異世界人との会話が一番楽しいんだから!
やはり、通常時、僕が眠りから覚めるときは静からしい。ゆっくりと重い瞼を開き、寝ながら辺りを確認する。
窓から外を見ると、まだ暗く、日の出前でデジタル時計があったから、それをみると午前四時を示していた。ところで、デジタル時計か・・・
「あれ?」
デジタル時計ではなくアナログ時計派の僕は瞬時にここは自分の家ではないことを悟る。
このベッドの高級感と言い、アンティークランプと言い。
窓から外を見る感じ、ビル群の中の一角でここは高層階であると。なんか、ホテルっぽいな。
「ここは?どこだ?」
僕は現状を把握するためにベッドから起き上がった。
それと同時に、僕はついさっきまでの記憶を急激に思い出してきた。
そう、魔獣との戦いである。どこまで覚えてるかって言われると・・・魔力弾の飽和攻撃をしたぐらいかな・・・
「そういや、僕、生きてるの?」
僕は胸や足、顔をペタペタと触りながら体の隅々をチェックした。・・・てか上裸かよ。まあ燃えたんだから仕方がないけど。
魔力操作とかで止血とかしたけど、意識してなかったらさすがに血は再び出てくるし、骨折もだいぶやっていたよな?あと内臓もところどころやっていた気がするし。あと、焼けどもよ!左手大丈夫なんだが??
「あの傷からどうやって復帰したっつう話なんだが?」
首を傾げながら、僕は近くにあったライトを手に取り、電気のスイッチを押した。ところが、カチッという音が鳴る以外に特に変化はない。さすがに電気止まってるか。そう思いながら、窓から部屋の外を照らして見回した。光の先には無惨にも崩れ落ちた瓦礫の山が広がり、周辺の建物を押し潰している。凄惨な光景の中、ところどころに赤黒い動物の血が散乱しているのがはっきりと見えた。バイオでハザードな世界だな。
「それにドイツ語か・・・ベルリン・・・てことは戦ったところから少し離れた所って感じかな?」
僕は外の看板の文字を見ながらそう考察する。
「とりあえず、外に出てみるか。」
僕は部屋を出て、暗い廊下を慎重に歩き、建物の外へと足を踏み出した。とりあえず、外の状況を見ていかないと。夜風に当たりながら、ふと大事なことを思い出す。
「あっそうだ。花に連絡しておこう。」
そして、ソウルコネクトを発動させる。
『ヘイ!マイブラザー!ハナ!死んだと思ったー?生きて・・・』
『君は俺の心臓を壊す気かい?』
元気な挨拶をしたら叱責されてしまった。確かにそうだった。忘れてたわ。
『すまんて。』
『それはいいとして、生きてたのか・・・』
最後の通話からおよそ一日。そりゃ死んだと思って心配だったよなー。
『ずっと、寝てたわ。連絡できなくてすまんね。』
『いや大丈夫だ。今度こそ無事なんだろうな?』
『マジで、元気!』
今回はなぜかこんな元気なんだよな。意味が分からないぜ☆
『なら良かったよ。昨日、ベルリンで広島の原子爆弾と同レベルの爆発っていうのと火の進行の停止っていう報道があって、本当に、焦ったよ。』
『ああ、あれか。俺もあの爆発ビビったわ。』
てかリトルボーイと同レベルって・・・そんなデカい奴だったんだ。いや、魔力による単純なる破壊だけだった感じがするから熱線とか放射能とかはないのか。だから、僕はあまり怪我をせずにいられたのか?
『それと、明後日には、爆心地のベルリンに調査が入ってさ。何があるか分からないから早めに帰って来いよ。』
世界は行動が早いねー。あっぱれや!
