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第19話 災厄の魔女は、初配信に現れる

 翌日。


 白雪エルの配信チャンネルは、過去最高レベルの騒ぎになっていた。


 理由は単純。


 昨夜の一千万円スパチャである。


「いや誰なんだよ本当に」


 レンは頭を抱えていた。


 ネクスト・フェイズ本社の仮設配信ルーム。


 修理中の自宅に代わる、現在の活動拠点だ。


 モニターにはまとめサイトの記事が並んでいる。


【謎の一千万円スパチャ】


【石油王現る】


【白雪エル、また伝説を作る】


【正体は死神の元上司説】


「なんでアルトマンが投げるんだよ」


 あり得ない。


 あの男が金を払う側に回る姿など想像できなかった。


 むしろ請求してきそうだ。


 精神的ダメージ代とか言って。


 その時。


 扉が開く。


 ミアだった。


「おはよー」


「おはよう」


「見た?」


「見た」


 レンは即答した。


「SNSの考察?」


「いや違う」


 ミアはスマホを差し出す。


 画面には動画サイト。


 そして。


 あるチャンネルページが表示されていた。


【イブちゃんねる】


 登録者数。


 二百三十万人。


「……は?」


 レンの動きが止まる。


「昨日開設されたらしいよ」


「昨日?」


「昨日」


 ミアは笑顔だった。


 レンは嫌な予感しかしなかった。


 チャンネルを開く。


 動画一本。


 再生数一千八百万。


 タイトル。


【はじめまして】


「嫌な予感しかしねぇ」


 再生。


 画面が開く。


 そこに映っていた女を見た瞬間。


 レンは椅子から落ちた。


「ぶっ!?」


 ミアが吹き出す。


「知り合い?」


「なんでいるんだよアイツ!!」


 画面の中。


 長い黒髪。


 柔らかな笑顔。


 整った顔立ち。


 七瀬イヴだった。


『みなさん、はじめまして』


 穏やかな声。


 優しい微笑み。


 上品な所作。


 完全に清楚系だった。


 詐欺である。


 レンは知っている。


 その女が歴代最悪クラスの戦闘狂であることを。


『趣味は配信を見ることです』


「嘘つけ」


『好きな配信者は白雪エルさんです』


「やめろ」


『昨日もスパチャ投げました』


「お前かぁぁぁぁ!!」


 絶叫だった。


 コメント欄。


《推し活ガチ勢で草》


《一千万投げた本人!?》


《石油王本人きたぁぁぁ!》


《白雪エルガチ恋勢じゃん》


 地獄だった。


 レンは頭を抱える。


 ミアは笑いすぎて呼吸が怪しい。


「エルちゃんモテるねぇ」


「違う」


「シオンさんもいるし」


「違う」


「イヴさんもいるし」


「だから違う」


 レンは本気で否定した。


 だが誰も信じなかった。


 その頃。


 イヴ本人はホテルで配信を見ていた。


 自分の配信ではない。


 白雪エルの切り抜きだ。


 真剣な顔だった。


「ここ好き」


 再生。


 停止。


 再生。


 停止。


 完全にオタクだった。


 しかも厄介寄りの。


 机の上にはグッズ。


 アクリルスタンド。


 限定ボイス。


 メンバーシップ特典。


 全部揃っている。


 わずか数日で。


 財力の暴力だった。


 その時。


 スマホが鳴る。


 着信。


 発信者。


 アルトマン。


 イヴは出た。


「もしもし」


『何をしている』


 開口一番それだった。


 イヴは笑う。


「推し活?」


 電話の向こうで沈黙が発生する。


 数秒。


 十秒。


 十五秒。


 アルトマンが本気で頭を抱えている気配がした。


『七瀬イヴ』


「はい」


『君は死神討伐プロジェクトの対象者ではない』


「うん」


『介入するな』


「無理かな」


 即答だった。


 アルトマンの胃が痛くなる音が聞こえそうだった。


『理由を聞こう』


「レンだから」


『……』


「それ以上必要?」


 必要なかった。


 少なくともイヴの中では。


 一方。


 レンはまだ知らない。


 この女がどれほど面倒なのか。


 三年前。


 戦場で別れた時もそうだった。


 任務中に突然消える。


 勝手に戻ってくる。


 敵基地を吹き飛ばす。


 理由は気分。


 全て気分。


 天才型。


 自由人。


 そして最強クラス。


 だからこそ厄介だった。


 夕方。


 レンは配信準備をしていた。


 今日は雑談枠。


 平和な内容の予定だった。


 本当に平和な予定だった。


 だが。


 配信開始五分前。


 通知が鳴る。


【コラボ申請】


 レンは開いた。


 送り主。


【七瀬イヴ】


「閉じよう」


 即断だった。


 しかし。


 直後。


 再度通知。


【七瀬イヴ】


【七瀬イヴ】


【七瀬イヴ】


【七瀬イヴ】


「怖っ!?」


 連打されていた。


 ホラーである。


 その時。


 さらにメッセージ。


『レン』


『出て』


『レン』


『見えてるよね』


『レン』


「ストーカーか?」


 レンは真顔で呟いた。


 その瞬間。


 部屋の窓がコンコンと鳴った。


 レンの動きが止まる。


 ゆっくり振り向く。


 ここは高層階。


 外に人はいないはずだった。


 だが。


 窓の向こう。


 そこには。


 逆さまの状態で張り付いているイヴがいた。


 満面の笑みだった。


「やっほー」


「ぎゃあああああああああ!?」


 レンの悲鳴がネクスト・フェイズ本社に響き渡った。


 その日。


 白雪エルの予定していた平和な雑談配信は。


 開始前から完全に終了するのだった。

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