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第16話 休暇終了、戦場再起動

 ネオ・トーキョーの夜は、いつもより静かだった。


 それが逆に、不気味だった。


 スタジオの窓ガラスに走った赤いレーザーサイト。


 その一点を見た瞬間、レンの脳内で何かが切り替わる。


(来たか)


 アルトマンは、こういう男だ。


 待たない。


 躊躇しない。


 準備が整った瞬間ではなく、「今壊せる」と判断した瞬間に動く。


「シオン」


「分かっています」


 返事は一拍早かった。


 同時に、シオンの手が長刀の柄にかかる。


 迷いがない。


 昔からそうだ。


 この女は、戦闘になると一切の無駄が消える。


 逆に言えば、今ここから先は“会話の時間”ではない。


 次の瞬間。


 ガラスが破裂した。


 爆音。


 衝撃波。


 スタジオの照明が一斉に落ちる。


「伏せろ!」


 レンはミアのいた位置を一瞬で思い出しながら叫ぶ。


 だがミアはいない。


(会議中か……助かったのか、いや)


 安堵する余裕は一秒もない。


 天井が崩れ落ちる。


 黒い影。


 降下兵。


 無人機。


 スラスターの音。


 一気にスタジオ内部へ侵入してくる。


《うわあああああ!?》


《また始まった!?》


《これ生配信じゃないよな!?》


《エルちゃん逃げて!!》


 コメント欄はパニックと興奮の境界を行き来していた。


 レンは舌打ちする。


「配信切れてないのが一番終わってるんだよなぁ!!」


 着地音。


 無人兵器群。


 先頭の機体が静かに起動する。


『対象確認』


『白雪エル』


『排除優先度:最高』


「律儀だな」


 レンは低く笑う。


 同時に拳銃を抜く。


 撃つ。


 一発。


 無人機の頭部が吹き飛ぶ。


 だが、止まらない。


 次、次、次。


 数が多い。


 最初から“消耗戦”前提の投入だ。


「ほんと嫌な戦い方するよな、あいつ」


 アルトマンのやり方はいつも同じ。


 質で勝てないなら量で潰す。


 相手の思考と体力を削り切る戦術。


 そして最後に、最も効率のいい“処理”を行う。


 その時だった。


 横から風が裂けた。


 金属音。


 一体の無人機が真っ二つに割れる。


 シオン。


 すでに動いていた。


 無駄のない踏み込み。


 一閃。


 ただそれだけで、敵が崩れる。


「やっぱり化け物だろお前」


「失礼ですね」


 返事は淡々としている。


 だがその動きは異常だった。


 無人機の攻撃を避けるのではなく、迎えに行っている。


 “最短で壊すための最短距離”だけを選んでいる。


 レンとは違うタイプの怪物。


 だが。


『増援投下』


 上空。


 輸送ドローン。


 さらに十機。


 二十機。


 三十機。


 終わりがない。


「うわ、飽和攻撃じゃん」


 レンは乾いた笑いを浮かべる。


「これ、普通の配信なら炎上してるぞ」


《してるよ》


《もう手遅れだよ》


《視聴者数さらに増えてるの草じゃない》


 コメント欄は妙に冷静だった。


 いや、むしろ“慣れてきている”。


 人は異常を繰り返し見ると、それを日常として認識してしまう。


 その時。


 シオンが小さく呟いた。


「レン」


「なに」


「左上」


 言われるまま視線を上げる。


 ビルの影。


 そこに“それ”はいた。


 人ではない。


 機械でもない。


 だが明らかに“戦闘のために設計された何か”。


 細長い四肢。


 不自然な関節。


 顔のない頭部。


 そして、圧倒的な圧。


「……あれ」


 レンの声が一段低くなる。


「試作型か」


 シオンが静かに頷く。


「ええ」


 そして。


「私の知っている個体ではありません」


 つまり。


 アップデート版。


 “死神対策”の最新版。


 次の瞬間。


 それは消えた。


 いや、違う。


 認識できない速度で動いた。


「っ――」


 レンは反射で後退する。


 同時にシオンが割り込む。


 金属がぶつかる音。


 衝撃。


 スタジオの床が割れる。


 シオンの刀が押し込まれている。


 拮抗。


「……重いですね」


 シオンの声がわずかに揺れる。


「初めて見るタイプだ」


 レンは即座に判断する。


(近接特化・反応速度超高・学習型)


 つまり。


 “ゼロの上位互換”に近い。


『解析完了』


 機械音。


『対象:九条シオン』


『危険度評価:同等』


『優先排除対象へ変更』


 その瞬間。


 シオンの表情がわずかに変わった。


「レン」


「なに」


「少し本気出します」


「最初から出せ」


     ◇


 空気が変わる。


 シオンの呼吸が消える。


 刀が“ただの武器”ではなくなる。


 殺意が空間を圧縮する。


 一閃。


 音が遅れて届く。


 機体の腕が落ちる。


 二閃。


 胴体に亀裂。


 三閃目に行こうとした瞬間。


 シオンの足が止まる。


 微細な硬直。


「……っ」


 初めて見せた“ノイズ”。


 レンはすぐに理解する。


(電磁干渉か)


 アルトマンはここまで読んでいる。


『捕捉』


 無人機群が一斉に収束する。


 レンとシオンの両方へ。


 包囲。


 完全封鎖。


「やるなぁ」


 レンは小さく笑う。


「ほんと嫌な仕事する」


 そして。


 スマホを見る。


 配信画面。


 視聴者数。


 すでに三千万人。


《え、詰んだ?》


《これ無理では》


《エルちゃん……》


 レンは少しだけ息を吐く。


「なぁ」


 誰に言うでもなく。


「こういうのさ」


「普通、配信事故って言わない?」


 返事はない。


 当然だ。


 だが。


 レンはカメラを見た。


 そして、いつもの顔を作る。


 少しだけ笑って。


「まぁいいや」


 拳を握る。


 傷はある。


 疲労もある。


 敵は増えている。


 でも。


「配信は、まだ終わってない」


 その瞬間。


 レンとシオンが同時に踏み込んだ。


 戦場は、再び加速する。

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