『へいへい。分かったよ。それで、そっちはどう?』
『こっち?ああ、赤松のこと?それとも栄花のこと・・・いや、まず栄花のことから話すか。』
脳内に響く花の声は、どこか重苦しい響きを帯びていた。僕は崩れたビルの隙間から見える、白み始めたベルリンの空を仰ぎ見る。
『ん?栄花がどうしたの?』
『実はな、あいつ、魔力のことを知ってた。』
『・・・?そーれーは、どゆこと?』
静寂に包まれた街並みの中で、その言葉だけが異様に浮いて聞こえた。信号の明かりだけでなく、電灯の灯りもない大通りの無機質な静けさが、じりじりと肌を刺す。
『なんか、最初の魔獣に会って、いろいろあって、魔獣側のスパイをやってたんだって。』
『えー!じゃあ、え?あの手紙・・・まさか僕が死んだのって・・・』
『まあ、栄花のせいってなるな。』
『マジかよ!いやてか、なんで、スパイのこと言ってくれなかったん?』
裏切られたという怒りよりも先に、なぜあいつがそんな役回りを、というやりきれなさが胸をかすめる。あと、そばにいたのに、それに気づかなかった自分に落胆する。
『言えない感じにされていたらしいよ。それで、無理やりって感じだから、まあ、大目に見てくれ。』
『へー。ま、あとで、栄花にお仕置きしたるか!ほんで、謝るときの泣きべそが楽しみだぜ!ガハハ!』
僕は後で栄花の泣きべそを見れる状況を想像して、誰もいない廃墟の街で思わず口元を歪め、ニヤケてしまった。
『そ、そうだな。』
花は完全に引いている。そんなの知らないね!
『じゃあ、赤松の方は?』
『体は元気だよ。今会いにきてという命令が来たから栄花と病院に行ってるところ。』
ここで、僕は安心とともに嫌な憶測が脳裏を通り過ぎた。これを蔑ろすることはできず、思わず、花に質問する。
『ほう。てことは今、栄花隣にいる感じ?』
『そういうこと。ちなみに今の会話の内容全部栄花に教えたから。』
案の定・・・ん?
『え、ぜ、ぜ、全部?』
『うん。』
こいつに空気読みとかさせたら空気が終わりそうだな!いや、空気読みから空気壊しへと題目をすり替えるのが上手ってことか?そもそも、性悪野郎の説明なんて性悪野郎の一言でいいねんな。てことで、僕の人生は終了しました!ガハハハハハハハハハハ!
『まじで、こいつ・・・終わったわー。』
『栄花が死ね!それとごめんだって。』
泣きべそかくのはこっちになりそうだ。なんでって?殴られるからやな!ガハハハハハハハハハハ!
『うーん。まあ、全部気にすんなって言っておいて。』
『そういっておくよ。』
『全部だからな!』
この会話内容も気にすんなっていう意を全身全霊を込めてぶつける。
『了解。』
それをいなす花。からかい上手の性悪野郎ウィズ冷笑系にはかないませんわ!ガハハ!
「そっれにしても、ここはマジでどこだ?ドイツっぽい字だからドイツにいるってのは分かるんだけど、どこなのかはドイツ語知らんから分からんな。」
グルルゥー
おっと、腹の虫が鳴ってしまった。
「とりあえず、腹が減った!スーパーでソーセージとビール食うぞ!」
ま、ばれなきゃ犯罪じゃないし。そう思いながらあちこち練り歩こうとした矢先、背後から不意にここでは到底聞かないような言語が聞こえた。
「おいおい、そこの少年。」
その声は女性のザ・ニンゲンの声だった。そして、絶対に着飾った声でもある。
「へ?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
いや、別に人の声が聞こえたことに驚いたわけではない。聞こえたのが日本語だったからだ。まあ、たぶんアニメの広告だろう。昨今の日本のアニメ文化は著しいからな。海外でもかなり普及してるんじゃないか?
「あ、ちょ、少年!」
僕は一度立ち止まって見せる。『少年』・・・こんな日本語がついに海外にまで及んでいるとは。恐ろしや恐ろしや・・・
「見たことないけど、『少年よ大志を抱け』の奴かな?」
とぼけた声アンドわざとらしくボケをかまし、再び歩き出した。
「待たんか―い!」
思わず突っ込みを入れるように声が響く。
「あ、僕?」
僕は自分に指をさしながら振り向き、声の主を探す。いや、どうせ僕のことを言っているんだろうな、ということは気づいていたけど無視しようとしたんだが、それは無理らしい。
「あなた、僕のこと見えるんですか?」
見えているから話しかけているんだろ!と思いながら馬鹿らしく見せるために馬鹿なことを言う。
「そりゃそうだろ?」
どこか強気な声で僕を威圧する。
いや、マジか・・・その声の主は、僕の魔力感知の範囲内のビル群の中、いや、虚空から突如として出現した。魔法か何かか。とにかく危険だ。
「しかも、日本人なんですね。それとも、日本語が上手なだけ?」
暗くて、容姿が見えないな・・・案外かわいい声だからこれで、魔獣みたいな見た目だったらショックなんだが。
「二ホン・・・?なんなんだ?それは。」
日本を知らずに日本語を知ってるだなんて・・・どゆことなん?とりあえず、光をともすか・・・
そう思い、声の主の足元を照らし、顔を見ると、
「フーン。」
なにから言えばいいのだろうか・・・まず、良い服装だ。盗賊のようなスタイリッシュな副と外套を一枚まとっている。そのため、露出は控えめだが、そのわずかな露出が輝いており、無駄がない。そして、艶やかな美しい金髪。輝くピンク色の目。顔も女優級だ。僕じゃなくても惚れる。つまり僕は容姿に関しては惚れている。
「というか、少年。」
「は、はいなんでしょうか?」
待て待て落ちつけクールビューティーでジーニアスな僕!妖艶な美貌に惑わされるな!魔獣かもしれないんだぞ!
