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10、新しい生活②

かくかくしかじか(説明の放棄?)ありまして、投降が一日遅れてしまいました。申し訳ありません。

決して、一日中まるっと寝ていたわけではありませんよ。

 窓の隙間から差し込んでくる太陽の光が、ベッドから半ば落ちながら寝ているセイジと、堂々と真ん中で寝ているフィーを照らし出す。

朝になったが、全く寝た気がしない。

寝る直前にブルーライトを浴びまくった時のような寝起きだ。全く頭が回らないし、疲労感がより増えた気もする。

完徹慣れしている俺は、椅子に座って、段々と白んでいく空を見ながら、ぼーっとしていた方がむしろ良かったのではと思えてくるほどだ。


「お兄ちゃん、おはよう!」

「うん、おはよう。フィーは朝から元気だね」

「うん、いつもより元気だよ」


 その時、俺は思った。ああ、元気を吸われたんだなと。

さて、冗談はほどほどにして仕事をしなければ。

この世界は、ベッドに座っていて飯が食えるほど優しくはない。そして、代わりに働いてくれる親もいない。完全に援助のない一人暮らし同然だ。

まあ、辛いことはあっても、前の生活よりは遥かに充実しているから、今更やめるつもりはない。


突然だが、「無人島に一つだけ持っていけるとしたら、何が良い?」みたいな質問異世界版の答えはズバリ、一生分の金だ。

しょうもないことを考えている間に、フィーの着替えが終わった。

俺は寝間着と普段着が同じでも良いと思うのだが、女子は嫌らしい。他人の服のしわなんて、誰も気にも止めないと思うのだが。


「そういえば、昨日の木の実どうした?」

「あるよ」


 「はい」と言って、俺に手渡してきた。かごのおまけ付きで。

俺は取って欲しいという意味ではなく、場所を聞いたつもりだった。何が言いたいかというと、さっきまで部屋の中には無かったはずなのだ。

さすがに、机とベッドしかないこの部屋で、サッカーボール大の物を見落とすわけが無い。


「まだあるよ」

「じゃあ、出してみて」


 フィーはうんと頷いた。

今度は見逃さない。空中に青い穴ができ、極当たり前のようにフィーはそこに手を伸ばした。

あまりにも自然にやっているから、あたかもそれが普通のように見えるが、そんなことはない。

街の中を歩いている時には、ほとんど見かけなかった。たまに見つけた時は、「いいなあ」と思いながら流し見していたが、まさか俺の近く、いや真横にいたとは。


「……アイテムボックス、なのか?」

「そうだよ」


 興味本位で手を伸ばしてみるが、その青い穴には触れられない。

まるでホログラムだ。


「フィー以外、さわれないよ」

「へえ、すごいな」

「フィー、すごい?」

「ああ、すごいすごい」


 自発的に他人を褒めたことの無かった俺が言うと、嘘っぽく聞こえるかもしれないが、本当にすごい。

アイテムボックス持ちというだけで、冒険者界隈でのヒエラルキーで底辺になることはないだろう。

入れられる量にもよるが、家一軒分を超えれば、十分後方要員として雇ってもらえる。アイテムボックス付きのバッグを買う手もあるが、総じてお高いのだ。そして、容量も小さい。

アイテムボックス内の空間は時が止まっているから、温かい食事を簡単に野営先で食べれる便利アイテムだ。それに、重い荷物を持つ必要もないし、採取した薬草の品質も落ちない。


「えへへ。フィーのはね、お家二つは入るんだよ」


 差し出された頭をなでながら、話を続ける。


「フィーは俺とでいいのか? それだけのアイテムボックスがあれば、どこかのクランに入れるんだぞ」


 クランとは、複数の冒険者パーティーの元締めで、依頼を良い感じに割り振っている組織だ。依頼する側も、よく分からない冒険者パーティーよりも、信頼できる有名なクランに頼もうとするのは自明だ。

とりあえず、どこかのクランに入れれば、冒険者として食いっぱぐれることはない。


「フィーはここがいいの! それとも、フィーは邪魔?」


 そんなわけない。

そんなわけあるはずない。でも、俺には……。

何を言えばいいか分からず、フィーに目をやると、昨日と同じ目をしていた。不安そうな目で、何もできない自分の無力さに口を結んでいる。

またさせてしまった。

俺はこんな顔をさせたかったのか?

