閑話休題:赤松虞佳~少女の苦悩~
閑話休題:赤松虞佳
白く塗りつぶされた天井は、朝日が差し込んで、照っているが、どこまでも無機質だ。
鼻を突く消毒液の匂いと、遠くで鳴るナースコールの電子音。そのすべてが、私の輪郭を曖昧にしていくような気がした。
「私って、本当にバカだ・・・」
ぽつりと漏れた言葉は、湿っぽく枕に吸い込まれた。昨日、風凪と栄花が二人はわざわざ見舞いに来てくれた。私がしでかしたことの理由を知ろうとして、寄り添おうとしてくれた。なのに、私はその手を、振り払ってしまったのだ。
心のどこかでは、仕方がなかったのだと自分を弁護する私がいる。あんな、下らなくて、惨めで、救いようのない理由。もしそれを口にすれば、私は「面倒な女」と言われて、周囲から呆れられ、軽蔑されるに違いない。心配してくれる両親や兄にさえ、本当のことを知られるのが怖くて、吐き気がする。
「・・・それが、キモいんだよ。」
そう毒づきながらも、本音をさらけ出せない自分を怠慢だと断じるもう一人の自分がいる。中途半端に頭が回るせいで、能天気に振る舞うこともできず、かといって開き直る勇気もない。思春期という言葉で片付けるにはあまりに粘度の高い自意識が、喉元までせり上がっている。
ただ、どうしようもなく、息苦しい。
「あそこで死んでしまいたかった。」
もっと、あいつらと遊びたい。まだ、終わりたくない・・・
思考と本能がバラバラに引き裂かれ、私が私でなくなっていくような感覚。
―――ふと、指先に硬い感触があった。いつの間にか手にしていたスマートフォンの画面。そこには、栄花とのトーク画面が開かれていた。
「え・・・?」
指先が、私の意志を無視して勝手にダンスを踊る。 フリック入力で紡がれる文字が、視界の端で冷たく光った。
『風凪と一緒に、また来れる?』
「だめ、送っちゃ・・・」
縋ってはいけない。これ以上、醜態をさらしてはいけない。 脳が必死に警報を鳴らしているのに、親指は無慈悲に送信ボタンを叩いた。
・・・ピコン、という間の抜けた送信音が部屋に響く。
「―――っ、はぁ・・・」
私は、溢れ出した涙を乱暴に拭った。
最悪だ。本当に、最低で、救いようがない。なのに、胸の奥にこびりついていたあの息苦しさは、皮肉なほどに軽くなっていた。




