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半死半生の騎士と全知全能のカミ  作者: 深瀬はる
第十五章 復讐の憎悪
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堕ちた野獣

 白く泡立つ水しぶきが弧を描き、虹のように散らばる。ドゥーレムの視力は、水しぶきの中心・海面付近で激突している二人を克明に捉えていた。伝説の武具・天の瓊矛が黒いマントの男の顔面を一直線に狙い、しかしその雷光の如き一閃は石の棒で阻まれている。

 ロトは海面を掠めながら突撃の勢いそのままに黒いマントの男を北へと押していた。海水が中央から裂け、二手に分かれた白い波の壁が爆発的に吹き上がる。

「おぉ。あのヒョロガリ神官、知略系と思っていたが案外脳筋か? 片っぽ腕がないくせに大した覇気じゃ! 気に入ったぜ!」

 ドゥーレムは夢現を構えた。青白い渦が剣を取り囲む。凝華した氷の粒が剣の周囲をキラキラと散る。

 ドゥーレムのこれはパック流奥義に名を連ねる技ではない。というか、ドゥーレムがカラハリの「天高く輝く蒼天の翼キーリア・フテラ・ストン・オウラノー」を見て、つい最近テキトーに思いついた技である。氷を得意とするカラハリに敢えてそれを上回る氷の技をぶつけて鼻をへし折ってやるために。不幸にもまだカラハリに試す機会はなかったが、ラーラルドが相手でも初見なら通じるかもしれない。

 ドゥーレムは翼を内側によせ、迅雷のごとく急降下した。

「わしも混ぜろィ!」

 海面すれすれで水平飛行へ移行。割れた海の軌跡を弾丸のように追う。夢現が撒き散らす冷気によって海水が瞬時に凍結し、割れた海が透明な氷の谷間へと変わっていく。吹き上がった水柱はまるで時間が止まったかのように空中でその形を保ち、輝く氷の彫刻としてそそり立った。

「ラーラルド・パーキンソン! かつてパック・オルタナと双璧を成した最強の剣士よ! テメェのガキをほっぽって失踪したかと思ったら、こうして敵として相まみえる日が来ようとはな! 志半ばで倒れたパック・オルタナに代わり、『野獣』『剣の刺さらぬ男』の異名を持つ現世界最強剣士ドゥーレム・バグマンが引導を渡さんと参上した! 過去の亡霊は思い出の中でじっとしているがよい!」

 会心の名乗り口上。決まった! とドゥーレムは自身の才能に戦慄した。

 ドォォォォン――。突如、目の前で黒煙が上がる。

 ドゥーレムは前方から飛んできた何かとすれ違った。すれ違う刹那、それを目で追う。

 ブスブスと煙を吐いていたのは、全身が丸焦げになったロトであった。

 悪いなヒョロガリ君、今は助けられん。なぜなら、

 

―我流・ドゥーレム流 高龗神―


 すでに我が夢現が彼奴の首に狙いを定めておるからじゃ!

 黒煙の向こうに、その黒煙をも塗り潰す漆黒の姿があった。

 ドゥーレムは突進しつつ斬りかかる。剣の通った軌跡に、青白い冷気の帯が残り、極度の低温で周囲の空気が歪んで揺らめいた。

 ……ありゃ?

 突然飛行速度がガクンと急落したのを感じた。体勢が崩れ、目の前に佇む黒いマントの男の頭と足がひっくり返って見えた。もちろん実際にひっくり返ったのはドゥーレムの方だ。

 翼を形成している白い刃の集合がほどけていく。まるで蝶の群れが思い思いにどこかへ羽ばたいていくように。

 ドゥーレムが認識できないほどの速度で放たれた二条の黒い紫電一閃によって、自慢の両翼が撃ち抜かれていたのだった。

 まずい! とっさに左手を真っ直ぐ前に伸ばす。

魔法障壁(アラ・マギクス)

 唱えた瞬間に、ガラスを粉砕するような音が耳を(つんざ)いた。

 ドゥーレムの防御魔法を貫いたのは、三つ目の黒閃だった。



 陽動の第四艦隊がエソリスから出撃した一方で、ジョージたち別働隊はユパに集結していた。別働隊は動きを悟られないことこそがその存在意義の全てであるため、第四艦隊とは完全に別ルートが選択されている。

 聖地を境に東側の大洋を東大怒海、西側を西大怒海と呼ばれる。中央大陸西岸に位置するエソリスを出立した第四艦隊は、東大怒海を北西へと舵をとる。別働隊は公国最東端の都市ユパを起点とし、西大怒海を北東へと渡って聖地を目指すのだ。

 別働隊の陣容は七龍の武器の所持者五名に加え、伝説の武具たる阿字の一刀を託されたパック流剣士カラハリ・ローラン。さらにエソリスから呼び寄せられた司民卿ディスティーヌと司兵卿ラムが合流していた。

 ディスティーヌは辰星の斧を所持することとなった。とはいえある界隈で「暴虐の聖女」の異名で恐れられたディスティーヌのゴリラパワーは徒手空拳でこそ発揮されるため、斧は彼女の背にくくりつけられたまま出番はなさそうだ。斧を振り回すシチュエーションを考慮したとしても、膂力に劣るラムよりディスティーヌの方がどのみち適任だろう。

 ラムはベアードが囲い込んでいた十一本の天の羽々矢のうち三本を預かる。ちなみに六本は第四艦隊に加わったアニー以下パック流剣士六名が護身用に持っており、一本は何とユネハスの技官モリー・スプラウトに授与されていた。リリパット小人であるモリーが矢を持つと、まるで槍のようなサイズ感である。

 そう、別働隊にはモリーも同行していた。ジョージにとってはリアシー武闘大会ぶりの再会だ。

 モリーが別働隊に加わった理由は聖地までの移動手段を確保するためであった。モリー曰く、

「ユネハスの魔法技術は冥力の深淵にも足を踏み入れている。異なる生物同士を魂魄レベルで融合するために冥力が活用されており、故に合成獣は冥力に耐性を有する」

 生き物同士の融合だとかいう生理的に抵抗があることをさらりと言ってのけるのが技術屋らしいところだろうか。

 ジョージはユネハスから到着したその怪物を初めて見たとき、反射的に剣を抜いた。慌ててジョージに組み付いて制止したのはハンクとフロルだったがもちろんこの二人はすぐさま撥ねのけられてしまったので、ディスティーヌとマチルダの武闘派女性コンビが足にタックルし、さらにキマロリネスが光るパンチをお見舞いしてようやくジョージは我に返った。

 その怪物とは、有翼合成魔獣キマイラ。

 全体的な風貌はライオンだ。そこにコウモリのような黒い翼膜の翼が一対くっついている。尻尾は緑の鱗に覆われ、先端で二股に枝分かれしている。その先には蛇の頭だ。そしてライオンのたてがみの中に横長の瞳孔が光っていた。すなわち、肩のあたりからもう一本の首――山羊の首が、たてがみに半ば埋もれるように生えているのであった。

 エソリスに派遣されていた二体のキマイラの内の一体を、モリーがユネハス本国と話をつけて拝借したのだという。本来はユネハス魔導兵をエソリスから回収することを目的とした派遣だったのだが、その目的を達するには一体のキマイラのみで事足りてしまったという事実も状況を後押しした。

「アラン・テルを、我々は忘れない」

 生き残った魔導兵の半数は異口同音にそう述べ、災害援助名目での活動継続を上申したのである。

「忘れろ。そして前へ進め」

 マチルダはそう伝えたが、彼女の意図に反して、半数どころかほとんどの魔導兵が復興支援に残ることになる。

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