――いや違う!

俺は、確かに決めたはずだ。


「フィー、俺は……俺は」


 考えがまとまっていないのに、口を開いた自分が恨みがましい。でも、それが答えなのかもしれない。

俺はあの時、決めた。

上手くまとまらないけど、自分がしなきゃいけないことだけは分かる。


「フィー、俺はまだ上手く言えないけど、でも、これだけは約束する。俺はフィーを後悔させない、いや幸せにしてみせる!」


 フィーが驚いた顔をしているのを見て、熱が冷めた。セイジの心拍数が元に戻り始める。だが、すぐに加速し始めた。いや、脳が沸騰し始めた。


(……あれ、ちょっと違うな。)

(ちょっとじゃんない。何を言っているんだ、俺は!?)


 恥ずかしすぎて、視線がフィーの頭の上を通り過ぎる。

もう一度、自分が言った言葉を反芻すると、時が止まったかのように感じた。マズい、非常にマズい、


「あ、あの、俺は」

「ううん、何も言わなくてもいい。分かってるよ、お兄ちゃん」


 紅潮した頬が何かを物語っている。

その上目遣いの笑みを理解するには……まだ、経験値が足りない。


(もう、忘れよう)


 忘れることは大切だ。

「人間は忘れられるから生きていけるのだ」と、どこかの偉い人も言っていた。

それに、ゲーマーたる者、過去のミスに囚われていては成長できない。




 異様に機嫌の良いフィーと部屋を出た。


「そこで待ってて」


 言われた通り、階段の踊り場まで降りた。

女子の機嫌なんて、風前の灯なのだ。

俺はそのことをどこぞの委員長に痛いほど教えられた。不本意だが、今は少し感謝している。


「降りたよ」


 まったく、何をするのだろうか?

委員長とも、こんなシチュエーションになったことは無かった。


「フィーを受け止めてくれる?」

「もちろん。俺で良ければ」


 さっきも似たことを聞かれた気がする。

まあ、こう言うだけで、こんなにも嬉しそうな顔をしてくれるのだから、より一層かわいく見えてしまう。おだてても無反応の誰かさんとは大違いだ。


「いくよっ!」

(……えっ!?)


 彼の思考より先に、フィーが勢いよく階段をくだり始めた。

セイジがいる踊り場まで残り数段になったときに、フィーは飛んだ。

足を滑らせたわけではない。完全に意図的にジャンプしていた。


ええぇぇえぇーーー!

こんな素っ頓狂な声をあげる時間も、余裕もなく、上からフィーが降ってきた。

先に言ってくれたら、ポーションを飲んだのに……。


ドッシーン

胸の中に飛び込んできた確かな熱と重み。

キャッチできた自分を褒めたい。

しかし、両腕でキャッチできたものの、俺にその勢いを受け止める力はない。俺が受け止められるのは、感情や精神的なことだけだ。物理的なのは荷が重すぎる。


「イテテテ……」

「大丈夫?」

「まあギリギリ。フィーは痛くなかったか?」

「うん。またしてもいい?」


 「それは勘弁してくれ」と言いかけたが、その口をつぐみ、言いかけた言葉は飲み込んだ。

さすがに、こんなキラキラした目で見つめられて、無下に断るのは忍びない。


「やる前に言ってくれよ」

「うん、約束っ!」


 尻尾をふりながら、そんな笑顔をするのは反則だ。怒るに怒れないじゃないか。

なんとなく、親バカの気持ちが理解できた。

「このまま連れてって」と、フィーはセイジの体に回した両腕に力を入れた。

なんか、わがままっ子になってきたな。

どこか委員長みを感じる。

ただ、あの人よりは話しやすいし、ひねくれてもいない。


「仰せのままに」




 そんな、冷んやりとする場面もあったが、往々にして楽しい日々が続いた。

薬草を採取して、依頼をこなして、そこそこ美味しいご飯を食べ、ベッドの上で寝る。まさに理想的な生活だ。

ただ、危機があるから平穏を判別できる。つまり、危機がなければ平穏などというものは定義不可能なのだ。

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