主人公の知らない相棒の旧友との会話は王道です
ミスった・・・
二人の間にふわりとなま温かい風が吹いた。
「一年半、かー。長いようで短いね。」
星華と呼ばれた少女は、どこか遠い目をして夜空を見上げた。その横顔を静かに見つめながら、花は短く応じる。
「ああ、そうだな。」
二人の間に漂う独特な雰囲気に耐えかねて、僕は肉体から矢継ぎ早に問いかけた。
『ねえ、この人誰?どういう関係?』
『ちょっと黙ってて。あと、霊体になって。』
『はい・・・え、なんで?』
『とりあえず。』
『分かった。』
花の真剣な声音に押され、僕は大人しく肉体から離れ、霊体になる。そして、花は、改めて少女の姿に視線を落とした。
「なあ、お前のそれ、なんちゃって制服?」
「あ、ばれた?」
「そりゃそうでしょ。母校の制服ぐらいさすがに覚えてるよ。」
「さすがにか。」
「なんか、陸上ガールって、いつもジャージ姿ってイメージあるわ。」
え、この人って陸上やってる人なの?たしかに暗くて気づかなかったけど、よく見たら日焼けしてるな、
「それはね。アニメのみすぎだね。」
いやいや、お嬢ちゃん。これは世間一般の認識でしょ。
「いやいや、世間一般の認識でしょ。」
花も同じこと思ってたのおもろ。
「なんじゃその認識。」
「でも、制服姿、いいね。」
ブハッ!さりげなく褒めてるのキモ!しかも僕の声ながら、イケボだったし。
「ありがと・・・」
星華は自分の制服を見る。そして、自分の手の上にあるミンティアに気づき、それを食べた。
「てか、早めにずらかるぞ。奇声発したことに首突っ込まれる前に。」
僕はこの会話の区切りを見逃さず、早く去るように促さす、
『そうだな。』
「では、ここらへんで。」
僕の助言を受けた花はさっさとその場を立ち去ろうと踵を返した。
「いや、ちょっと待ってよ。」
「え、な、なんでしょう・・・」
すれ違いざまに腕を掴まれ、花はあからさまに動揺して腰が引ける。星華はニヤリと口角を上げた。
「さっきの奇声、何?」
「あ、それは―――」
花は、腕を組んで天を仰ぐ。何を言おうか必死に考えているのか、神からの助けを求めているのか。
そして、すーっと、僕の方を見る。その視線から察するに、どうやら、僕に責任を取ってもらいたいみたいだ。
「ただの独り言って言え。」
僕はヤジを飛ばすかのように指示する。
「ただの独り言。」
花は僕の指示を素直にそのまま口に出してしまった。星華の目が怪しく光る。
「ふーん。ただの独り言で『突き動かす!(迫真)』、ねー。」
「若気の至り?というものだよ。」
「なんか・・・変わったね。」
「そ、そうかな?」
花は困ったような表情をする。しかし、薄く開いたその目は確かに沸々と僕の方を向いている。
「確かに変わったわ。疲れすぎて脳が沸騰して熱変性しちゃったわ!ガハハ!」
僕はへらへらしながら額を手で叩いた。
『もう、それでいくわ。』
「おう!いいぞー。」
ノリで答えた僕の適当な言い訳を、花は真顔で採用する。
「疲れすぎて脳が沸騰して熱変性したかも。」
「なるほど。」
星華は深く頷いた。いや、納得するんかい。面白い女だぜ、まったく。
すると、花は、ふと思い出したように話題を変えた。
「というか、今日はなんで戻ってきたの?」
「寮で火事が起きちゃって。」
「えー、それは災難。」
「幸い全焼じゃないから復旧までに五日しかかからななくて、それまでは家にいろっていわれて。」
「なるほどね。てっきり退学したかと思ったよ。」
「私がそれすると思う?」
「まあ、中学一年生の頃の・・・」
「あーー!」
花が何かを言いかけた瞬間、星華は耳をふさいで大声を上げた。
「急にどうした。」
「どうしたもなにもないよ。黒歴史を言わないで。」
「フッ。」
「何笑ってんのよ。」
「いや、懐かしくてさ。」
「郷愁感じすぎでしょ。」
「まあね。」
「変なの。」
まぶしい星華の陽の笑顔を見て、花は満足そうに口元をゆるめ、僕は太陽に当てられた吸血鬼のように灰になった。
「そろそろお開きにするか。」
「うん、じゃあね。」
星華はひらひらと手を振りながら僕らの進行方向へ去っていった。まあ、コンビニを右折すれば良いか。
「で、花君。さっきのはなんだい?」
僕はため息をついている花にさっそく追及の口火を切る。
『ま、走りながら話そうか。』
「それはそうだな。」
『あと体交換するぞ。』
「へいへい。」
僕は花の中に入ると、花は肉体から出ていき、霊体となった。そして、走り始める。
『そうだね。彼女は中学校の時の友達。今は仙台の方で陸上をやりながら過ごしてる。』
『どういう友達?』
『・・・ただのクラスメートとしての。』
『へー。』
花のどこか言葉を濁すような返しに、僕は走りながら、以前から抱いていたの僕自身の変化について言葉にし始めた。
『僕はさ、小学生の時は転校を繰り返してたこともあって、誰とも付き合いが短くて、ゆく先々の学校で友達が多い奴が羨ましかったんだ。花もそう思っていたでしょ?』
『まあ、少なくとも。』
『でもさ、高校生になってからは友達が多い人が羨ましいとは思わなくなって、友達とどれくらい仲が良いのかを重視するようになっだんだ。』
『そうなんだ。』
花はどうせ、『それはお前に友達ができなかったから逃げてるだけだろ。』とか思っているだろうけど、全然そんなことないんだが。まあ、いいや。
『たぶん、中学生の時にその考え方が変わったんだと思う。』
『たしかにそうなるな。』
『で、気づいたんだけど、その変わったきっかけを、僕は知らないんだ。』
『・・・それで、俺がその記憶を握ってると。』
『ああ、それを踏まえて、さっきの星華について教えてくれ。』
そう問われた花は、静かに息を呑み、沈黙する。これは核心を付いちゃったかな?
『・・・これは非常にまずいね。』
『じゃあ。せめて、なんで僕にそんなあいまいな態度をとっているのか教えてよ。』
『・・・』
『なあ、黙ってないで―――』
答えを急かす僕の意思に反して、不意に脚が重くなる。花は速度を遅くし始め、そして立ち止まり、夜風が吹き抜ける暗がりの中で重々しく口を開いた。
『それを知るのは、早すぎるよ、鳳。』
いつになく真剣で冗談を寄せ付けない声音に、僕は一瞬圧倒される。何カッコよくカッコいいこと言ってんだよー、と茶化そうとしたが、これ以上踏み込むのは拒絶されると悟る。
僕はその歯がゆさが胸に残り、小さく舌打ちをした。
『チッ、分かったよ。もうこれ以上中学時代のことには詰めない。でも、時が来たら教えてくれよ。』 『ああ。』
僕が我を折ると、花は満足そうに返事をした。まったく、なんて我儘なんだ。




