手でも萎縮しない男勝りの委員長に、対男子特化攻撃が通用するはずがない。


「それは、私たちに命を懸けて、見ず知らずの人を助けろ、ということですか?」

「勇者様方には、それに足る力があります。ならば、何百万人という尊い命のために、少しお力添え頂けないでしょうか」

「それは任意ですよね。なら――」

「それでもいいですが、その場合は朝から晩まで、王国の監視の目が光り続けますよ。万が一、勇者様方がお怪我でもなさったら大変なので」

「それは、脅迫っていうんですよ。そんなだから、あなたの国は!」

「そうですか......」


 声のトーンが落ちたかと思うと、さっきまでの勇ましさはどこに飛んでいってしまったのか、王女はフラリと上大路優斗の方に倒れた。

自分は、働きすぎで心労が溜まったシンデレラだとでも言いたいのだろうか。

予想通り、これを上大路が支える。


「すみません、ほとんど寝ていなくて」


 委員長が鋭い目を、隈一つない王女に向けた。もしかしたら、上大路に向けたのかもしれない。

やっぱり、委員長も呆れるほどに分かっているのだろう、王女の演技を。

そういえば、この鋭い目と目を合わせると、不良だろうがビビって体が動かなくなることから、その昔「委員長はメドゥーサの生まれ変わり説」が提唱されていた。もちろん、そんな真実、いやデマを広めた奴らも、あの鋭い目で石化の餌食になった。

委員長が上大路に視線を戻すと、初心者殺しのダンジョンボスのような視線は消え、半ば諦めた顔になっている。


 肩を落として、口を開いた。


「ねえ、優斗」


 まるで、我が子を心配するお母さんの口調だ。


「どうしたんだ、時雨?」

「まさか......」

「ああ、助けてあげよう。僕たちの指針も必要だし、他にすることも無いだろう? それに、困っている人を見て見ぬふりはできない」


 俺が読んでいたラノベの主人公のような、イタイ文句を述べている。しかし、彼が言うと、格好が付くから、人間とは不公平なものだ。

それに、

「そうね、優斗の言う通りよ。手を貸してあげたって」

「異世界で冒険なんて楽しそうだしね」

「怖いなら、委員長はお城に残っていれば、いいんじゃないですか?」

そう、この彼の意見を支持する仲間の数である。

クラスの女子の半分ちょいと、上大路優斗親衛隊の男子たちと、彼らに従うのが吉と考えた平和主義者は基本的に、異を唱えない。むしろ、仲間はずれを回避するために、我先に賛成する。

俺には、ただの独裁政権にしか見えないが、それで上手く回っているのだ。わざわざ、水を差すようなことはしない。ということで、もちろん俺も賛成だ。


 しかし、いくら表で彼が活躍したとしても、裏から全てを牛耳るのは委員長なのであろう。

嫉妬と諦めがこもった視線を上大路に送ると、偶然、委員長も俺と半分同じような視線を送っていた。


「時雨、皆のことを守りたいのは分かる。ただ、皆の意見も聞くべきじゃないか?」

「でも、これは明らかに......いえ、分かった。あなたに任せる」

「僕を信じてくれて、ありがとう」

「どうやら、お話はまとまったようですわね」


 ここぞとばかりに、勝ち誇ったような顔をした王女が話に割り込んできた。

フラリと倒れた王女とは、まるで別人のようだ。


「はい、僕たちはあなたにご協力します。ただ」


ちらりと委員長を見てから、言葉を足した。


「危険だと判断したら、僕たちの命を優先させてもらいます」


 いや、その「危険」は誰が判断するんだよ。

まあ、どこぞの独裁者がやってくれるのであろう。でも、天才気質のこいつ基準で図られても、凡人以下には耐えられそうにない。

「はい、それで結構です。皆様の命は大切ですから、他の些末なことより、生還することを第一に考えてください」




 話が付いたところで、ジョブ鑑定が始まった。これによって、パーティー編成やこれからすることが変わるらしい。

学生の性分的に、出席番号順に鑑定することになった。


「......藤堂」


 やる気の無さそうな野太い担任の声が聞こえた。俺の番だ。

堅苦しそうな勇者になりたいとは思わないけど、人並みなジョブにしてくれと、異世界ならいそうな神様に祈りつつ、鑑定石とかいう青白く光る石の前に立った。

ここが異世界でなかったら、デカいLEDライトにしか見えない。


「右手で触れてください」

「はい」


 ゴクリと唾を飲むと同時に、石が光ったが、なにやら今まで出ていない色に光った。

自分だけレアなジョブかもと思いそうになったが、全く期待できない。第一、そこらのクラスの連中ならまだしも、上大路や委員長より良いジョブなら、逆に神様の頭を疑う。

それに、上大路が全ジョブの頂点の勇者、委員長が魔法系の頂点の賢者、他にも色々強そうなのも出てた。今までかぶりが出ていないことを考えると、ショボいのしか残っていない気がする。


「これは!」


 鑑定師が目を見開いた、ように見えた。


「うーん、ただの調合師ですね」


 上がりかけていた俺の視線は、元よりもさらに深く、俺のボロボロの革靴まで下がった。

いや、上げてから落とすのは反則だろ。

――でも、まあ納得の結果だ。日陰者の俺には、ちょうどいいのかもしれない......。


「はい、次の人」


 読経のように何の感情もこもっていない、全く期待してませんよ、とでも言いたげな言葉で、俺の異世界ライフが始まった。

いや、もう終わるかもしれない。

ダンジョンで雑魚敵に殺されるか、銃後でクラスの連中に蔑まれながらこき使われるか、無一文で城外に追い出されるか、どのみち俺はお先真っ暗だ。

物心ついてからの定点ポジション、柱の横に立った。

自分も柱だと言い聞かせて、ラノベの世界を眺めていた。




 最後に、「働きたくない、不労所得が欲しい」が口癖の担任が大商人というジョブを引いた。

俺としては、詐欺師あたりが丁度いいと思っていたのだが、俺より良さげなジョブでなんとも言えない。

あいつよりは、俺の方が幾分かマシだと思うのだが。


「では、国王陛下に報告してきますので、しばらくお待ちください」


 鑑定師の隣りに座っていた記録係っぽい人が部屋を出ていった。


 俺の異世界ライフは早くも、終わりの鐘を告げている。

調合師......調合師かぁ......てか、調合師ってなんだ?

響き的に、ゴブリンどころかスライムにすら勝てない気がするんだが......気のせいだよな?

本当に、何を調合なさるんだか。

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