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将門炎舞記 下巻  作者: 浮島太郎
第3章 星の法、火の法

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【3.星巫女、未来を告ぐ】


滝姫はしばらく将門の腕の中で震えていた。

だが、荒い呼吸がゆっくりと整うにつれ、その瞳の奥に、巫女としての静かな光が戻っていった。

滝姫は星辰盤にそっと触れた。

「……父上。わたし……ただ恐ろしかったのではありません。

星が……未来の底を開いたのです。」

その指先はまだ冷たかったが、声には、幼い巫女とは思えぬ確かな芯が宿っていた。


将門は娘の肩に手を置き、静かに促した。

「滝姫……何を見た。」

「……この豊田が、火の海になっていました。」

その声は震えていた。

「村々が、夜の闇の中で燃え上がるのです。

火炎が意思を持つ獣のように、家々を舐め、田畑を呑み、人の叫びを餌にして、さらに大きくなる……。」

滝姫は胸を押さえた。

「……あれは夜襲です。闇に紛れた者が、一斉に火を放つのです。」

瞳が、恐怖と確信の狭間で揺れている。


「そして……その火炎を導く者は、緋縅ひおどしの大鎧を纏う巨大な影です。

その影は、夜空を覆うほどの大きさで筑波の二つの峰に足を掛け、燃え盛る矢をつがえ、父上を射殺そうとしていました。」

滝姫は胸に手を当てた。

「……あれは人の憎悪が、山の霊気に触れ、怨が霊力を得て顕れたもの。」

滝姫は低く言った。

「その影の前には、赤い龍がいました。龍は……火そのものです。

口から炎を吐き、夜空を蛇行しながら村々を焼き尽くしていきました。」

滝姫の声が低くなる。

呪詛じゅその炎が、山の龍脈りゅうみゃくに触れて形を得たもの。……あれは“業火”です。

人の怨念が、怒りと怨みが、龍という姿を借りて現れたのです。」

滝姫は目を閉じた。


滝姫は震える指で星辰盤を撫でた。

「そして……父上の姿が見えました。父上は……炎の中に立っていました。

矢を受け、血に濡れ……それでも立ち上がっていました。」

将門は娘の言葉を黙って聞く。


滝姫は静かに言った。

「父上を狙う影は……父上の怒りと悲しみを食べて強くなります。

豊田が焼かれる未来は……その影が放つ“最初の炎”です。」

将門は娘の手を握った。

「滝姫……その未来を変える術はあるのか。」

滝姫は静かに頷いた。

「あります。父上が……影に飲まれぬこと。

そして……わたしが、父上の影を見続けること。」

その言葉は、幼い娘のものではなかった。


滝姫は水鏡の中に映った自分を思い出し、小さく息を呑んだ。

「そして……わたし自身の未来も見ました。

怨に囚われ、黒い衣を纏い、黒い星辰盤を手に、影を従える巫女

……滝夜叉へと姿を変えた、わたしを。」

滝姫は胸を押さえた。


将門の胸が痛む。

滝姫は、父の表情を見て、そっと首を振った。

「父上……未来は決まっているわけではありません。

でも……“兆し”は、もう動き始めています。」

将門は娘を抱き寄せた。

「滝姫……お前は……強い子だ。」

娘は、父の胸に顔を埋め、小さく頷いた、


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