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13/13

13、新しい生活⑤

今朝、ブックマークの登録者様が初めて出ました。

本当にありがとうございます。

ブックマーク登録して頂けると、本当に嬉しいです。

 ドカンッ...ガガガ...ドタン...ギギギ...バタン...

左側から、巨人が歩いているような音が聞こえる。音が一回なるごとに、地面がジーンと振動する。

じっと目を凝らしていると、左側から差し込む光の量がだんだんと増えていく。少しずつ景色が開けてきた。

草むらの影から、やつの方を見ると、ブレスを吐き続けている。

しかも、ゆっくりとだが確かに、首が回っている。

辺り一帯をさら地にでもしたいのだろうか。


その時、目が合ったような気がした。

すると、ドカンという音とともに、ブレスが一回り成長した。確実に殺そうとしている。これが異世界の戦い方なのか。

ゲームと真逆で、プレイヤー側が何もかもで圧倒されている。

心は勇んでいるが、実際はどうしようもない。

だって、今まさに左側から回ってきているブレスを回避したところで、いや回避できるかも怪しいんだが、あの巨体にまともなダメージを入れる手立てが無い。


「お兄ぃちゃーーーん!」


 上から、フィーが降ってきた。

階段の上からジャンプするフィーを受け止めるのを、今日はまだやっていない。一日やらなかっただけだが、久しぶりで懐かしい心地がする。

脊髄反射的に両腕を伸ばして受け止める。


「まった?」

「いや、ちょうど良いよ」

「よかった」


 そう笑うフィーの顔が眩しい。

やはり、フィーには笑っていて欲しい。

さっき、やつのシールドを照らした太陽の光が、フィーのように思われる。


「ありがと」

「どういたしまして?」


 フィーが不思議そうな顔をする。

まあ、娘のために働く父親の気持ちが分かった、と伝えても、余計にぽかんとした顔をさせるだけだ。

不思議だ。

フィーがいるだけで、こんなに気持ちが和む。


「お兄ちゃん、フィーのそばに来て!」

……私?

「はやく!」


 いつの間に、こんなに凛々しくなったのだろう?

子どもの成長が早いというのは本当らしい。

俺がフィーの側に近寄ると、周りを青緑色の透明な壁が覆った。


「これは?」

「結界だよ。私の第一魔法」


 第一魔法?

それは後で聞くとして、まずはやつをどう始末するかだ。

結界じゃ、最高の防御ではあるが、攻撃手段としては活用できない。

ジリ貧だが、【Cランク毒液】で確実に削っていくしか無いのか……。


一瞬、ピカッと視界が飛んだ。

やつの放つ電撃のブレス。それに立ち向かうフィーの結界が正面から激突する。

結界越しに感じる威圧感。

絶対的王者の威厳をも感じさせる。だが、横に立つフィーの顔を見て確信した。

絶対に勝てる!

そのせめぎ合いは、ものの数秒で終わった。


ドッカーン!


「さあ、お兄ちゃん、帰ろう?」

「いや、でも……」


 さすがに、攻撃力が足りないか。

強い魔物の出現を冒険者ギルドに知らせるのも、冒険者としての務めかもしれない。


「もう終わったよ」

「え?」

「ほら」


 フィーが指差す先には、やつがいた。

ただ、ポリゴンエフェクトに包まれている。

ということは……勝ったのか?

何だか、狐につままれたような気持ちだ。


「お兄ちゃん、私はずっとついて行くよ。私はずっと一緒に歩き続けたい」


 フィーの笑顔が夕日に映える。

彼女の目がしっかり俺を捉えている。今まではどこか伏し目がちだったが、今は視線が交わる。


「成長したんだな」

「まだ足りないけどね」

(妖狐族は第三魔法まで使いこなせて、やっと成人。そうすれば、私はお兄ちゃんと……)