「感謝の言葉は?」
彼女は高圧的な態度で僕に近づいてくる。
「へ?」
感謝の言葉か・・・そもそも僕はこの人のことを知らないのに?急にオラオラされても困るんだが?ハテナなんだが?
「あー、覚えていないのか。」
なんやこいつ。いちいち上から目線で・・・ま、僕は寛大な心の持ち主だし、念のために雑魚っぽいふりして油断させたいからここは弱弱しい演技でもしておくか。
「な、なんでしょう。」
うわっ、今のめっちゃ雑魚モブがでた!ぽくて好きだわ。
「私が颯爽と駆けつけてあの魔獣から君を助けてやったのだよ。」
「はあ。」
まあ、なんとなくわかったわ。故に、ここは適当に聞き流す。自慢っぽいのに、なんか僕が彼女に助かってるかもしれんって、ウザイわ。
「あの魔獣は出力が低いが、一応虚構乖離をやっていたからな。それをかいくぐりながら魔獣に一撃。この恩を忘れるなよー?」
「はあ。」
虚構乖離とかかっこいい名前が出てきたけど舐められるのは嫌だから、質問しないことにした。ところで僕、魔獣ってワード出してないよな?ほんで、おそらく僕と彼女が言っている魔獣は同一・・・魔獣ってワードを一から作り上げた花ってスゴいのか?
「それにな・・・」
『てか、魔獣って本当に完全に倒したのか?』
「あ、やべ。」
ソウルコネクトした瞬間にこいつの口がピタって止まったから、絶対にスキルのおこりでバレとるやん。なんで、このタイミングなんだよー!人との会話中にスキル使ったら怪しまれるに決まっとるやん!しくったわー。
「少年。」
「す、すみません。スキルのことですよね。人が話してるときに・・・」
ぺこぺこと僕は謝罪する。
「何をやったのだ?」
彼女がついに僕の目の前までやってきた。意外にも、身長は僕と同じくらいか。もっと低いと思ってたのに。でもね、圧がスゴい。眼圧も、威圧も、パイ圧も・・・
とりあえず、ソウルコネクトのこと知られたくないから適当にパちこいとくか。ガハハ!
「いや、生命活動に必要なスキルですね。」
『今少し黙ってて。』
僕は彼女に話すのと同時に再びソウルコネクトを使用して花にスキルを使わないように告げた。
それと同時に、僕の左胸にいつの間にか指を突き立てられていた。
「・・・少年。君は自分の立場を知らないようだ。」
あ、これ返答ミスったら痛い目見る奴やん。―――いや、顔の可愛い女子、いや、異世界コスプレ系女子に胸をつつかれている状況・・・楽しみたいな。
「あの、それよりも自己紹介をやった方がいいんじゃないですか?」
とはいっても、一旦話をそらさないと、『おっと手元が狂った』って言われて痛い目見るかもしれんからな。自己紹介からいきましょうよ。
「あ、ああ。それもそうだな。私はチロアーフの王国騎士団第零兵士団第零兵士団団長ニッグ・アルスファードだ。」
チロアーフという知らない国の名前、王国騎士団という中世の世界観、セクターゼロとかいう中二病心くすぐられるネーミング。ニッグさんはどうやら異世界出身だそうですね。
僕もニッグさんに負けない名乗りをしなければ!
「僕は哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ホモサピエンス日本国国民風凪鳳・・・だ!」
普通に良くね?
