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第9話 死神、公開処刑されかける

 大型モニターの残骸が、火花を散らしながら崩れ落ちる。


 ネオ・トーキョー中央区画。


 休日で賑わっていた商業エリアは、一瞬で地獄絵図になっていた。


「きゃああああっ!!」


「逃げろ!!」


「また死神案件だ!!」


「またって何」


 レンは思わずツッコんだ。


 だが、そんな余裕も長くは続かない。


 煙の向こう。


 ゆっくりと現れたのは、黒い強化装甲兵部隊だった。


 全員、同一規格。


 企業製軍用フレーム。


 胸部にはアーク・ヘリオス社のロゴ。


「あー……最悪」


 レンは露骨に嫌そうな顔をした。


 数は二十以上。


 しかも、その中央。


 一際大きな赤い装甲機が前へ出る。


 指揮官機。


『対象確認』


 無機質な電子音が響く。


『コードネーム死神――白雪エルを排除する』


 その瞬間だった。


 周囲の空気が変わる。


「……え?」


「今、白雪エルって……」


「嘘だろ?」


 避難途中だった通行人たちが、一斉にレンを見る。


 スマホが向く。


 カメラ。


 配信。


 録画。


 SNS投稿。


「うわぁ……」


 レンは本気で頭を抱えたくなった。


 最悪の形である。


 隣で、黒乃ミアがぽつりと呟く。


「……完全にバレたね」


「他人事みたいに言うな」


「でも今さら隠せる?」


「隠したいんだよ私は!!」


 しかし時すでに遅し。


《白雪エル本人!?》


《え、リアル!?》


《配信始めます!!!》


《ミア様もいる!!》


 ネットは数秒で爆発した。


『作戦開始』


 指揮官機の声と同時。


 兵士部隊が一斉に動いた。


 高速突撃。


「チッ!」


 レンは即座にミアの肩を掴む。


「下がってろ!」


「エルちゃんは?」


「仕事する」


 次の瞬間。


 レンが消えた。


 地面が砕ける。


 一瞬で敵兵の懐へ潜り込み――


 掌底。


 装甲が陥没。


 続けざまに拳銃を抜く。


 パンッ!


 頭部破壊。


 一機沈黙。


 だが止まらない。


 左右から高周波ブレード。


 レンは身体を捻り、紙一重で回避。


 そのまま敵の腕を掴み、強引に投げ飛ばす。


 別の機体を巻き込みながら壁へ激突。


 爆発。


「うわ……」


 一般人たちが完全に引いていた。


 当然である。


 白雪エルの中身が、想像の百倍ヤバかった。


《待って強すぎる》


《人間じゃなくない?》


《映画撮影??》


《今の動き見えた奴いる?》


「配信切れぇぇぇ!!」


 レンの叫びは、誰にも届かなかった。



 一方その頃。


 この戦闘はすでに全世界へリアルタイム配信されていた。


【緊急生放送:死神、街中で戦闘中】


 同時視聴者数。


 一千五百万人。


 もはや世界的イベントである。


「エルちゃん右!!」


 ミアの声。


 レンは反射的に跳んだ。


 次の瞬間、レーザー砲撃が地面を薙ぎ払う。


「うわっぶな!?」


 レンは空中回転しながら着地。


「なんで普通について来れてるの!?」


「配信者、反射神経大事だから!」


「絶対違う!!」


 言いながらレンはナイフを投擲。


 三機同時撃破。


 火花が散る。


 だが、その時だった。


 赤い指揮官機の胸部装甲が展開する。


 嫌な予感がした。


『高出力殲滅砲、解放』


「うわ最悪」


 巨大砲口。


 収束するエネルギー。


 周囲の空気が震える。


 レンの顔から余裕が消えた。


(これ、街ごと吹き飛ぶやつだ)


 しかも射線上には。


 避難し遅れた一般人たち。


「チッ……!」


 考えるより先に、身体が動く。


 全力加速。


 指揮官機へ一直線に突っ込む。


『無駄だ』


 砲撃発射。


 閃光。


 轟音。


 誰もが終わったと思った、その瞬間。


 レンは真正面から、その砲撃を“逸らしていた”。


「なっ――」


 周囲が凍り付く。


 レンの腕から煙が上がる。


 皮膚が焼ける。


 だが止まらない。


「街中で撃ってんじゃねぇよ……!」


 咆哮。


 レンは砲身を掴み、強引に捻じ曲げた。


 火花。


 暴走。


 次の瞬間。


 指揮官機が内部爆発を起こした。


 轟音と共に崩れ落ちる巨体。


 静寂。


 誰も動けなかった。


 ただ一人。


 黒乃ミアだけが、レンを見ていた。


「……エルちゃん」


 ミアの声で、レンは我に返る。


 しまった、と思った。


 今のは完全に人間の動きではない。


 周囲の視線が変わっていた。


 恐怖。


 畏怖。


 困惑。


 そして――憧れ。


《やば……》


《本物の怪物だ》


《でも助けてくれた》


《ヒーローじゃん》


「やめろ」


 レンは低く呟く。


「そういうの、本当にやめろ」


 ヒーローなんかじゃない。


 自分は人殺しだ。


 今さら善人みたいに扱われる資格なんてない。


 その時だった。


 ミアが、そっとレンの手を掴んだ。


「……え」


 レンが固まる。


 ミアは真っ直ぐレンを見る。


「でも、助けたじゃん」


「……」


「それだけで十分だよ」


 レンは言葉を失った。


 その瞬間。


 周囲のスマホが一斉にこちらへ向く。


《手繋いだ!?》


《うわああああ!!》


《エルミア確定演出!?》


《尊すぎて死ぬ》


「違っ――」


 否定しかけた、その時。


 背後から新たな爆音が響いた。


 空。


 巨大輸送機。


「あっ」


 レンの顔から表情が消える。


 輸送機側面。


 アーク・ヘリオス社のロゴ。


 そしてスピーカーから、聞き慣れた男の声が響いた。


『見つけたぞ、レン』


「……アルトマン」


 輸送機のハッチがゆっくり開く。


 そこに並んでいたのは。


 グリムリーパー。


 前回よりさらに大型化した、新型機群。


 その数、二十。


 しかも中央には。


 異様だった。


 漆黒の装甲。


 四本腕。


 背部に巨大粒子砲。


 明らかに別格。


『対死神殲滅兵装――グリムリーパー・ゼロ』


 アルトマンの声が、愉しげに響く。


『お前を殺すためだけに作った』


 周囲の空気が凍る。


 レンは数秒、それを見上げていた。


 そして。


「……はぁ」


 深いため息。


「配信映え狙い始めただろお前」


 アルトマンが、初めてわずかに笑った。


『当然だ。今やお前は世界最高のコンテンツだからな』


「VTuber扱いすんな」


 レンは拳銃を構える。


 その隣で、ミアが小さく息を呑む。


「エルちゃん……」


「下がってろ」


「でも――」


「これは配信事故じゃ済まない」


 レンの声は静かだった。


 だが。


 その背中から溢れている殺気は、今までと比べ物にならなかった。


 空が震える。


 グリムリーパー部隊、一斉起動。


 ネオ・トーキョー全域へ警報が鳴り響く。


 そして。


 死神討伐プロジェクトは、ついに次の段階へ進もうとしていた。

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