第17話 怪物たちの共闘
戦場には、相性というものがある。
どれだけ強くても噛み合わない者同士はいる。
逆に。
一度も肩を並べたことがなくても、最初から呼吸が合う者もいる。
レンとシオンは後者だった。
少なくとも、戦場においては。
同時に踏み込む。
言葉は不要。
視線も不要。
レンが左へ流れる。
シオンが右へ走る。
それだけで十分だった。
無人機群が反応する。
標的を分散。
迎撃体勢へ移行。
だが遅い。
レンの拳銃が火を噴く。
三発。
三機撃墜。
空中で爆散した破片の向こうから、さらに二機。
そこへシオンの刀が走る。
銀色の軌跡。
次の瞬間には真っ二つだった。
《えぐい》
《連携どうなってんの!?》
《息ぴったりじゃん》
《夫婦か?》
「違う」
レンが即座に否定した。
戦闘中なのに。
「そこだけ反応するんですね」
シオンが冷静に言う。
「うるさい」
そして二人同時に敵を斬り飛ばした。
だが。
問題はそこではない。
ビルの外壁に張り付いていた異形。
新型機。
アルトマンの切り札。
あれだけが動いていなかった。
「嫌な予感しかしねぇ」
レンは低く呟く。
戦場経験が警鐘を鳴らしている。
本当に危険な敵は、慌てて動かない。
獲物が疲れるのを待つ。
隙が生まれるのを待つ。
確実に殺せる瞬間を待つ。
そして。
そいつは明らかに、そういう種類だった。
『解析更新』
機械音声。
『対象:白雪エル』
『対象:九条シオン』
『脅威度再計算』
赤い光が二人を舐めるように走る。
レンは顔をしかめた。
「気持ち悪いな」
次の瞬間。
異形が消えた。
視界からではない。
気配ごと。
「――シオン!」
叫ぶ。
同時に刀が振り抜かれる。
火花。
轟音。
シオンが吹き飛んだ。
「っ……!」
スタジオの壁を突き破る。
数十メートル先まで転がる。
《え》
《シオンさん!?》
《今なにされた!?》
誰にも見えなかった。
レンにすら完全には見えていない。
だが一つだけ分かる。
速い。
ゼロとは比較にならない。
完全に別格だ。
異形がレンを見る。
顔はない。
目もない。
なのに。
確かに見られている感覚があった。
『優先対象変更』
『死神排除』
「そう来るか」
レンは笑った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
口元が上がる。
怖くないわけではない。
むしろ危険度なら過去最高だ。
だが。
久しぶりだった。
本気で自分を殺しに来る敵。
そして。
本気で守りたいものがある戦い。
背後にはスタジオ。
スタッフ。
配信機材。
画面の向こうには視聴者。
今のレンには失えないものが多すぎた。
三年前なら違う。
逃げる選択もできた。
見捨てる選択もできた。
だが今は。
「できねぇんだよなぁ」
面倒そうに呟く。
そして踏み込む。
空気が爆ぜる。
異形も動く。
二つの影が激突した。
衝撃。
窓ガラスが砕け散る。
ビル全体が震える。
《見えない》
《何起きてる!?》
《エルちゃん!!》
コメント欄は完全に悲鳴だった。
レンは吹き飛ばされる。
受け流したはずなのに腕が痺れる。
「重っ……!」
異形は追撃してくる。
止まらない。
学習している。
レンの癖を。
動きを。
戦闘パターンを。
リアルタイムで。
「ほんと嫌な技術だな」
アルトマンらしい。
相手の強さを利用する。
そして最後には超える。
昔からそうだった。
その時だった。
瓦礫の向こう。
崩れた壁の中からシオンが立ち上がる。
口元から血が流れている。
だが。
笑っていた。
「久しぶりです」
静かな声。
「何が」
レンは嫌な予感がした。
「少し楽しい」
「お前そういうタイプだったっけ?」
「貴女のせいです」
「人聞き悪いな」
言いながら、レンも少し笑った。
そうだ。
昔もこうだった。
二人とも壊れていた。
だから戦場でしか会話できなかった。
だが今は違う。
少しだけ人間らしくなった。
少しだけ。
本当に少しだけだが。
異形が再び動く。
今度は二人同時を狙う。
一直線。
圧倒的速度。
だが。
レンは避けない。
シオンも避けない。
そして。
二人同時に前へ出た。
交差。
銀閃。
銃声。
時間が止まったように見えた。
次の瞬間。
異形の装甲が裂ける。
初めて。
本当に初めて。
その身体から火花が散った。
『損傷確認』
機械音声が乱れる。
レンがニヤリと笑う。
「ほらな」
シオンも刀を構え直す。
「壊せます」
初めてだった。
敵が後退したのは。
その光景を見て。
遠く離れた場所でモニターを見ていたアルトマンは、初めて表情を変えた。
わずかに。
本当にわずかに。
眉をひそめる。
『なるほど』
静かな呟き。
『そういう進化か』
戦闘データには存在しない要素。
計算外の変数。
信頼。
共闘。
そして繋がり。
彼が最も理解できない力だった。
一方。
レンはまだ気づいていなかった。
この戦いが。
死神討伐プロジェクトそのものを大きく揺るがす転換点になることを。
そして。
さらに厄介な来訪者が、すでにネオ・トーキョーへ到着していることも。
その人物は空港の到着ロビーで、スマホ画面を見ながら微笑んでいた。
画面には白雪エルの配信。
そして登録者数。
【57,821,340人】
「へぇ」
女は楽しそうに目を細める。
「やっと見つけた」
その笑顔を知る者は少ない。
だが。
かつて裏社会では、こう呼ばれていた。
――災厄の魔女。
死神が唯一、一度も勝てなかった相手として。




