シリアスにもハピネスを組み込みたい願望は普通であれ
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カフェに居座ってから二時間ぐらい経っただろうか。雨脚は徐々に弱まっているが、まだ窓に雨が当たる音はする。
俺と栄花は鳳からの連絡を待つ間に情報交換をしたり、ネットの情報を見たりしているのだが、それでいろいろ分かったことがある。
一つ目は、なんと、俺が名付けた霊体や魔力回路、魔獣は実際の名前らしい。つまり、あの化け物は魔獣という種族で、霊体というのは魔獣含める生物が持つ、肉体とは別の本来あるべき姿であると。そして、魔力回路は魔力を流す血管のようなもので、これは肉体と霊体の両方に備わっており、こいつは魔力膜に守られているという・・・俺の考察がめっちゃ当てはまってて普通に嬉しいかも。
二つ目は、魔獣は人間と同じくらいの知性があるということだ。というのも、向こうには向こうの言語があり、栄花とは翻訳機能の入った通信機越しに会話していたらしい。最初の魔獣が通信機を渡してきてそれを使っているのだと。
三つ目は、栄花は魔力に関することを口に出すのを制限するだけでなく、魔獣には嘘がつかないこと、あと、俺と鳳に何か動きがあればすぐさま魔獣に報告すること、通信機を見せないこと、生命活動以外で魔力をむやみに出さないことを強制させられていたらしい。これを破れば死ぬのだとか。よく頑張ったものだ。ちなみに、俺の攻撃を防いだ時に栄花が使った魔力はむやみやたらにカウントされないらしい。基準はよく分からないらしい。
「なんか、本当に遅いんだけど・・・」
ため息を出しながらさっきからずーっと言っている言葉を口にする。
「大丈夫だって。もう、不満ばっか言ってるとそろそろ殴るよ?」
栄花はそんな俺の情けない姿にふつふつと怒りがわいてきているようだ。
「そうはいってもさあ・・・」
そう呟きながら、俺が下を向いた瞬間だった。
『花。』
不意に、脳内に響いた声。
『え?鳳!お、おま。生きて・・・』
俺はとっさにソウルコネクトを発動させる。
『鳳、大丈夫か?』
「ねえ、今なにしたの?」
俺がスキルを使ったからか、隣にいた栄花が不思議そうに首を傾げた。
「いや、今、鳳から連絡が来てさ・・・」
と、栄花に応答している間に、
『だいじょう、ぶだ。』
鳳からの応答。その声色は、元気に取り繕うとしていても、明らかに辛そうだ。俺たちのことを思って、無駄な心配をさせないように強がっているのだろうか。
「それで、鳳はなんて言ってるの?」
ところで、これってかなり面倒くさい状況だな。脳内で鳳との会話を聞きつつ、その内容を現実で栄花に伝え、さらに鳳へ応答しなければならない。
『ああ、良かった。』
俺は鳳の優しさを無下にしまいと、まんまと騙されたふりをして、わざと安堵したような声色で鳳に応答する。
それと同時に、
「大丈夫だって。」
鳳のひどく辛そうな気配は伏せて、栄花にはそう手短に伝えた。
「ああ、良かったー・・・」
栄花がホッと胸を撫で下ろし、安堵のあまり机に突っ伏す。その姿を横目で見ながら、俺は再びソウルコネクトに意識を集中させる。
『心配したんだぞ。』
今、鳳がどんな状況に置かれているのか、ここからは全く視えない。だから、俺が伝える言葉が彼にどんな影響をもたらすのかも分からない。
ただ、胸の奥底にあるこの焦燥と安堵の入り混じった思いだけは、どうにかして伝えたかった。
『でもな、花。ワンチャン、また心配をかけることになるかもしれんが、気にするな。』
ん?
