21、ダンジョン探索(火)①
グラディア魔鉱ダンジョンに行くのは止めて、確実性を取ることにした。
ダンジョン探索をして見つかればそれで良し。見つからなくても、貯まったお金で買う。という方針だ。
ラビリスの八大ダンジョンは、火と水、氷と土、雷と風、光と闇の順に難易度が上がっていくらしいので、まずは一番簡単な火のダンジョンからだ。
準備期間がほとんどなく、今までのポーションに加え、【熱耐性ポーション】が四つまでしか製作できなかった。
とはいえ、放っといたら、勝手に攻略を始めそうだったので、仕方なく攻略を開始することにした。話に聞いたところ、難易度はそこまで高くなく、初心者用ダンジョンらしいので、一安心だ。
フィーには【MP回復ポーション】、セリアとユリアには【AGI増加ポーション】を渡しておいた。
ダンジョンに入るやいなや、走り出したユリアの首根っこを掴みながら、火のダンジョン攻略開始だ。
〈一階層〉
早朝から働く殊勝な冒険者たちのおかげで、ほとんど魔物はいなかった。
所々にいるスライムは、ユリアがケンケンパの要領で、潰していく。そして、ドロップアイテムをフィーが拾う。
「つまんな〜い」
「つまんな〜い」
二人が交互にぼやく。
俺とセリアなんか、彼女らの後をついて行くだけだ。ダンジョンに潜っている気すらしない。
はぁ、とセリアがため息をつく。
「早く行きましょう」
〈五階層〉
ダンジョンを散歩しているだけで、五階層まで来てしまった。
さほど体を動かしていないが、だんだんと背中が汗ばんできた。ダンジョンの壁の色も、階層を降りるごとに赤に近付いている。
「わぁ、ウサギさんだ!」
先導するフィーとユリアの前に、ウサギが現れた。
昼食の支給というわけではないだろう。
「気を付けろよ」
「ユリアに、任せなっさい!」
ユリアが拳を構える。
ウサギの目が赤く光った――その瞬間、ユリアの足元をすり抜けて、俺に向かって突進してきた。
「俺かよっ!」
「お兄ちゃん!」
俺の視界いっぱいに、ウサギが映る。
回避をいれようとしたその時、ゴンッという音が鳴り、目の前にウサギが落下した。すかさず、セリアがトドメを入れる。
「ありがと、フィー」
「ううん、『夫婦で守って守られあえば最強』だから」
ドロップアイテムを拾ったセリアが俺に尋ねる。
「ねえ。あれ、あんたが教えたの?」
「いや、どこで聞いてきたのか、突然言い出したんだよね」
「で、どうして夫婦なの?」
「さぁ.....」
ユリアが口元に手を当てて叫ぶ。
「じゃあご主人様、頑張ってねぇ」
いや、俺一人であのウサギを倒すのはキツいんだが。
というか、どうして急にそんな話になったのだろうか?
「まさか、気付いてないの?」
「どういうこと?」
「さっきのあれは、レッドラビット。最も弱い人を襲うのよ。で、このパーティーで最も弱いのは――」
「俺か」
「そういうこと。まあ、精々頑張りなさい」
そこからは、悲惨だった。
三人に俺の周りを警戒してもらうのだが、あいつらは正確に俺を狙って突進してくる。
フィーの結界が間に合わなくても、【五感強化ポーション】でギリギリ回避できるのだが、急に飛んでくるもんだから、心臓に悪い。
「やっと、越えたぁ〜」
階層と階層の狭間にあるセーフティーポイントで、今日は休むことにした。
体より、心が疲れた。
「ご主人様ぁ、ここに美少女の膝枕がありますよぉ〜」
ユリアが両手を広げて、正座している。
その右を見ると、セリアがテントを張っている。
――じゃあ、テントだな。
千鳥足でテントに近寄っていく。ユリアは、一瞬輝かせた顔をふくれっ面にしている。
「む〜。お姉ちゃんの色香に惑わされるとは、修行が足りないぞ、ご主人様!」
「何言ってんのよ? 暇なら、テントか料理か手伝いなさい。……ちょっと、あんたも何してんのよ! 避けてばっかだったんだから、ちょっとくらい手伝いなさいよ!」
「えぇ〜」
「ユリアも寝るぅ〜」
ユリアが俺の隣に倒れ込んできた。
汗の匂いが、鼻腔をくすぐる。しかし、だらけモードになった俺の気にするところではない。
屋根があるという安心感が、俺たちに時の間の休息を与える。このまま、毛布の上で溶けていきそうだ。
今日この時をもって、「ぐうたら同盟」は結成されたのである。
意味もなく、二人の口からあくびが漏れる。
「……ふぁ〜」
ユリアが寝むそうな声をあげる。
「もー、動けないねぇ」
「そーだなぁ……」
会話と会話の間が、心地よく過ぎてゆく。
もう、まともな会話をする気力もない。ただ、時間だけが過ぎてゆく。
「はーい、お風呂ができましたよぉ」
風呂、という文字列に反応して起こしかけた体が、一点を凝視したまま固まる。眠い眼をこすってみるが、やはり視界に映っているものは現実らしい。
グツグツと泡を出しながら煮えたぎる鍋を持ったセリアが、こめかみに青筋を立てながら、テントの入口を塞ぐように仁王立ちしている。そして、その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
俺とユリアは顔を見合わせた。
「さて、俺はフィーの手伝いでもしようかな……。ウ、ウマい飯、作るぞー!」
「あ、ユリアは……みんなのお皿を出すぞー、おーっ!」
脱ぎ散らかした靴を履き直して、生存本能の元、持ち場に向かった。
セリアは、腕をプルプルさせながら、熱湯の入った鍋を焚き火の上に置いている。そっか、スープを作る途中だったのか。
「フィーは料理できるのか?」
「ううん、今勉強中。セリアお姉ちゃんに、お料理を教えてもらってるんだ」
「そっかぁ。セリアはもう、いいお嫁さんになれるね」
「っ! フィ、フィーも頑張るから、待っててね」
フィーの手料理か。
どうせ、光の魔石以外で、この異世界で特に急いでいることは無いのだ。待てないわけがない。
「楽しみにしてるよ」
「うん!」
「コ゚ホッ、ゴホッ」
咳をする音に振り返ると、セリアが手で口を押さえている。
「セリア、大丈夫か?」
「ゴホッ……余計なお世話よ! 誰のせいだと思ってんの?」
「ご主人様ぁ、そういう時は『俺の嫁になってくれ』って言えば、いいんだよ」
ユリアがまた、訳のわからない茶々を入れてくる。
セリアが鍋から、お玉を引っこ抜いた――彼女の手に強く握られたそれは、すぐに彼女の手から旅立った。くるくると高速で回転しながら。
「いてっ!」
ゴトッ、とお玉がユリアの足元に落ちた。
「やっぱり、お仕置きがいるのかしら、ユリア?」
再び、仁王像の形相に戻ったセリアが、菜箸を持ってユリアに襲いかかる。危険を察知して、さっと逃げ出すユリア。
「ちょっと、待ちなさい!」
「ン二ャッ! ご主人様ぁ、助けてー!」
ごめんな、ユリア。
俺には、この世で逆らえないものが三つある。それは、頼み事をするフィー、キレたセリア、委員長だ。悪く思わないでくれ。
夕食は、二人とも息をハアハア切らして、よろよろと席に座り込んだところで始まった。
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