第4話 死神、初コラボする
朝六時。レンはソファで目を覚ました。
「……首痛っ」
視界に飛び込んできたのは、半壊したリビングだった。吹き飛んだ壁、砕けたテーブル、焦げ跡にむき出しの配線。そして天井の大穴から差し込む朝日。
「終わってんなぁ……」
昨夜の激戦を思い出し、レンは深いため息を吐いた。ちなみに、推しのポスターだけは無傷である。奇跡だった。
「よし、現実逃避しよ」
即座にPCを起動し、配信サイトを開く。トレンド欄は地獄だった。
【#死神討伐 世界1位】
【謎の爆発系VTuber】
【白雪エルの正体考察】
「うわ最悪」
通知欄も目を疑う数字が並んでいた。《登録者+28万人》《同接切り抜き急上昇1位》。さらには、企業案件24件、コラボ希望73件。
「増え方バグってるだろ……」
昨夜の爆発音を「新作3Dライブの演出」だと思い込んだ視聴者が大量発生した結果だった。さらには『“死神討伐”チャレンジ』なる企画まで流行り始めている。
「やめろバカ。死人が出る」
その時、新着メッセージの通知音が響いた。送り主を見て、レンの眉が動く。
【黒乃ミア】
「……は?」
業界最大手『ネクスト・フェイズ』所属。登録者数一千万人超、VTuber界の女王。レン自身も配信を見ている超人気者だ。恐る恐るメッセージを開く。
『白雪エルちゃん、今夜コラボしませんか? “死神討伐”の件、めちゃくちゃ面白いので!』
「…………は?」
五秒停止。十秒停止。そして——。
「えっ待って待って待って待って!」
勢いよく立ち上がり、ソファに足をぶつける。「痛っ」
本物だ。公式の青バッジ付き。
(推しと繋がれる可能性あるのでは……?)
レンの目が輝いた。「やる」——即答だった。
数時間後。レンは部屋の修復業者を呼んでいた。
「こちら、どういう事故で……?」
「ちょっと配信機材が爆発して」
「こんなに?」
「最近のPCってすごいですよね」
ネオ・トーキョーではよくあること(?)なのか、業者は深く追及してこなかった。
その傍らで情報を集める。“死神討伐プロジェクト”。賞金総額、推定百億クレジット。世界中の傭兵、暗殺者、企業軍が自分を狙っている。
「馬鹿じゃないの……。ライブ前に死ぬのだけは無し」
レンにとっては、当選済みの「推しの夏ライブ」こそが最優先事項だった。
その時、部屋の警告ランプが赤く点灯した。侵入検知。
「はやっ」
窓の外、高速道路を黒いバイク集団が走ってくる。ドクロのエンブレムを掲げた海外傭兵団だ。
『死神ォォォ!! 首もらうぞォォ!!』
「朝から元気だなぁ……」
レンは引き出しからハンドガンとナイフを取り出した。
窓からミサイルが撃ち込まれ、部屋の端が吹き飛ぶ。
「うわー!」
「きゃあああああ!!」
絶叫する業者のおじさんを片手で抱え、廊下の安全圏へ放り投げる。「ごめんなさい今日休業でーす!!」
レンはそのまま銃を抜いた。
パンッ! バイク一台が爆散。
「はいはい交通ルール守ろうねー」
上空には数十機のドローン。一斉にレーザーサイトが部屋を埋め尽くす。
(……面倒)
瞬間、レンの身体が加速した。人間離れした速度で壁を蹴り、空中での正確な射撃でドローンを次々と撃墜していく。背後に迫った迷彩服の男には、振り向きざまの肘打ち。さらに二人をゼロ距離射撃で沈黙させた。
「終わり?」
その時、スマホが震えた。
【黒乃ミア:大丈夫!? 窓の外、爆発見えたんだけど】
「見えてんの!?」
反射的に窓へ走ると、向かいの超高層タワーの巨大モニターに、黒乃ミアの配信画面が映っていた。画面越しに、彼女と目が合う。
『……エルちゃん?』
背後から迫る傭兵を、レンはノールックで発砲して仕留めた。
『……今の音なに?』
「フライパン落ちました!」
『銃声みたいだったけど!?』
「最近のフライパン高性能で!」
自分でも意味不明な言い訳を口にするレン。しかし、黒乃ミアは楽しそうに笑った。
『エルちゃんって、面白い子なんだね。……好きかも』
『今夜、楽しみにしてるね』
通信が切れ、静寂が戻る。レンはその場にしゃがみ込んだ。
「……無理かもしれん」
死線を潜るより、トップVTuberとの会話の方が、よほど心臓に悪かった。




