24、異世界産コーヒー①
気づいたら、ブックマーク登録や評価して頂いた読者の方が増えていて、喜びで手が震わせながら、このテキストをタイピングしています。
健全な「スパチャ」感覚で、これからもドシドシお願いします。
本当にありがとうございました。
採れたて新鮮な薬草で、【HP回復ポーション】【MP回復ポーション】【疲労回復ポーション】を十本ずつ作った。本音を言うと、【疲労回復ポーション】は俺が使いたいのだが、さすがに商人に手を付けるわけにはいかない。
俺が草原に向かった一時間後、ケーニッヒ商会の前に白衣に身を包んだ男が現れた。
出入り口の手荷物検査は、顔パス。変装道具を取られるのはマズいので、本当に助かる。
エントランスにいる他の商人たちが、ギョッとした目でこちらを見る。覚悟していたが、恥ずかしすぎて死にそうだ。
受付の人まで、失笑している。
こっちは顔パスとまではいかないが、「ケーニッヒ商会との契約書」を見せれば、直でハンスさんと面会できる。
今日通された部屋は、随分手前にあった。無駄に長い廊下を歩く必要もなく、これぞVIP対応だ。受付の人曰く、俺はダークホースらしい。
まあ、ダークキャットじゃなくて良かった。猫は間に合っている。小うるさい黒猫と、元気すぎる白猫の世話だけで、もう手いっぱいだ。
「遠路はるばる、よくぞお越しくださいました。実のところ、契約の内容を忘れられたのかと思い、内心冷や冷やしていましたよ」
「そうでしたか、それは申し訳ない」
ケーニッヒ商会との契約の内容は今のところ、こうだ。
まず、俺が毎週月曜日に【HP回復ポーション】【MP回復ポーション】【疲労回復ポーション】を十本ずつタダで納める。これらを商会がブランド『カイザー』の商品として売り出す。そして、その売上の五割を俺が貰えることになっている。
「いえいえ、おかげさまで儲からして頂いております」
このブランド『カイザー』は、ケーニッヒ商会に毎回定額で買い取ってもらうのではなく、代わりに売ってもらい売上の五割を納めてもらう、という形を取っている。
場所と人員は商会が、商品は俺が負担するということだ。
「どうぞ、今回の分です。いくら高性能のものとはいえ、始めから高額ですと手に取られづらいと考えまして、まずは一本一万ピロで発売したところ、三日足らずで完売しました。いやはや、新商品というのに、すごいものです」
「どうぞ、今回の分のポーションです。赤が【HP回復ポーション】、青が【MP回復ポーション】、黄が【疲労回復ポーション】で、各十本ずつあります」
「ええ、確かにいただきました。さて、今日の本題はこれです」
真剣な顔で本題と言うから、こちらも気を張って椅子に座り直したのに、ハンスさんの手の上にあるのは――コーヒーだ。
昔ハマっていたから嬉しいのだが、美味しいかと問われると、微妙としか答えようがない代物だから、両手を上げて喜べない。この世界のコーヒーが、実は高級品だったと知ってからは、まだ美味しく感じる。だが、ミルクも砂糖もお菓子もなく、単品で出されると、ただの黒い液体にしか見えないのだ。
「ハンスさんは、ブラックだけですか?」
「……ブラック?」
まさか、ブラックしか無いのか、というかそのまま以外の飲み方はこの世界にないから、ブラックなどと命名する必要がないのだろうか。
(なるほどねぇ)
俺のゲーム魂が叫んでいる。これは金になる。
「ハンスさん、コーヒーで世界を取りたくないですか?」
「ほぉ、興味深いですね」
飲んでいたコーヒーを机において、俺に向き合う。
その目は、近所のおじさんから、もう商売人、いやマニアのものに変わっている。
「実はですね、このコーヒー、もっと美味しく飲めるんですよ」
「えっ、本当ですか! どうするのですか?」
珍しく、ハンスさんが息巻いている。
「ハンスさん、取引をしましょう」
「あ、そうでしたな、失礼。つい、興奮してしまいました」
一度立って、服の皺を伸ばしてから、もう一度席についた。
「商談の前に一つ質問です。コーヒーは、どのくらい世間に広まっているのですか?」
商売をするには顧客を把握してから、とどこぞのゲームキャラが言っていた。
