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ダイアリーより綴る譚  作者: しゅんゑ
異世界侵攻編
46/46

魔力に対する驚きに比べれば後発の魔術にはあまり興奮しないがぁ?

「いっやー、この世界はすごいね。食料品がこんなに多く陳列してるなんて。しかも、大きいスタイリッシュな建物もあって、フッカフカなベッドもあると。すごいよ。」

ニッグさんはベッドに思いっきり突っ込み、シーツに顔を埋めながら手足をバタバタとさせてはしゃいでいる。まるで初めて海外旅行に行った子供のような、あるいは新しいおもちゃを与えられた小動物のような反応だ。異世界の住人というからもっと警戒すべき相手かと思ったが、案外、無邪気な姿を見せられると僕も親しみを覚えてしまう。

ちなみに、ニッグさんは僕と合流する前に、この近くのスーパーマーケットに寄って物資を調達していたらしい。そんなに多くは持てないし、何がどんな料理かがわからなかったからと、ペットボトルの水とパックに入ったグリル肉を僕のために持ってきてくれた。僕は先ほど、むしゃむしゃとそれら全部を腹に放り込み、大変満足している。空腹だった胃に染み渡る肉の旨味・・・実にありがたい。

ところで、この家。なんか誰もいない空き家みたいだったから別に気にしてないんだけど、他人の家に許可なくズカズカと、しかも鍵を魔法か何かで物理的に壊しながら入るって―――なかなかに犯罪チックで、不謹慎ながら少し心が躍る。

「あのー、ニッグさん。」

僕はベッドの横に立ち、少し腰を低くして声をかける。

「なに?」

彼女はベッドの上で器用に反転し、そのまま、ぽふっと胡坐をかいた。

「さっき、こっちのことを話したのでそっちの方も色々教えてくださいよ。」

「そっちの方・・・?ああ、私のことについてってこと?」

彼女は自分の顔を指さして小首をかしげる。その動作に合わせて、陽の光を吸い込んだような美しい金髪がさらさらとなびいた。これは、天然のあざといなのか?

「はい。そうです。」

僕は若干の困惑を覚えながらも、力強くうなづく。まあ、僕だけが一方的に質問責めされるのも癪に障る。こちらも全くのちんぷんかんぷんかつ、自分たちの置かれている状況の答え合わせがしたいのだ。

「まず、一つ目はニッグさんと、その、魔獣?は同じなんですか?」

はたして、向こうの言う『魔獣』という言葉が、自分たちの言う魔獣という言葉と意味が同じなのか甚だ疑問だが、それ以前になぜ彼女は僕のことを襲わないのか、そちらの方がよっぽど疑問だ。

「全く違うわ。私は人間という種族で、先ほど戦った魔獣は魔獣という種族。人類という点では同じだが、性格とかは魔獣の方がよっぽど獰猛よ。」

ニッグさんは心底嫌そうな、汚物でも思い出したかのような顔をしてそう答える。なにかと、過去がありそうだが、触れないでおこう。とりあえず、向こうの言う魔獣とこっちの言う魔獣の認識は同じか。まあそれはいいとして、とりあえず彼女と魔獣は完全に別物だということを押さえておけばいいか。

「では、二つ目。魔獣とニッグさんは、どういうおつもりでここに来たのですか?」

魔獣の方は前に花とこの世界の征服や破壊活動と考察し、予想はできている。しかし、ニッグさんについてはこれまでの傾向が完全に崩れている。目的が分からなすぎるのだ。

「これを話す前に、君はすでに私と魔獣がこの世界・・・いや、魔界とは別の世界の者だということは承知しているよね。」

彼女は急に雰囲気を変え、どこか挑戦的な目線で僕に問いかける。急に試してる感じをだしてきて、この人頭がわいてるんじゃないのか?と失礼なことを思ってしまう。

まあ、それよりもね、だよ。意図的に魔界に言い換えたのはなぜ故なん。向こうの世界ではこの地球のことを魔界って言ってるのかな?

