表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

第12話 死神、初めて帰る場所を知る

戦闘終了から三日後。


 ネオ・トーキョーは、未だに“死神配信”の話題で持ち切りだった。


 街頭モニター。


 ニュース番組。


 切り抜き動画。


 SNS。


 どこを見ても白雪エル。


【伝説の二時間三十二分】


【リアル最強VTuber】


【同接世界記録更新】


【死神は実在した】


「最後のやつだけライン越えてない?」


 レンはカフェの隅でぼやいた。


 変装用の帽子を深く被り、端末をスクロールする。


 どの記事も盛りに盛られていた。


《白雪エル、軍用AIを単独撃破》


《実は政府の秘密兵器説》


《黒乃ミアとの関係性を徹底考察》


「なんでそっちがメイン特集なんだよ……」


 しかも再生数が一番伸びている。


 インターネット、いつだって恋愛ネタが好きすぎた。


 その時。


 向かい側から、小さな笑い声が聞こえた。


「エルちゃん、また顔赤い」


「赤くない」


「なってるよ?」


 黒乃ミアだった。


 今日も変装している。


 大きめのパーカーに眼鏡。


 だが隠し切れていない。


 オーラが強い。


 一般人なのにSSRみたいな存在感を放っている。


「というか、なんで普通にいるの」


「呼ばれたから?」


「呼んでない」


「でも断らなかったじゃん」


「……」


 図星だった。


 レンは視線を逸らし、コーヒーを飲む。


 落ち着かない。


 戦場で銃口向けられる方がまだ気楽だった。


 三日前の配信以降。


 レンの生活は激変していた。


 登録者数、五千万人突破。


 企業案件、数百件。


 海外進出オファー。


 アニメ化提案。


 映画化提案。


「怖っ」


 人生の速度がおかしい。


 しかも問題はそこではない。


 最悪なのは。


《エルミア結婚しろ》


「だからなんなんだよそのタグ……!」


 世界規模で定着していた。


 もはや消えない。


 ミアは楽しそうに画面を覗き込む。


「人気だねぇ」


「他人事みたいに言うな。半分あんたのせいだぞ」


「半分で済むかな?」


「自覚あるんだ……」


 レンは頭を抱えた。


 だが、そんな軽口を叩いている時間は嫌いじゃなかった。


 むしろ。


 少しだけ安心する。


 それが自分でも不思議だった。


「でもさ」


 ふいに、ミアが言った。


「よかったね」


「……何が」


「エルちゃん、ちゃんと愛されてるじゃん」


 レンの指が止まる。


 ミアは優しく笑った。


「配信見返したんだけどさ」


 レンの嫌な予感が跳ね上がる。


「やめろ」


「コメント欄、ずっと“死なないで”って流れてた」


「やめろって」


「エルちゃん、嬉しそうだったよ?」


「見返すなそういうの!!」


 レンは耳まで真っ赤になった。


 ミアが吹き出す。


 その笑い声が、妙に心地いい。


 レンは小さく息を吐いた。


「……よくわかんないんだよ」


「ん?」


「応援されるとか」


 ぽつりと漏れる。


「昔は、そういうの無かったから」


 任務は成果だけ。


 感情なんて不要。


 失敗した人間は消える。


 ただそれだけだった。


 でも今は違う。


 画面の向こうに、待っている誰かがいる。


 自分の無事を喜ぶ人がいる。


 次の配信を楽しみにしている人がいる。


「なんか……変な感じ」


 レンは苦笑した。


 ミアは静かにその横顔を見つめる。


 そして。


「じゃあさ」


「?」


「少しずつ慣れていけばいいんじゃない?」


 その言葉は驚くほど自然に胸へ落ちた。


 レンは少しだけ目を伏せる。


 そういう考え方を、自分は知らなかった。


 その時だった。


 カフェの大型モニターが切り替わる。


【速報】


【死神討伐プロジェクト 第二段階始動】


 レンの表情が消える。


 映像に映ったのは、アルトマンだった。


 相変わらず無駄のないスーツ姿。


 淡々とした顔。


『諸君』


 静かな声が店内に響く。


『先日の戦闘で確認された通り、“死神”は危険度S級を超える存在だ』


「お前が育てたんだろうが」


 レンがぼそっと呟く。


『よってアーク・ヘリオス社は、正式に対死神専用部隊を投入する』


 次の瞬間。


 映像が切り替わる。


 そこに映った人物を見た瞬間。


 レンの目が細くなった。


「……嘘だろ」


 白銀の髪。


 鋭い目。


 軍用コート。


 そして腰に提げられた長刀。


 ミアが不思議そうにレンを見る。


「知り合い?」


 レンは数秒、黙っていた。


 やがて低く呟く。


「……最悪の」


 映像の中の女が、静かに口を開く。


『久しぶりですね、死神』


 その声を聞いた瞬間。


 レンの背筋に、冷たいものが走った。


 かつて。


 唯一、自分と互角に戦えた存在。


 白銀の鬼。


 元S級処刑人。


 九条シオン。


『今度こそ、貴女を殺します』


 店内の空気が凍る。


 レンは無意識に拳を握っていた。


 ミアが小さく息を呑む。


「……エルちゃん?」


 レンは答えない。


 ただ。


 珍しく。


 本当に珍しく。


 その目に、明確な緊張が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