「そうですね、商人仲間では結構広まっておりますが、一般市民にはまだかと」
「貴族はいかがですか?」
「そうですね、まだ紅茶が席巻していますね」
「どのようにコーヒーを淹れていますか?」
「砕いて、茶こし付きのポットに入れ、熱湯を注いでいます」
「そうですか。では、ハンスさん、私が持っているのは三つ。コーヒーの作り方、楽しみ方、売り方です」
うーんと唸りながら、両手を組んで、少し下を向いて考え始めた。
「なるほど……それで、ドクトルのご要望は?」
「私としては、楽しみ方をお伝えし、売り方の意見も差し上げます。なので、コーヒーを一度私に卸して頂きたい。より美味しいものにして納品させて頂きます」
「なるほど、コーヒーの人気を上げ、大本は押さえる、ということですか。……いいでしょう、さすがドクトルです。ポーションで儲けさせて頂いておりますから、その案にのりましょう。それで、良い売り方、楽しみ方とは?」
俺の目の前に、コーヒー豆の入った袋をドシンと置く。なんだか、脅迫されている気分だ。
どれだけ、この人はコーヒーが好きなんだか。
「目が細かい布を用意できますか?」
ハンスさんが机の脇に置いてあったベルを鳴らした。
チリンチリン、という音が鳴り終わる頃に、メイドさんが入ってきた。
「目が細かい布を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
メイドの人は一礼すると、厳かに部屋から出ていった。
ドアが閉まる音とともに、ハンスさんが話し始めた
「ところで、美味しい楽しみ方とは?」
「紅茶のそれと全く同じです。ミルクや砂糖を入れたり、甘いお菓子と食べたりです」
「同じ……?」
ハンスさんがキョトンとした顔で、こちらを見る。
期待させてから落としてしまったが、仕方ない。俺の飯がかかっているんだ。犠牲はつきものだ。
「はい」
「ハッハッハ、なるほど同じですか。いやぁ、一本取られました」
その時、ドアが開いた。
「布をお持ちしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「承知しました」
メイドさんが来ると、真面目な顔をするのは、主としての威厳というやつだろう。
しかし、彼女がいなくなると、十歳は若返ったような顔になる。
「で、売り方というのは? まさか、布にくるんで売れ、とかでは無いでしょうな?」
「ええ、期待にそえるかと」
ちょうど豆を砕く用の、すり鉢とすりこぎ棒があって良かった。さすがにコーヒー好きの目の前で、短剣でコーヒー豆を潰すのは問題がありそうだ。
「すり鉢とすりこぎ棒、お借りしますね」
「ええ、どうぞ」
始めは叩いて砕く。ガリガリと心地の良い音と振動だ。
そして、粉に近付くと、ジャリジャリと砂浜を歩いているような音になる。
「結構、細かくしますね」
コーヒー豆から油が滲み出てきて、すりこぎ棒がテカテカ光りだしたら、止め時。この油も旨味の一つとなるのだ。
中身をこぼさないようにそっと持ち上げて、ハンスさんの方に傾けた。
「このように、油が出てきたら止め時です」
「なるほど、それで?」
布を一枚取る。
(この布なら、大丈夫そうだ)
「まず、布を袋状にします」
ポケットから取り出した針と糸で、半分に折った布の両脇を縫っていく。
ハンスさんの顔が近くて、手元が狂って刺さらないか、心配だったが、無事に乗り越えた。
「砕いた豆を適量入れます。商品として売り出す場合には、砕いた豆を入れた後に、軽く口を止めると良いです。そして、これをコーヒーパックと呼びます」
今出来上がったばかりの自家製コーヒーパックに、熱湯を注ぐ。
上手くできるか心配だったが、昔どこかのわがままお嬢様のために作っていて良かった。この時ばかりは、彼女に感謝だ。
コーヒーの香りがふんわりと部屋を包む。
ポットの漏れ出るような香りもいいが、やはりコーヒーはこれに限る。
時間の流れが遅くなっていき、心が体の外へ、窓の外へ、広い世界へと溶けて広がっていくような心地に、彼らはどっぷり沈んでいった。
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