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12、新しい生活④

 カーテンを締め切った薄暗い部屋の中で、一つの薄い影が揺れていた。そこに、今までのような快活さはない。

フィーはどうしたらいいの。

こんなフィーにできることなんか……。

お母さん、フィーはどうしたら、どうしたら……もう分からないよ。


 ドタタタ

「悪ぃ、遅れちまった。これ着るのに時間がかかってな」

「また買ったのか?」

「いや、シェイラが安全第一だ、ってうるさくて」

「当たり前でしょっ! あんたと夫婦で冒険者やってんだから、死なれたら困るのよ」

「相変わらずですね、シェイラ嬢は」

「まあ、お互いで守って守られあえば最強だからな。さて、行こうか」

「そうね、『働かざる者飲むべからず』よ」

「じゃあ、リーダーの飲み分は無いですね。シェイラさんとイチャイチャしてるだけなんだから」

「はいはい、行くよ」


 お互いで守って守られあえば最強……。

でも、お兄ちゃんは今……独りぼっち。

フィーが行けば――。

……ダメだ。フィーなんかが行っても、何の役にも立たない。昨日だって、一歩間違えれば……。

いや、違う!

お兄ちゃんには、フィーしか、私しかいない!

私がお兄ちゃんを守らなくちゃ!

できるか、できないか、じゃない。私がやるしかないんだ! フィーはまだ助けてもらった恩返しができてない。


「妖狐族なら、それ相応の気概を示しなさい」


 お姉ちゃんが頭の中で、また説教をたれている。

私もお姉ちゃんみたいに、いや、お姉ちゃんを超える妖狐になってみせる。お兄ちゃんと一緒に。

お兄ちゃんが私のために戦っているのに、自分だけ踏み出さずに、同じところをうじうじと足踏みしていてどうするんだ。

そう、夫婦で守って守られあえば最強なんだから。

助け合うなら、夫婦なら、真横を歩いていなくちゃ。頭を撫でてもらえないし。

バンッとドアが開くと、部屋に残ったのは、床に投げ捨てられた白い毛布だけだった。




 目の前に仁王立ちする巨大な隈を見て思う。

良かった……フィーがいなくて。

さすがに、戦\えない女の子を守りながら、こいつから逃げ切るのはキツい。

……俺は――逃げるのか?

そうじゃないだろ!

俺は今の自分を変えたい。なら、俺自身の力で一歩踏み出す、それしか無いのだ。

こいつなんて、あの委員長と比べたら、赤子同然だ。

【HP回復ポーション】を、徹夜前に飲むエナジードリンクのようにゴクゴクと飲む。

怪我をしたところがぽかぽかしてくる。

味はジュースみたいでそこそこ美味しい。薬みたいな味じゃなくて、本当に良かった。いくら効果が高くても、薬を一気飲みするのはキツい。

おそらく折れていた骨もくっついたところで、戦闘開始だ。


 グルルルル,,,グルルルル...

見た目も鳴き声も、熊そのものだ。もちろん、本物と対面するのはこれが初めてだ。

野性味を感じるいかつい体つきは、焼串屋のおっちゃんとは比較にもならない。

どうりで、さっきはカス当たりだったわけだ。

ポーションでも、さすがに無くなった血までは回復しない。つまり、出血だけは避けなければならない。

というか、視覚的にも痛いからイヤだ。


「さあ、やるか」


 縦長のクリスタルの形をしたポーションの瓶とは違って、試験管状の瓶のコルクを抜いた。

思いっ切り【Cランク毒液】の瓶を投げつける。この際だ、金の心配などしていられない。

耐性が付与された一品だが、命を対価にケチるほどの物ではない。

試験管の口から、【Cランク毒液】が回りに飛び散る。

耐性によって変わるが、全て浴びずとも、数滴で毒の状態異常にはなるのだ。俺にも飛んでいるが、心配ご無用。しっかり、【Cランク解毒剤】を飲んでいるから、状態異常にはならない。

そうでなきゃ、ただの自爆技だ。


「これも、やるよ!」


 お次は、【Cランク麻痺液】。

止まっていてもらわないと、持久走になってしまう。

魔物でも学習するのだろう。いや、野生の勘というやつか。右後ろ足で地面を蹴って、後ろに飛んだ。


(甘い!)


 試験管を手裏剣のように投げて、空中で回転させているから、その程度の引きじゃあ、回避は不可能。

スプリンクラーのように飛散する麻痺液からは逃れられない。

空間魔法が使えると、持ち運びも、当てるのも楽なのだ。そんな魔法があるなら苦労して、人力で試験管を投げていない。


 グルルッ!

