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元平民の男爵令嬢が全力で王子を籠絡しようとしたはずが、なぜか恋のキューピッドになりました  作者: みさくらみかん


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 3日後の放課後、約束通りミネリアは古い噴水にやってきた。今回はまだクリストフは来ていない。荒れた草むらを眺めて待つが、クリストフは来ない。


 (逃げちゃったかな……殿下の意気地なし。あーあ、目の前で手紙書かせたらよかった。失敗しちゃったなぁ)


 日が傾いてきて、そろそろ帰ろうかとため息をつきながらミネリアは立ち上がる。

 その時、がさがさを草を踏んで慌ててやってくるような足音が聞こえてきた。


「ミネリア嬢……! ごめんね、遅くなってしまった……!」

 麗しのクリストフ殿下が汗をかいて息を荒げている。その姿にミネリアは目を丸くした後、にんまりと笑った。

「ごきげんよう、クリストフ殿下。お手紙書けたんですね」

 クリストフの手には分厚い手紙が握られている。きっとこの3日間で色々と考えて思いを書き連ねたのだろう。

「これで許してもらえるかはわからないけど…………、精一杯誠意を込めて謝罪と自分の気持ちを書いたつもりだよ」

 クリストフは自信がないようで視線が空をさまよっている。

「一生懸命書いたならきっと大丈夫ですよ!」

 励ますようにミネリアは言って手を差し出す。その手に、クリストフはおずおずと手紙を乗せた。

「その、臆病で申し訳ないけれど……頼んだよ……」

「はい、任せてください。レティーシャ様とは2日後のお昼にお会いしますから、その時にお渡しますね。きっと大丈夫ですよ」

 大丈夫、大丈夫と何度もミネリアが繰り返すと、クリストフはようやく笑みを浮かべた。


  

***



 そしてレティーシャとのランチの日。ミネリアは緊張していた。独断でレティーシャの計画をばらし、仲直りを目論んで勝手なことをしたのだ。一番最初にレティーシャに呼び出されたとき以上にどきどきしながら個室の扉を開く。


「ごきげんよう、レティーシャ様。先日は素敵なリボンをありがとうございました」

「前回はごめんなさいね。……リボン、つけてくれないのね」

 少し唇を尖らせて、不満げに、悲しそうにレティーシャはつぶやく。前回淑女の仮面が剥がれ落ちてしまったせいか、今日もレティーシャはいつもより子供っぽくて年相応の少女に見える。

 

「私もあんな素敵なリボン、毎日つけて自慢してまわりたいのですけれど……。今の私の状況ですと、みなさまの反感を買って汚されたりするかもしれなくて。代わりに部屋に置いている宝物のぬいぐるみにつけて、毎日眺めています」

「そうなの、じゃあいいわ」

 ミネリアが正直に話すと、レティーシャの機嫌は回復して少し嬉しそうにしている。

「私もレティの作ったリボンが欲しいわぁ」

 マールが少し茶化すように言うと、いくつも持ってるでしょとレティーシャが返す。

 食事は至極和やかな雰囲気で進んだ。


 デザートを食べ終え、いよいよ報告の時間だ。

 紅茶を一口飲んで、からからに乾く喉を濡らしてミネリアは覚悟を決めた。


「レティーシャ様。その……先日、クリストフ殿下がお使いの栞を確認できました」

 ミネリアがそう切り出すと、レティーシャは目を見開いた。

「使い古された感じの、羊皮紙に紫の花の押し花のものでした。……大切な人から昔貰ったものだと」

 ミネリアの話を聞いたレティーシャは泣きそうな顔をしていた。

「紫の花って、一番最初に渡したロベリアの栞じゃない……。捨ててって言ったのに」 

 レティーシャはそうつぶやいた後、ひとつ息を吐いてミネリアにその栞のことを話し始めた。


「クリストフはね、小さい頃は病弱で部屋からなかなか出られなかったから、私を含めて年の近い何人かの子供達が話し相手として王宮に参じていた頃があったの。本当に他愛のない話ばかりしていたわ。クリストフの読んだ面白い本の話を聞かせてもらったり、飼ってる猫が可愛いって話をしたら絵に描いて見せてと言われて一緒に絵を描いたり、先日出た異国の果物が美味しかったから一緒に食べようと言われて一緒に食べたり……」

 

 レティーシャはかつての楽しかった日々を思い出すように、遠くを見て微笑んでいる。

 

「ある日、私がうちの庭は綺麗だという話をしたの。そしたらクリストフが見たいと言って……。でも外出なんてできないから、私が一番キレイな花を持ってきてあげるって約束したんだけど、その当時私の一番のお気に入りだったロベリアは切り花には向かなくて。茎は細くて短いし、切るとすぐしおれてしまうのよ。だから押し花にして贈ればいいと思って、私の瞳の色と同じ紫のロベリアの押し花を栞にして次の面会の日に持っていったの。——ところでミネリア様は紫のロベリアの花言葉をご存知?」

 

 ミネリアは頭を振った。レティーシャはふふっと笑う。

 

「『悪意』よ。贈ってはいけない花のひとつね。当時私は花言葉を全然知らなかったのだけれど、クリストフは知っていたのね。なんとも言えない顔をして受け取っていたわ。帰ってから何気なく両親にその話をして、その時に初めて紫のロベリアの花言葉を知って、大慌てで弁解して新しい栞を贈ったわ。クリストフは私が花言葉を知らなかったと知って、嫌われてなくてよかったと笑って許してくれたけれど」

 

ずっと過去を懐かしそうに柔らかな表情で話していたレティーシャは最近のクリストフを思い出したのか唇を尖らせて不満をあらわにする。

「栞をずっと大事にしてくれていたのは嬉しいけど、それと他の女の子を侍らしていることは別の話だわ」 

「……それに関しては、クリストフ殿下からレティーシャ様あてのお手紙を預かってきました」

「てがみ?」

 すっとミネリアがレティーシャに手紙を差し出すと、きょとんとした様子でレティーシャは素直に手紙を受け取った。

 

「すみません。栞の件でクリストフ殿下を問い詰めるにあたって、私がレティーシャ様のご依頼でクリストフ殿下に近づいたことを明かしてしまいました。そうしたら、クリストフ殿下はレティーシャ様に謝りたいけれど、あわせる顔がないとおっしゃって……」

「そんな、いまさら、そんなこと言われたって……」

 急展開にレティーシャは戸惑った様子だった。手紙は受け取ってしまったけれど、おろおろしている。


「あらあら。とりあえず読むだけ読んだらいいんじゃない? 長い間まともに話してなかったんでしょう? 読んでから、クリストフ殿下を許すか許さないか、一発殴るか、決めたらいいじゃない」

「そ、そうね……なんだかすごく分厚いし……そうするわ……」


 ミネリアは手紙の内容までは知らない。クリストフが謝罪に見せかけた自己保身や言い訳を長々と書き連ねてなければいいなと願った。

ここまでで色々と投稿時間を変えてみましたがどの時間でもあまり変わらない気がするので、明日の最終話はまた朝の8時前後に投稿します

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