第3話 “死神”を作った男
静まり返った部屋。
非通知着信は、たった一言を残して切れた。
『お前を作った男だ』
レンはスマホを机に置く。
心拍は平常。
だが、脳内の警戒レベルは最大。
「……アルトマンか」
三年前、彼女の直属上官だった男。
“死神”を最前線に送り続けた指揮官。
生存確認はされていないはずだった。
(生きてたか。しぶといな)
窓の外。
監視ドローンがまだホバリングしている。
レンは無造作にハンドガンを拾い上げ――
撃った。
ドローンは一発で爆散。
火花が夜空に散る。
「盗撮はNGでーす」
甘い声で言ってみるが、当然リスナーはいない。
今日はもう配信は終わっている。
……だが。
モニターが一瞬、勝手に点灯した。
【REMOTE ACCESS】
「は?」
画面に映し出されたのは、黒い会議室。
中央に座る一人の男。
銀縁メガネ。整えられた灰色の髪。
無駄のないスーツ姿。
「久しぶりだな、レン」
穏やかな声。
だが、その目は氷のように冷たい。
「……やっぱりあんたかよ、アルトマン」
男は微笑む。
「今はアーク・ヘリオス社、特務戦略部門統括。肩書きが増えた」
「で? 元部下の家に暗殺者送りつけるのが最近の趣味?」
「テストだ」
即答。
「お前が“本物”かどうかのな」
レンは椅子に座り直す。
背筋を伸ばす。
かつての兵士の姿勢。
「確認できただろ。もう帰れ」
「いや」
アルトマンは指を組む。
「戻れ、レン」
空気が冷える。
「お前は戦場でしか生きられない」
「VTuberやってますけど?」
「遊びだ」
「本業ですが?」
数秒の沈黙。
アルトマンの目が細まる。
「お前ほどの兵器を、放置するわけにはいかない」
「兵器って言うな」
「お前は我々の最高傑作だ」
レンのこめかみが、ぴくりと動いた。
三年前。
休むことなく続いた任務。
感情の切り捨て。
効率だけを求められた日々。
仲間は消耗品。
自分も同じ。
「だから抜けたんだよ」
レンの声が低くなる。
「私は道具じゃない」
アルトマンはため息をついた。
「……残念だ」
その瞬間。
床が揺れた。
爆発。
壁面が吹き飛ぶ。
煙の向こうから現れたのは――
人型。
だが、明らかに昨日の暗殺者とは違う。
全身重装甲。
肩部には小型ミサイルポッド。
背部スラスター。
「最新型試作機。コードネーム“グリムリーパー”」
アルトマンの声がスピーカー越しに響く。
「お前の戦闘データから作った」
レンは笑った。
「うわ、最悪」
ミサイル発射。
レンは床を蹴る。
爆炎。
天井に跳躍し、壁を蹴り、着地。
机を掴み、投げる。
重装甲機が受け止める。
「性能差は理解しているはずだ」
「うるさい」
レンはデスク下の武器庫を開放。
ショットガン。
炸裂弾。
至近距離で連射。
装甲にヒビが入る。
だが止まらない。
「近接戦闘能力はお前を上回る」
グリムリーパーが突進。
拳が壁を砕く。
レンは紙一重で回避。
(力押しタイプか……)
レンの視線が一瞬、推しのポスターに向く。
壁に貼られた笑顔。
(……部屋壊すなよ、マジで)
次の瞬間。
レンは突っ込んだ。
真正面から。
「!?」
相手の想定外。
懐に潜り込み――
首元の接続部へ指を差し込む。
「私のデータから作ったなら」
レンの目が鋭く光る。
「弱点も同じだよな?」
全力で捻る。
火花。
スラスター暴走。
内部ショート。
グリムリーパーが崩れ落ちる。
爆散。
静寂。
部屋は半壊。
床はボロボロ。
天井に穴。
レンは肩で息をする。
「はぁ……」
モニターの中のアルトマンは、静かに拍手した。
「素晴らしい」
「うるさい」
「やはりお前は戦場の才能だ」
「違う」
レンは壊れた部屋を見回す。
焦げた床。
砕けた家具。
推しのポスター、無事。
安堵。
「私は配信者だ」
アルトマンは微笑む。
「では宣言しよう」
画面に企業ロゴ。
【アーク・ヘリオス社 公開発表】
「“死神討伐プロジェクト”を開始する」
レンの目が細まる。
「は?」
「お前を倒した者に、莫大な報酬を与える」
つまり。
世界中の傭兵と殺し屋に――
懸賞金。
「バズるぞ、それ」
「世界中が敵になる」
アルトマンは最後に言った。
「逃げ場はない」
通信終了。
沈黙。
レンはゆっくり息を吐く。
「……は?」
数秒後。
スマホ通知。
《トレンド1位:#死神討伐》
「は???」
さらに通知。
【コラボ依頼多数】
【取材希望】
【企業案件急増】
レンは天井の穴を見上げる。
「……逆に宣伝になってない?」
口元が上がる。
「懸賞金? 上等じゃん」
拳を握る。
「推しのライブツアー全国制覇するまで、絶対死なないからな」
こうして。
“死神討伐プロジェクト”は始動した。
だがそれは同時に――
史上最大の炎上系バトル配信時代の幕開けでもあった。




