18、ラビリスにて①
馬車は日が暮れる頃に、俺たちの目的地であるラビリスに到着した。
今朝いたファーストンと同じダンジョン都市ではあるが、この二都市には、はっきりとした違いが一つある。それは、ダンジョンの質と量だ。
ファーストンは初心者用ダンジョンが三つあるだけだが、ここラビリスの周辺には、大小合わせて八個ものダンジョンが、ちょうど八芒星の各頂点にくるように存在している。そして、このダンジョンは、火、水、氷、雷、土、風、光、闇のそれぞれをテーマとしている。
なんとも、心躍る設定ではないか。
全部制覇するまで、この街に引きこもろう。俺は握りこぶしを作って、強くそう決めた。
「早くしなさいよ」
「ああ、悪い悪い」
俺たちはというと、圧倒的に不足していた日用品の買い出しに来ている。
ファーストンにいた頃は、長居するつもりはなかったから、極最小限のものしか買っていなかった。しかし、セリアとユリアも来た以上は、「健康で文化的な最低限度の生活」を送れるだけのものは買う必要がある。
第一、これから冬になるのだ。夜洗って、乾いたそれを朝着る、という技が使えなくなってしまう。
「あ、それ可愛い!」
「わぁ、ほんとだ。それ、いいね」
「あ、あれも良さそう!」
フィーとユリアが服を見ながら、キャッキャとはしゃいでいる。
女の子と遊んだことのない俺には、その輪に入るのはハードルが高すぎる。
というか、そもそも男一人でこんな場所に立っていたら、変質者かと疑われて騎士団に補導されかねない。
「セリア、一時間くらいで戻るから、二人を任せられるか?」
「ええ」
「そうか、ありがとう。セリアがいて、助かるよ」
「別に褒めても、何も出ないわよ」
ぷい、と横を向いているセリアに、財布を預けて、俺は冒険者ギルドへ向かった。セリアは財布の紐が硬そうだから、金庫番を任せても大丈夫だろう。
夕食時で賑わう飲食店街を通り抜けると、一際大きい建物が見えてきた。看板には「冒険者ギルド」と書かれている。
「冒険者ギルド、ラビリス支部へようこそ。いかがしましたか?」
受付に近寄ると、受付嬢が、待っていました、と言わんばかりの営業スマイルで尋ねてくる。
「すみません。光の魔石って、どこでドロップしますか?」
「光の魔石ですか……そうですね。このあたりだと、やはり光のダンジョンになります」
光のダンジョン。
やはり、そこしか無いか。このラビリスにある八大ダンジョンには、特に難関と言われる二大ダンジョンが存在する。それが光のダンジョン、闇のダンジョンだ。
王城の図書館の本によると、昔は誰でも入れたらしいが、死者が続出したことで、今では入るのに許可証が必要になった。
許可証――それは、他の六つのダンジョンの制覇。
「許可証の制度は、ご存知ですか?」
「はい。ところで、光のダンジョン以外で、光の魔石がドロップする所ってありますか?」
「そうですね……ここから北に行ったところにある、グラディア魔鉱ダンジョンでもドロップしますよ」
魔鉱ダンジョンか。
魔鉱ダンジョンとは、鉱山が変異し、ダンジョン化したものだ。最大の特徴は、ドロップアイテムが全て鉱石ということ。
ダンジョン六つを制覇するよりかは、手っ取り早いだろうが、魔石をドロップするのは、レアな魔物か、ある程度の深部にいる魔物のみだ。どちらにせよ、長期戦は覚悟しなければならない。
「そのダンジョンって、何階層まであります?」
「確か、三十階層までで、通常の魔物からの魔石のドロップは二十階層から、だと思います」
「そうですか、ありがとうございます」
冒険者ギルドを出て、服屋に向かいながら考える。
なるほど、グラディア魔鉱ダンジョンか。
一日一階層として、二十階層まで到着するのに二十日間。レアドロップの光の魔石を得るのに、さらに五日間。帰りは、五階層ごとにあるダンジョンゲートで帰れば、一瞬。
そう考えると、余裕を持たせて約一ヶ月分の食料が必要になる。
四人の一ヶ月分か……もう、馬車代分くらいしか残ってない。そういえば、その金は……セリアに預けてしまっている。
さて、今日の夕食と宿代くらいは、残っているといいのだが。
「お兄ちゃーん!」
フィーが満面の笑みで駆け寄ってくる。
両手の紙袋を一つずつ携えて。
ユリアの方を見てみると、やはり紙袋を両手に一つずつ。
もしやと思って、セリアを見ると、こちらも紙袋を両手に一つずつ。
「フィー、ちょっとごめんな」
一日中馬車に揺られ、買い物で疲れ切り、おんぶをせがんでくるフィーの頭をポンポンとしてから、セリアの方へと向かった。
「なあ、金庫番さんや。つかぬことを聞くけどさ、いくら残ってる?」
「心配しないで、大丈夫よ」
ユリアも、うんうんと自信満々といった具合に頷いている。
そっか、杞憂だったか。
さすがに、人の財布をすっからかんにして返すわけないだろう。それが常識ある社会人というものだ。
「ほら、これ」
そう言って、セリアが差し出してきたのは、彼女が持っていた紙袋の一つだ。
おいおい、どうしてそこで財布じゃなくて、紙袋なんだ?
「何よ、文句ある? 私が選んであげたのよ、感謝しなさい」
「いえ、ありがとうございます。ところで、財布返してもらっていい?」
はい、と手渡された革袋は、さっきと比べて随分と痩せこけている。体重も半分以下に落ち、振っても「カチャ……」と細い声で鳴くばかりだ。
革袋を開けてみると、一枚千ピロの大銅貨が二枚だけ。酷い栄養失調だ。
「……はぁ」
「そんなに嫌だった? 悪かったわね!」
「いや、セリアが服を選んでくれたのは嬉しいんだけど……」
それは本当だ。
いつまでも、こんなボロい服でいるのはイヤだった。だが、とはいえ、二千ピロしか残っていないのは由々しき事態だ。
セリアが睨んでくる。
「けど、何よ」
「はい、ここで三人に質問です。まず、お金は二千ピロしかありません。「夕食を食べて野宿」「夕食を食べずに宿に宿泊」、どっちがいい?」
結果は、賛成三票で、後者に決まりました。
その日の夜は、フィーが申し訳なさそうに差し出した非常用の干し肉をしゃぶりながら、俺だけ床に寝るという、何ともわびしい夜になった。
せめて、ベッドが二つ欲しかったです。
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