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16、新しい生活⑧

気付けば、ブックマーク登録者数が増えていました。

ありがとうございます。

読者の皆さんの期待に応えられるよう、頑張ります。

 ギルマスにモータルベアの倒し方として、煙玉を教えてから、冒険者ギルドを去った。

実は、フェアリーゾーンからの帰り道で、モータルベアにあった時に試しているから、効果は保証できる。

原理は上手く説明できないが、やつが攻撃前に体の周りに発生する電気を利用して、粉塵爆発を引き起こす。それが煙玉のコンセプトだ。

まあ、製造方法は簡単なので、レシピと完成品を渡しておいた。

子どものおもちゃみたいな倒し方だった上、クロエさんに叱られて、終始ギルマスは不服そうだった。まあそりゃ、ぽっと出のFランク冒険者に、一千万ピロ渡したのだ。怒られても仕方ない。

ギルマスの犠牲に感謝しつつ、俺たちは奴隷商館に向かった。


「お兄ちゃん、どこ行くの?」

「新しい仲間に会いにね」


 そう言って以来、フィーのご機嫌が斜めだが、それは後で焼串でどうにかしよう。

それより、今は時間が最優先だ。早くこの街から出ないと、モータルベアより遥かに強いやつとエンカウントしてしまう。


「いらっしゃいませ。ご来館は二度目ですね、セイジ様」

「覚えていたんですか?」

「ええ、もちろん。では、応接間までご案内いたします」


 相変わらず、掃除が行き届いていて一つのホコリもない廊下だ。上手いのか上手くないのか分からない絵もあるし。

フィーは俺の服の袖を掴んだまま、物珍しさで、口を半開きにしながら周りをキョロキョロしている。

一定間隔に置いてあるロウソクが味を出している廊下を通り、前回と同じ部屋に着いた。


「こちらでお待ち下さい。まもなく、当館の主が参りますので」


 ギルドのより、ふかふかのソファーに腰を下ろした。

はぁ、と思わずため息が漏れる。

隣を見ると、フィーが少しうつむき気味に座っている。冒険者ギルドでもそうだったが、やっぱり初めての場所は苦手なのだろう。

握りしめられた彼女の手にそっと手を伸ばすと、ピクッと震えるが、俺の手の中で優しくほどけていった。

ガチャ、と扉のノブが回る。


「お待たせしました」


 その言葉とともに、この商館の主ローレンスさんが入ってきた。そして、それに老執事が続く。さらにその後ろには――あの子たちが続いている。


「セイジ様、ご来館ありがとうございます」

「あ、いえ、こちらこそ」

「今日お買い求めになる奴隷は彼らで合っておりますか?」


 念のため、一瞥するが、やはり彼女らだ。


「そうです。でも、どうしてそれを?」

「それが商人というものでございます、セイジ様。では、お値段ですが、こちらになりますが、よろしいでしょうか?」


 紙がすぅと目の前に置かれた。

驚いて横を見ると、老執事が立っている。まったく気配を感じなかった。

値段は――千五百万ピロ。

千五百万ピロか。うーん、根切りにいっていいのか微妙な金額だ。

二人でその額なら決して高くはない。片方が病気のことを考えると、むしろ安いくらいだ。


「分かりました、それでお願いします」

「値切らなくてよろしいので?」

「はい。適正価格だと思いますし、俺には彼女らが必要ですから」


 まあ、一般人が変に値切っても、機嫌を損ねるだけだ。

それに、ぼったくられていたなら、もう二度と来なければいいだけの話。

フィーに目配せして、さっきギルマスから貰った金貨の袋と、俺が王様に貰った初期資金の袋を机の上に出した。

これで、ちょうど千五百万ピロ。


「どうぞ」

「なるほど、ちょうどですな。ところで、その妖狐族、お売りになりませんか? 今なら、これで買い取りますが」


 そう言って、ローレンスさんは右手の指を三本挙げた。

三――三千万ピロか。

まあ、三千万だろうが、三億だろうが関係無い。


「遠慮しておきます。金貨なんかじゃ釣り合いませんから」


 残念そうな顔をするかと思ったが、むしろ微笑をたたえている。


「その答えを聞けて安心しました。では、最後に一つ。その妖狐族の彼女がアイテムボックスを使えるのは内密になさった方がいいですよ。世間には、良からぬ事を考える愚か者もおりますから。さて、クリス」

「はい」


 老執事は一礼すると、部屋の入口に立たされていた彼女たちの元へ向かった。

何か耳打ちすると、彼女たちは俺が座っているソファーの真横に立った。


「セイジ様、奴隷契約を始めます。絶対服従と意志尊重、どちらになさいますか?」


 絶対服従と意志尊重――そう、奴隷契約は二種類ある。

主の命令全てに従い、命令以外の行動は極度に制限される絶対服従。そして、主に対しての殺意を持った攻撃のみ制限する意志尊重。この二種類だ。

俺が彼女らを選んだ理由を踏まえれば、考える必要はない。


「意志尊重で」

「了解いたしました」


 ローレンスさんが何かを唱えた瞬間、俺と彼女らの左手が薄紫色に光った。まばゆい光が消えると、俺の手に紋様が浮かんでいる。

どうやら、二人も同じ紋様のようだ。


「奴隷契約完了です。セイジ様、またのご来館、お待ちしております」




 老執事に導かれるまま、商館から出て宿に戻ったのはいいが、これからどうしようか。

フィーは人見知りで大人しくなっているし、彼女らも俺を警戒しているのか大人しい。

そして、何より部屋が狭い!