そもそもさ。世界の定義とはなんだろう。宇宙空間なの?それともそれより上位の次元構造とか・・・。

「・・・もちろん知ってますよ?でも、世界ってどういう定義なのかはわからなくて。」

「世界の定義ね・・・」

彼女は、「神級転移魔術による転移。全く違う文化、この世界の魔力濃度の薄さ・・・」とうつむいて、呟き。少しすると、顔を上げて、口を開いた。

「私が思うに、次元は越えている。」

「次元?」

「いや、適当だ。次元という言葉が当てはまるかはわからないけど、そうとしか説明できない。・・・というか!そもそも、この魔界は魔力濃度が非常に薄いんですけど。大変動きづらい!」

「え?魔力濃度が薄い・・・?」

まーた、新しい単語が出てきたよ・・・

「ああ。というか、君はとっくに気づいているだろう?異常に魔力量回復速度が遅いとかで。」

「いや、気づいてないですよ。この世界で生まれ育っているんですから、他の世界と比べることなんてできっこないじゃないですか。」

「まあ、それもそうなんだけど・・・君ほどの魔力量の保持者ならば肩身が狭いなとか感じたりしないのか?。」

「感じてないですよ。そもそも、僕そこまで魔力量高くないと思いますよ。」

この人はどこを見てそんな戯けを言っているのだろうか。セクターゼロに泥を塗ってるんじゃないか?

「嘘はだめだよ・・・といってもツイてる様子はないね。嘘でしょ?最大どれくらいだ?」

「三〇〇です。」

「え?」

ニッグさんは困惑したのち、

「いや、ひっっっく!」

目を見開き、素っ頓狂な声を上げた。

「はあ?」

馬鹿にするような言い方をされて、ちょっと傷ついたんだが?

「ちなみに、平均は六〇〇くらいだよ?私は八〇〇だし。」

「じゃあ、なに?昨日、君が魔獣と戦った場所が大きく窪んでいたのは何だったの?」

あれだけの破壊力、底辺の魔力量で出せるはずがないと彼女の目が語っている。まあ、ぶっちゃけ、天吸使えばいけるっちゃいけるけど、天吸はチートだからあまり信用できないニッグさんに伝えたくない。とりあえず、事実だけ言っとくか。

「なんか、僕と魔獣のものでもないへんな光の柱ですよ!。」

「ッ!柱・・・」

ニッグさんの顔色が変わった。何かまずいことを言ってしまったのか?

「実はな。私は、今は魔獣国家、アビスバロウの魔王城潜入中、偶然この魔界に迷い込んだんだけど、その理由が光の柱なんだ。それは魔王城を壊して、私も巻き込まれてっていう。」

「なるほど・・・」

あの光の柱が、二つの世界を繋ぐ、あるいは次元を穿つ何かなのだろうか。

「魔術とかではないと見えるが、どうなんだろうな。」

ニッグさんは顎に手を当てて考え込んでしまった。

「ところで、その魔術って何なんですか?。」

「え?魔術知らないの?」

「はい。本で見たことあるぐらいで。」

「本?本ってあの紙のか?。」

「あの紙のやつです。」

というか、そもそも本にそんな異世界言葉が載ってるのやばいな。この言葉をこの世界に広めた人は異世界人ですかね?

「・・・まあ、いいわ。とりあえず、魔術についてよね。」

え?急に?熱くね?

「お願いします。」

「魔術っていうのは簡単に言うと神からもたらされた回路よ。繰り出したい魔術の詠唱を口にして神から回路を授かる。そこに、精巧に魔力を流し、発動させるの。」 「ほう、ほう。」 「魔術にも魔力系スキルと同様に強さの段階があって。下級・中級・上級・冥級・王級・極級・神級の順で強い魔術になってくるわ。」

「魔力系スキル・・・魔力放出とか魔力感知とかのことですか?。」

「そうね。あと、魔術は魔力属性によって使える魔術が変わってくるわね。私の場合だど、魔力属性が幻影属性だったら、幻影魔術が使えるけど、他の魔術は使えないって感じ。」

「幻影属性・・・」

最初の魔獣の属性か。

「実際にやってみるね。」

「え?」

「見た方が早いでしょ。」

ニッグさんはスッと目を閉じ、短く息を吸い込んだ。そして、手をテーブルの上にあるアンティークなおもちゃたちに向ける。実演アツ過ぎぃ!