「なかなかに長ったらしい名乗りだな。」
殺すぞ。
「―っす、ただの人間日本国出身の風凪鳳で十分です。」
僕はしぶしぶ省略して超絶簡素で面白みのない名乗りをした。
「人間か・・・まあ、いいか。」
何その含みありまくりな呟きは?言いたいことがあったらはっきり言えよと思ってしまうのですが、まあそれはいいとして。そろそろ、あたかも作ったようなわざとらしい威圧的な声が怠くなってきたな。
「というか、普通にしゃべってもろていいですか?」
「へ?なんで、ばれてる?」
おっふ。急なかわ声ギャップ助かります。
「その声でお願いします。」
「さっきのはかっこつけとか威張りたかったとかではないからな。」
「はあ。」
絶対嘘やろ。あと、いちいち手を振って否定するの可愛いからやめてくれ尊死する。
「それで、本題よ。さっき、あなた生命活動のためのスキルって言ったわよね?」
「言いましたけど?」
「フッ、セクターゼロの団長にそんな大嘘かますなんて、度胸あるわね。」
げ、嘘ついたことバレとるんだけど。
「そもそも、嘘じゃありませんし、セクターゼロがどんなのかも知らないんですけど?」
自然に嘘をつきながら率直な疑問を投げかけて論点をずらす。これが面倒くさい状況の打開のプロの流儀。
「え?ああ、そうよね。セクターゼロは、チロアーフ王国騎士団の中の密偵、諜報、潜入、尋問、拷問の精鋭が揃ってる団よ。」
「なるほど。つまり、ニッグさんはすごいってことなんですね。」
ここで、いったん褒めておく。どんどん論点をずらしていこう。
「まだ、しらを切るつもりなの?まあ、すごいってところは本当だけど。」
嘘やろ!ニッグさんやるな。論点を固定化しつつ僕のトラップを蜜に変える。完敗だな。
しかしだな、僕にはとっておきの切り札があるのだよ。
「じゃあ、逆に僕が嘘をついてるエヴィデンスを・・・」
「人の嘘なんて、見れば分かるの。脈拍、声色、発汗、体の動き。それすべてが証拠よ。」
なんか、胡散臭いけど、僕の嘘を見破ったから信憑性はあるのかな?
「人間ポリグラフかよ。でも、それはあくまで主観であり、客観的な物証とかはありませんよね?」
はい、これで相手は何も反論できず、僕の尋問は終わる。お疲れやな・
「そして、暴力・・・と言いたいところだけど、まだ君とは協力関係でいたいから、何もしないわよ。」
「ありがとうございます?」
「じゃ、本当のことを聞かせて。」
そう言いながら、僕の額に指をあてて可愛らしく(?)僕に微笑む。これはこれで彼女の吐息がかかって良いが、まあもろ脅迫なので、僕は観念して息を吐いた。
「・・・ソウルコネクトです。」
「え、なんて言った?」
「ソウルコネクトっていうスキルで脳内通信してました。」
「誰とその者はどこで・・・」
「風凪花っていう僕のもう一つの人格と、ここから八千九百キロメートル離れた日本国で通信してました。さっきの通信内容は『てかさ、魔獣って本当に完全に倒したのか?』という向こうからの発信で、こっちからは『今少し黙ってて。』と言った所存です!特にあなたに対する害意はありません!」
はあ、疲れた。一気にしゃべりすぎたー。
「タイムラグとかはないの?」
ニッグさんは探り入れるように眼を鋭くし桃色の瞳をギラつかせる。ったく、まだ、質問してくるのかよ。僕は少し考える素振りを見せた。
「この遠距離だとあるかないかはわからないのですが、近い距離だったらないと思いますよ。」
「なるほど、これでさらにノーモーション・・・すさまじいな。」
やはり、チートスキルか。
「ありがとうございます。」
と、適当に相槌打っとくか。
「というか、外で話すんじゃなくて中で話さないか?あと、服を着たほうがいいんじゃない?」
「まあ、たしかに。」
言われてみれば、冷たい風が吹きすさぶ廃墟のど真ん中での立ち話は、どう考えても賢明ではない。しかも、女性の前で上裸はまずいか。
「じゃあ、あそこの大きい建物に行こう。」
ニッグさんが顎でしゃくった先には、周辺の建物が潰れている中で、辛うじて原型を留めている背の高い建造物があった。
「あそこの大きい・・・ああ、マンションか。」
「少し、腹を割って話し合おう。」
彼女の静かな声音には、有無を言わせぬ確かな圧がこもっていた。まあ、僕は異世界のおそらく強い相手に逆らう理由も度胸もないから、大人しくその提案に頷くしかなかった。