フィーと二人でちょうど良かったのだ。さすがに四人では手狭だ。まあ、元々一人部屋だ。


「じゃあ、自己紹介しようか。俺はセイジ。一応、冒険者かな」


 フィーの肩に手を載せる。


「フィーはフィーだよ。えーと、フィーはお兄ちゃんのお嫁さんだからねっ!」

「へぇ〜。さしずめ、ユリアは不倫相手ってとこかな。 で、お姉ちゃんは彼女ね」

「ど、どうして、あたしが彼女なのよ!」


 こっちのニヤニヤしている方が妹なのか。

それで、こっちの顔を真っ赤にして怒っている方が姉か。


「え〜、彼女じゃ不服かぁ。じゃあ、一緒に不倫相手になる?」

「遠慮しておくわ。あたしはセリア。こっちのバカがユリアよ。よろしく」


 そう言い放つと、フンと横を向いてしまった。

うー……手のかかる子どもが二人増えた感じだ。


「ねぇ、お姉ちゃん。お湯もらってきて」

「大人しくしてなさいよ」


 ついて行こうと俺が椅子から立ち上がった時には、もうすでに部屋から出ていた。

猫耳が生えてるだけあって、中々すばしっこい。


「ご主人様は座ってて。フィーちゃん、見てきてくれる?」

「む〜」


 なんか、フィーは不満げだ。

だが、ユリアの言う通り、俺じゃ相性が悪いかもしれない。さっき無視されたし。そういえば、こういうタイプの女子は苦手だった。


「フィー、頼めないか? 俺だと無視されそうだから、な?」

「分かったよ。変なことしないでよ」


 フィーが俺の膝の上から立ち上がって、タタタと部屋から出ていった。

この部屋の中は、俺とユリアの二人っきりになった。

フィーが初めてきた時と同じくらい、居心地が悪い。自分の空間に知らない人がいると、なんだか落ち着かない。

ユリアと目を合わせづらくて、彼女が座るベッドのシーツのしわの数を数えている自分がいた。

ドサッ

急に、視界に彼女が入ってきた。


「はぁはぁ」

「大丈夫か、ユリア!」

「う……ん、大丈夫だよ」


 荒くなった息を抑えて、無理に作った歪んだ笑顔からは、苦しさが滲み出ている。

言いしれない恐怖が湧き上がってくる。

振り向きざまに、机の上に置いて負った【HP回復ポーション】を取る。

手が当たって、手前の数本が音を立てて倒れる。


「大丈夫か!?」


 床に膝立ちになって、ユリアの顔を覗き込む。

相当おかしな顔をしていたのだろう。思わず、彼女が笑みをこぼす。


「だから、大丈夫だって……」

「これ飲めるか?」

「うーん……飲ませて」

「っ!」

「え〜、早くしないと死んじゃうよぉ」


 人を煽る余裕があるなら、自分で飲んで欲しいものだ。

俺に――悩む暇なんて無かった。


「はy!」


 何か言いかけた彼女の口を塞ぐ。

目が見開かれる。


「はぁ。これで、いいか?」

「……う、うん。その……ありがとぅ」

「じゃあ」


 もう一度顔を近付けた。


「もう……いいよ」

「何言ってんだ。全部飲まないと、治らんぞ」

「いや、でも……その……」


 ユリアが突然顔を赤らめて、俺の後ろを指差しながら、視線を逸らす。

バシッ!

俺の後頭部を何かが襲った。


「あら、随分、仲が良さそうね」

「お兄ちゃん!」


 両手を上に挙げながら、後ろを振り向く。

腕を組んでいるセリアと、頬を膨らませているフィーが立っている。

どことなく、二人の視線が冷たい気がする。まあ、セリアのは元からのような気もするが。

開けっ放しのドアから入る冷たい風が、俺の頬をなでる。その風が、より冷や汗の存在を感じさせる。




「はい、そこに正座っ!」


 セリアの命令で、床に座らされる。

木張りの床から、足をつたって、冷気が昇ってくる。

目の前の布団にセリアとユリア、フィーがベッド脇の椅子に座っている。

ユリアの方を一度見てから、セリアは口を開いた。


「何か遺言はある?」

「さっきのあれは――」

「はい終了。じゃあ判決ね。うーん、どうしましょうか……」


 ポンポンと、ユリアがセリアの肩を叩く。


「どうしたの?」


 ユリアがセリアの耳元でゴニョゴニョと何かを囁く。


「本当にそれでいいの?」

「うん」

「じゃあ、判決よ。被告人は、私たちを一生世話すること。手抜きは許さないんだからね!」


 思ってたより、軽い……のか?


「ひゅー、ひゅー。お姉ちゃん、さすがだねぇ〜。自分と一生一緒にいて欲しいなんて――まるで、愛の告白みたいだよ」


 【回復ポーション】を飲んで、いつの間にか元気になったユリアが、さっきまでと同じ、いたずらっ子の顔に戻っている。

元気になって嬉しい反面、世話の焼ける妹分が増えてしまって少し憂鬱だ。でも、なんとなく、今までの憂鬱とは違う。


(まあ、身近にこんな空気が欲しくて、彼女らを買ったんだけどな)


 プンプンモードに入っていたセリアが急に顔を真っ赤にして、反論し始める。


「ちっ、違うわよ! もう、茶化さないのっ!」


 腰に手を当てて怒ってみせるセリアではあるが、どこか嬉しげだ。

姉の頬が緩んだのを見たユリアも、ケラケラと楽しそうに笑い声をあげた。

――肉の焼ける芳しい匂いが、ドアの外から漂ってくる。

それを合図に、去り時を見失っていた俺はいそいそと部屋から出て、食堂へ向かった。二人の案内は、きっとフィーがしてくれるだろう。

部屋から聞こえるフィー、セリア、ユリアの笑い声。

そんなメインディッシュを背に受け、もう心の方はお腹いっぱいだ。

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