「闇より深く、無より静かに。境界の壁よ、色のなき幕を引け。―――ヴォイド・シェルター。」

言葉と共に、指先のおもちゃを覆うように半透明のドーム状の膜が展開された。そして、風景が奇妙に揺らいで自然とそれらが周囲に溶け込む。

「おお!」

「これが中級魔術よ。」

物を隠す魔術・・・あれ、これって?

「というか、さっき突然僕の目の前に現れたのって・・・」

「そうね、極級魔術『イリュージョン・レクイエム』、姿を完全に消す魔術ね。」

ドームを解除し、ニッグさんは得意げに微笑む。いったん、お世辞をはさむか・

「だいぶ高い強い魔術ってことですか?」

「まあ、そうなるわね。」

ニッグさんは鼻の舌を人差し指で撫でながら頬を赤らめる。この人、照れ隠ししてるのか?人間くさ!可愛よ

「ところで、君の魔力属性はなんだい?」

彼女は切り替えるように、座りなおしながら、そう言う。

「僕の魔力属性?」

どういう意図なんだ?

「そうそう、一応全属性の魔術の一つや二つは知ってるから、やってみようよって。」

え!つまりつまるところ言い換えれば!僕も魔術使いになるとぉ?そういうことなんですか?

「え、えー魔力属性は・・・」

つか、今思えば無属性なんて言う、面白くなさそうとともにカッコよさそうな魔力属性なんですけど、どういう魔術ができるんですかね?ガハハ。

「無属性ですよ。」

「・・・」

ニッグさんの動きがピタリと止まった。

「・・・?」

「なんですか?」

どういう、反応だ?

「いや。こっちのセリフなんだけど。」

「は?」

思わず突っ込んでしまった・

「は?」

彼女も思わず突っ込んだ。

見つめ合う二人。奇妙な沈黙が降りる。

「いや、そんな魔力属性ないんだけど。」

「え、あるんですけどぉ?」

「え?うっそだぁー。そんなの聞いたことも・・・」

僕は無言でステータス画面を開き、ニッグさんも見られるようにして、彼女の目の前に持って来た。

「あるんだ・・・」

「あるんですよ。」

「不思議すぎるのだけど?」

「僕に言われても。」

彼女はマジマジと僕のステータス画面を覗き込んだ後、やれやれと肩をすくめた。

「まあ、残念ながら、今君は魔術が使えない。私の世界に戻って調べればもしかしたら希望はあるかもだけど。」

「はあー。」

期待して損した。

「じゃあ、他に質問はあるか?。」

「えーっと・・・」

頭の中を整理する。異世界、魔界、アビスバロウ、魔術、そして謎の光の柱。情報過多でこれ以上は熱が出そうだ。

「今はないですね。」

「あらそう。」

「ところで、今後どうするの?」

「あー。ひとまず、明後日までにはこの地域から出たいんですよね。ですから今日一日ここに留まったら、明日ぐらいにはここを出発したいですね。」

「なぜ、明後日までなんだい?」

「なんか、明後日になったら世界中からここに研究者とかが来るらしいです。何分、僕たち以外この現状を何も知らないもんですから。

徹底的に調査のメスが入る前に、さっさとズラかりたいのだ。

「そうか・・・ふぁあー。」

ニッグさんは大きくあくびをした。

「私は疲れたから寝るよ。起きたら、私に君が住んでいる地域とこの場所の位置、それとこの世界と君についてもっと教えてくれ。」

彼女はそう言うと、ふかふかのベッドに再びダイブし、器用に毛布を被った。

「はあ。」

「じゃ、おやすみ。」

すう、すう、とすぐに規則正しい寝息が聞こえ始める。僕は呆れ半分、感心半分で彼女の寝顔を見下ろした。まあ、可愛いな。うん、人並み以上には。

グルルウ・・・

腹の虫が・・・さすがに、あれだけじゃ足りないって。もっと、ご飯たーべよっと。ビールも飲みてぇ・・・ばれなきゃ犯罪じゃないよね?


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