表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
将門炎舞記 下巻  作者: 浮島太郎
第3章 星の法、火の法

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/38

【2.星辰盤の黒き渦】


将門の本拠地である下総豊田の屋敷は、冬の風にきしむように揺れていた。

滝姫は、星供ほしくの御堂に独り座し、星辰盤せいしんばんを前に静かに息を整えていた。

妙見菩薩みょうけんの星供を行うとき、彼女の心はいつも澄んでいた。

だが、この夜は違った。

胸が、突然きゅっと締めつけられた。

星辰盤の上に浮かぶ七曜(北斗七星)が、淡く光を放つ。

七つの光点が規則正しく並び、静かに瞬いていた。

――その光が、ふいに乱れた。

揺らぎ、歪み、次の瞬間、黒く濁った。

星辰盤の中心に、どす黒い影が渦を巻き始める。


その瞬間、冷たい刃が胸に突き立つような痛みが走った。

滝姫の視界が突如、“二重”に見える。

現実の景色……そして、その上に重なる――おぞましい景色。

燃える村々、炎に呑まれる家々

生きたまま焼かれる兵馬

泣き叫ぶ女たち、逃げ惑う子どもたち

叫び、嘆き、哀しみが、耳ではなく、頭の内側に直接響き渡る。

滝姫は胸を押さえ、その場に蹲った。

息ができない、涙が止まらない。

やがて、すべてが灰となり、色を失い、炭芥が風に散った。

「……これは……未来……? この地で……起こる……?」

震える声が、言葉にならない。


――そのとき、

心の奥から声が聞こえた。

(……これは怨火の呪い。いや、呪詛だ……)

山々の霊気が悪意を増幅し、敵意と害意が渦巻いている。

滝姫がその方向を仰ぐと、視界の奥に巨大な影が立ち上がった。

筑波山の二つの峰に足を掛け、緋縅ひおどし巨鎧おおよろいをまとったむくろが、燃え盛る矢をつがえ、将門を射殺そうと狙いを定めている。

その先陣として、口から火を吐き、天を蛇行しながら進む赤龍が現れた。

闇を裂いて現れたその龍は、生命を呑み込み、大地を焼き尽くしながらこちらへ迫ってくる。

(……これが……この地に災禍をもたらすもの……)


次に見えたのは、父、将門の姿だった。

矢を受け、血に濡れ、それでも立ち上がる。

黒い鎧をまとい、黒馬にまたがり、炎の中を進む。

滝姫の小さな手が震えた。

「……父上の影が……濃くなっている……」

将門から、七つの影が伸びていく。

将門の七つの影は、悲哀と憎悪と激しい怒りとを呑み、激しく慟哭する。


そして――滝姫は水鏡の中に自分自身を見た。

白い顔。

黒い髪。

だが、その姿は幼い巫女ではなかった。

滝夜叉姫。

黒い衣をまとい、星辰盤を手に、影を従える巫女。

その目は、影を“視る”目ではない。

影を“操る”目だった。

滝姫は震えた。


その瞬間、未来の影が足元に落ちた。

黒い手が、滝姫の足首を掴む。

「ひッ……!」

影が囁く。

(お前も影になる……、お前も影を生む……、お前は影を従える……)

滝姫は星辰盤を抱きしめ、必死に首を振った。

「いや……いや……! わたしは……!」

影が笑う。

(何も救えぬ、運命さだめはある。

将門は闇に堕ち、お前は夜叉となる。)


――突然、

視界が白く弾けた。

滝姫が倒れかけた瞬間、社の扉が勢いよく開いた。

「滝ッ!」

将門が駆け込み、娘を抱きとめた。

その瞬間、未来の影は霧のように消えた。


滝姫は震える声で言った。

「……未来が……見えました……」

将門は息を呑む。

「滝姫……」

滝姫は涙をこぼさず、ただ静かに言った。

「父上は……地の怨火と戦う者です。

影は……これから父上の怒りと悲しみを食べていきます。

このままでは……父上は“闇そのもの”になってしまう……」

将門は娘を抱きしめた。

「どういうことだ……」

滝姫は震える声で答えた。

「父上は……やがて影に飲まれ始めます……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