海岸から引く波が通ったかのように、背中の毛の色がさぁと黃色に変わった。

ギミックか。

さて、どこまで強くなっているんだか。

さっきまで荒ぶっていた動きが大人しくなった。

やつの体の周りにパチパチと電気のようなものが流れる。


(雷系統か)


 おそらく、そうであろう。

そして、考えられる攻撃方法は、雷魔法による遠距離攻撃、または攻撃に雷属性を付与、この二つのどちらかだろう。

こんな街外れの森にいる魔物だ。初見殺しレベルのトリッキーな技を使いはしないだろう。

今回は、リスポーンもセーブ&ロードも無い、命を賭けたエクストラモードの攻略なのだ。そうであっては困る。

足元がピカッと光った。

嫌な予感がして、右横にパッと飛ぶ。

この手のゲームをやり込んできた甲斐はあった、ということだろう。

おそらく、素人には、初見で回避不可の攻撃が降ってきた。一瞬ピカッと光った位置にピンポイントに落雷が落ちてきた。

地面には、そのまま焼き芋を焼いてくださいと言わんばかりの穴と小火ができている。人間焼き芋になるのは絶対に願い下げだ。

ピ...ズドーン

ピ...ズドーン

たまにある反射神経を使うギミックのようだ。

ただ、それとは違い、一定時間立てばクリアのような生ぬるいルールではない。この落雷の中、本体を倒さなければいけない。しかも、あのいかつい体だ。しょぼい攻撃は、分厚い毛皮でキャンセルされるだろう。

ピ...ズドーン

……


(ん、攻撃が止んだ?)


 さっと、やつの方を見ると、やつの体を透明なものが覆っているのが見えた。曇りの日にそぐわない太陽の光を反射していなかったら、見逃すところだった。

しかし、毒液と麻痺液でしか攻撃していない俺相手にシールドを展開するのは、少々やりすぎのような気がする。

大した攻撃をしていない俺を逆に警戒してのことか、それとも何か他の意図が……いかんいかん、思考がゲームに寄ってきている。あくまでも、参考にしつつ、今の状況を分析するんだ。

いかに賢くても、魔物は魔物でしか無い。人間がプログラムするゲームのような複雑な思考はできまい。

つまり、やつにはシールドを張る必要があるのだ。

かつ、それ自体は目的では無い。

つまり……シールドを含めたコンボ、いや違う。シールドで強度を上げて、雷属性の突進攻撃という可能性もなくはないが、やつが腰を据えているのが、不自然だ。

それに、俺が丸腰ということくらい分かるだろう。

獅子のくせに、ウサギを狩るのに全力どころか、十数頭で囲むのはやりすぎだ。

なら、残った可能性は2つ。

やつ自身も範囲に収めた広範囲攻撃、または攻撃中は行動不能になるデバフがある攻撃か。

まだ前者なら範囲外に出ればどうにかなりそうだが、後者は何が来るか分からない。一瞬のミスで死にかねない。


 ふっ。

思わず笑いがこぼれる。人間、ここまで慣れるのか。

やはり、そうだ。

狼型の魔物にやられた時も、昨日やられた時も、驚くほど落ち着いている。よく死期を悟った武将がさらさらと和歌を読んでいたりするが、なるほどこれなら詠む余裕もある。

何かが煌めいた。

空を見上げると、【感覚強化ポーション】のおかげか、何かがあるのが分かる。

だんだんと湯気のようなものが、スイミーのように、一つのものへと収束し始めた。

紋様が浮かび上がってくる。その紋様を縁取りながら、細い光が回っている。

それは、プラネタリウムのような魔性の魅力と共に、隕石やUFOのような未知の恐怖を含蓄している。

昔、コンパスを何回も使って書き上げた、複雑なプレッツェルみたいな幾何学的紋様が完成した。

巨熊がウォォーと咆哮を上げると、それがチカッと点灯した。

一瞬の間をおいて、光の雨が降り注いだ。


俺も痴呆のごとくただ空を眺めていたわけではない。しっかり、ジリジリと後退していたはずだが、風魔法の同時使用で、嵐のように横向きに飛ばせるのは聞いていない。

足元に落ちたのを見る感じ、細長い槍の形をしている。

さすがに、痛そうだ。

どんな効果が付与されているのか、ゲーマーとして興味はあるが、今はそんな悠長なことを言ってられない。ほら、今も耳元をかすめた。

目をつけていた林に駆け込んだ。

バタンバタンと射的の的より容易く、俺の身代わりとなって木々が轟音を立てて倒れていく。さすがに真横の気が倒れたときには肝を冷やしたが、防空壕に籠もる子どものようにじっとうずくまっていた。


ドッターン、ギギギ……ド、ドドーン

林に半円状の凹みが空いたところで、攻撃が止んだ。

あのレベルの攻撃だ。相当量のMPを消費したはず。あと、撃てて数発。それさえ、耐えられれば、俺のターンだ。

土煙がいい煙幕代わりになっている。

服の袖を鼻にあてながら、比較的気が残っている方に中腰のまま進んでいく。

周りの低木より上に頭を出したら、スナイプされるだろう。

緊張はするが、恐れというものは感じない。

命懸けという実感がないのか、二回も死にかけたせいで慣れたのか、そのどちらもか、それは分からないが、ただ一つ言えるのは、不思議と「死ぬ」という未来は浮かんでこない。

俺には、生きて帰る理由があるのだから。

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