「フィーは焼串何本食べる?」

「うーん、お兄ちゃんと同じでいいよ」

「じゃあ、ドロップアイテムを回収してから帰ろう。フィーのおかげで、今日はご馳走かもな」

「うん!」


 そう言って、握り返す彼女の手からは確かな温かさを感じる。




「乾杯っ!」


 目の前には、当初の予定だった「ささやかなご馳走」とは異なり、デカい肉、デカいサラダ、デカいパン、デカい肉が整列している。

とにかくデカい。

おそらく、食べきれないだろう。

でも、それでいいのだ。

せっかくフィーが魔法を使えるようになったんだし、フィーのアイテムボックスにこっそり入れれば、明日以降の朝食にも昼食にも夕食にもなる。


「おいしいね」

「そうだね。でも、あれが五百万ピロとはね。さすがフィー」

「えへへ」


 そう、あの熊みたいな魔物、実はBランクの魔物だったらしく、討伐報酬が超高額だった。

色々と状況をきかれたが、「たまたま手負いで、ちょっと攻撃したら倒せました」みたいなことを言って、誤魔化しておいといた。

さすがに、フィーの結界に『反射』が付与されている、という話は誰にも言えない。

結界を貫通する攻撃もあるにはあるだろうが、基本的に結界さえ張っていれば、勝手に敵が攻撃して、勝手に敵がやられている、みたいな状況を作り出せてしまう。


「どうしたの?」


 目の前で美味しそうに肉をむさぼっている少女が、一線級のスキルの持ち主だとは、到底信じられない。

「何でもないよ」


 俺はというと、急にお金持ちになって、正直落ち着かない。

こんなところを不良にでも絡まれた日には、目も当てられない。


「そういえば、フィー。第一魔法って何?」

「うーん、妖狐族が生まれたときから使える魔法かな。魔法の種類は人によって違うんだけど、第一魔法を使いこなせないと、それ以降の魔法も発現しないんだよね」

「じゃあ、フィーはこの結界魔法以外も使えるようになるってこと?」

「そうだね。でも、他の条件もあるんだって」

「へぇ」


 なんか、妖狐族固有のものらしい。

一つの魔法に全力を注いで、それを極めれば、生存率が上がるということだろう。

それにしても、冒険者が多い。

そういえば、魔物がどうのこうの、と受付嬢が言っていた。


「なあ。今度、勇者様が来るらしいぞ」

「へぇ、そうなのか」

「森の奥まで入って、大規模討伐らしいぞ」

「じゃあ、あれだな」

「ああ、はぐれの討伐クエスト。あれ嫌なんだよなぁ」


 勇者か。

勇者……あっ!

あれ、そういえば俺って死亡扱いだよな。

今更、あのパーティーに戻されてもなぁ……。


「なあ、フィー。幽霊ってどう思う?」


 時間が止まったかのように、それまで動いていたフォークや口が止まった。


「フィ、フィーは幽霊さんなんてこ、怖くないよ」


 そうだよなぁ、面倒くさいことになるよなぁ。


「旅するか」

「うん。旅、大好き!」




 翌朝、昨日よりも温かい日差しで目が覚めた。

さて、突然だが、問題が発生した。

フィーが魔法を使えるようになった翌朝、とある事に気付いてしまった。

食べ過ぎでお腹が痛いのも、結界魔法をマスターしたことで、フィーの尻尾の先端が青緑色になったのも、問題ではあるのだが、もっと重大なことだ。

そう、ベッドが狭いのだ。

まあ、今更この安物ベッドに文句をつけるつもりはない。

でも、寝返りを打ったフィーの下敷きになって、その決定的な理由が分かった。


「フィー、大きくなった?」

「うーん、そうかも?」


 いや、「かも」ではない。明らかに大きくなっている。

だって、昨日までは百七十センチの俺の腹あたりにあった頭が、今はみぞおちのところまで来ている。

一夜で、十センチ……さすが、成長期ということなのだろうか?


「ご飯、行こ!」

「そうだな」


 今日からは、今まで以上に働く。

なんて言ったって、早く稼いで、早く奴隷を買って、早くこの街を出なければ、勇者たちにエンカウントしてしまう。

もう、あいつらとは縁を切る。そう決めた以上、存在を知られたくない。

というか、絶対に面倒くさいことになる。

絶対、委員長は何があったのか、しつこく聞いてくるだろうし、絶対、上大路は「皆で協力して頑張ろう」とか言ってくるだろうし、不良連中に至っては最悪だ。絶対、いちゃもん付けて絡んでくるに決まってる。

考えただけで、身の毛がよだつ思いだ。


「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 二人の手のつなぎ方はどことなくぎこちない。

だが、フィーの手が大きくなったことで、以前よりしっかり握り合える。

きっと、お互いに同じことを考えている。

もう、絶対に――この手を離さない。

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