表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/45

21、ダンジョン探索(火)①

 グラディア魔鉱ダンジョンに行くのは止めて、確実性を取ることにした。

ダンジョン探索をして見つかればそれで良し。見つからなくても、貯まったお金で買う。という方針だ。

ラビリスの八大ダンジョンは、火と水、氷と土、雷と風、光と闇の順に難易度が上がっていくらしいので、まずは一番簡単な火のダンジョンからだ。

準備期間がほとんどなく、今までのポーションに加え、【熱耐性ポーション】が四つまでしか製作できなかった。

とはいえ、放っといたら、勝手に攻略を始めそうだったので、仕方なく攻略を開始することにした。話に聞いたところ、難易度はそこまで高くなく、初心者用ダンジョンらしいので、一安心だ。

フィーには【MP回復ポーション】、セリアとユリアには【AGI増加ポーション】を渡しておいた。

ダンジョンに入るやいなや、走り出したユリアの首根っこを掴みながら、火のダンジョン攻略開始だ。




〈一階層〉

 早朝から働く殊勝な冒険者たちのおかげで、ほとんど魔物はいなかった。

所々にいるスライムは、ユリアがケンケンパの要領で、潰していく。そして、ドロップアイテムをフィーが拾う。


「つまんな〜い」

「つまんな〜い」


 二人が交互にぼやく。

俺とセリアなんか、彼女らの後をついて行くだけだ。ダンジョンに潜っている気すらしない。

はぁ、とセリアがため息をつく。


「早く行きましょう」




〈五階層〉

 ダンジョンを散歩しているだけで、五階層まで来てしまった。

さほど体を動かしていないが、だんだんと背中が汗ばんできた。ダンジョンの壁の色も、階層を降りるごとに赤に近付いている。


「わぁ、ウサギさんだ!」


 先導するフィーとユリアの前に、ウサギが現れた。

昼食の支給というわけではないだろう。


「気を付けろよ」

「ユリアに、任せなっさい!」


 ユリアが拳を構える。

ウサギの目が赤く光った――その瞬間、ユリアの足元をすり抜けて、俺に向かって突進してきた。


「俺かよっ!」

「お兄ちゃん!」


 俺の視界いっぱいに、ウサギが映る。

回避をいれようとしたその時、ゴンッという音が鳴り、目の前にウサギが落下した。すかさず、セリアがトドメを入れる。


「ありがと、フィー」

「ううん、『夫婦で守って守られあえば最強』だから」


 ドロップアイテムを拾ったセリアが俺に尋ねる。


「ねえ。あれ、あんたが教えたの?」

「いや、どこで聞いてきたのか、突然言い出したんだよね」

「で、どうして夫婦なの?」

「さぁ.....」


 ユリアが口元に手を当てて叫ぶ。


「じゃあご主人様、頑張ってねぇ」


 いや、俺一人であのウサギを倒すのはキツいんだが。

というか、どうして急にそんな話になったのだろうか?


「まさか、気付いてないの?」

「どういうこと?」

「さっきのあれは、レッドラビット。最も弱い人を襲うのよ。で、このパーティーで最も弱いのは――」

「俺か」

「そういうこと。まあ、精々頑張りなさい」


 そこからは、悲惨だった。

三人に俺の周りを警戒してもらうのだが、あいつらは正確に俺を狙って突進してくる。

フィーの結界が間に合わなくても、【五感強化ポーション】でギリギリ回避できるのだが、急に飛んでくるもんだから、心臓に悪い。


「やっと、越えたぁ〜」


 階層と階層の狭間にあるセーフティーポイントで、今日は休むことにした。

体より、心が疲れた。


「ご主人様ぁ、ここに美少女の膝枕がありますよぉ〜」


 ユリアが両手を広げて、正座している。

その右を見ると、セリアがテントを張っている。

――じゃあ、テントだな。

千鳥足でテントに近寄っていく。ユリアは、一瞬輝かせた顔をふくれっ面にしている。


「む〜。お姉ちゃんの色香に惑わされるとは、修行が足りないぞ、ご主人様!」

「何言ってんのよ? 暇なら、テントか料理か手伝いなさい。……ちょっと、あんたも何してんのよ! 避けてばっかだったんだから、ちょっとくらい手伝いなさいよ!」

「えぇ〜」

「ユリアも寝るぅ〜」


 ユリアが俺の隣に倒れ込んできた。

汗の匂いが、鼻腔をくすぐる。しかし、だらけモードになった俺の気にするところではない。

屋根があるという安心感が、俺たちに時の間の休息を与える。このまま、毛布の上で溶けていきそうだ。

今日この時をもって、「ぐうたら同盟」は結成されたのである。

意味もなく、二人の口からあくびが漏れる。


「……ふぁ〜」


 ユリアが寝むそうな声をあげる。

「もー、動けないねぇ」

「そーだなぁ……」


 会話と会話の間が、心地よく過ぎてゆく。

もう、まともな会話をする気力もない。ただ、時間だけが過ぎてゆく。


「はーい、お風呂ができましたよぉ」


 風呂、という文字列に反応して起こしかけた体が、一点を凝視したまま固まる。眠い眼をこすってみるが、やはり視界に映っているものは現実らしい。

グツグツと泡を出しながら煮えたぎる鍋を持ったセリアが、こめかみに青筋を立てながら、テントの入口を塞ぐように仁王立ちしている。そして、その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。

俺とユリアは顔を見合わせた。


「さて、俺はフィーの手伝いでもしようかな……。ウ、ウマい飯、作るぞー!」

「あ、ユリアは……みんなのお皿を出すぞー、おーっ!」


 脱ぎ散らかした靴を履き直して、生存本能の元、持ち場に向かった。

セリアは、腕をプルプルさせながら、熱湯の入った鍋を焚き火の上に置いている。そっか、スープを作る途中だったのか。


「フィーは料理できるのか?」

「ううん、今勉強中。セリアお姉ちゃんに、お料理を教えてもらってるんだ」

「そっかぁ。セリアはもう、いいお嫁さんになれるね」

「っ! フィ、フィーも頑張るから、待っててね」


 フィーの手料理か。

どうせ、光の魔石以外で、この異世界で特に急いでいることは無いのだ。待てないわけがない。


「楽しみにしてるよ」

「うん!」

「コ゚ホッ、ゴホッ」


 咳をする音に振り返ると、セリアが手で口を押さえている。


「セリア、大丈夫か?」

「ゴホッ……余計なお世話よ! 誰のせいだと思ってんの?」

「ご主人様ぁ、そういう時は『俺の嫁になってくれ』って言えば、いいんだよ」


 ユリアがまた、訳のわからない茶々を入れてくる。

セリアが鍋から、お玉を引っこ抜いた――彼女の手に強く握られたそれは、すぐに彼女の手から旅立った。くるくると高速で回転しながら。


「いてっ!」


 ゴトッ、とお玉がユリアの足元に落ちた。


「やっぱり、お仕置きがいるのかしら、ユリア?」


 再び、仁王像の形相に戻ったセリアが、菜箸を持ってユリアに襲いかかる。危険を察知して、さっと逃げ出すユリア。


「ちょっと、待ちなさい!」

「ン二ャッ! ご主人様ぁ、助けてー!」


 ごめんな、ユリア。

俺には、この世で逆らえないものが三つある。それは、頼み事をするフィー、キレたセリア、委員長だ。悪く思わないでくれ。

夕食は、二人とも息をハアハア切らして、よろよろと席に座り込んだところで始まった。

気軽に感想を書いていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