『何を言って・・・』
無意識のうちに、顔がだんだん険しくなっていくのを感じる。
「どうしたの? 何かあったの?」
顔を上げた栄花が俺の表情の変化を読み取り、身を乗り出して質問してくるが――今は、それどころじゃない。
『じゃあな。お前にすべて託すとするよ。』
鳳はどこか寂し気で、それでも、すでに強固な覚悟が決まった声でそう言った。
その言葉で、最悪の予想が確定してしまった。
「ちょっと、教え・・・」
どんどん険悪になっていく俺の様子から深刻さを察したのか、栄花は「ごめん」と小さく言って、大人しく座りなおした。
『そろそろだ。』
―――なんて声をかければいいのか。そもそも、今のあいつに声をかける必要があるのか。
どうすればいいんだ?鳳はいつだってそうだ。ひねくれていて、俺なんかよりずっと能天気。いつも先走って、元人格の優しさと頭のおかしいところを取り合わせた奴。
だからこそ、こいつが「託す」って言ったのが・・・ウザいし、淋しい。
気の利いた皮肉の一つでも言ってやりたいのに、喉が引きつって思考が空回りする。焦燥感と無力感がひたひたと心を浸していく。
このままじゃ、本当にあいつは―――。
「痛みは自分を、突き動かす、だっけ?」
不意に、栄花がそう呟いた。
『――痛みはお前を突き動かす』
俺は反射的に、栄花の言葉をオウム返しにするかのように、ソウルコネクト越しにそう告げていた。
『ああ。知ってる。』
ふっ、と笑うような気配。生意気だ。でも、悪くはない勢いを感じる。いつもの鳳のトーンだ。
「ナイス助言だった?」
栄花が得意げにそう言う。こいつもこいつで生意気だな。でも、今はそれにひどく救われた。
「完璧。」
そう言いながら、俺は栄花に向けてグッドサインを作ってみせる。そして、再び脳内の奥深くへと意識を向け、ただ一言、
『生きて帰ってこい』
と、告げた。願望に似た命令・・・つまるところ、それは何なんだという話だが、お口チャックしてもらって。
「それで、さっき、鳳はなんて言ってたの。」
テーブル越しに、栄花がカップの縁を指でなぞりながら口を開いた。窓を叩く雨音のせいか、その声は少しだけ沈んで聞こえる。
「・・・なんか、また心配かけちまうかもって。全部託すって……かっこつけたかっただけなのか、本当に危篤なのか。」
俺は温くなったコーヒーを見つめながら、素直に言葉を吐き出した。
栄花は少し間をおいてからふっと笑って、
「もしくは、どっちも・・・なんて。」
と、ポツリと呟く。その言葉に、俺は思わず吹き出してしまった。あいつなら、死にかけの状況でも平気でかっこつけかねない。
「ハハハ。」
俺は自然と口角を上げて笑う。
「笑うところ?」
ジト目を向けてくる栄花。
「苦笑いっていうんだよ。」
「えー。」
不満げに唇を尖らせる栄花。毎度毎度のごとくだが、そのツンデレ属性レベル百の目を向けないでおくれ。ちょっと身震いしてしまう可能性が無きにしろあらずだから。
「ま、大丈夫でしょ」
俺は彼女の視線から逃れるように、カフェのアンティーク調の天井を見上げた。
「さっきまではずっと心配かけてたくせに?」
鋭いツッコミが飛んでくる。
「たしかにそうだな。」
俺はそういってから一息おく。
「今、思い返してみれば、あいつと出会ってから、とてつもなくラノベの主人公感を感じてるんだよ。」
「何それ?」
怪訝そうな顔をする栄花に、俺は身振り手振りを交えて力説する。
「だって魔力とかスキルとか、完全に俺TUEE系って感じじゃん。」
「中二病末期やめてね。」
「中二病は鳳だよ?」
「類は友をなんとかってことなの?」
栄花にあきれ果てたようなため息をつかれる。こういう、人をいじり倒すところにおいての頭の回転は学年一位だよ、ほんと。
しかし、俺はその上を行く、
「類は友を呼ぶ、か。てことは、栄花も中二びょ・・・」
「違うから。」
舌の根の乾かぬうち・・・いや、舌の根が濡れている時に、栄花はズバッと食い気味に否定した。
「冗談ですやん。」
「それで、そのラノベ主人公どうたらだから何なのよ。」
「つまるところ、主人公は最後に勝つってこと。」
俺が自信満々に告げると、栄花は「あっそー」と冷めた声を出した。だが、その表情は先ほどより少しだけ柔らかくなっていた。
ふと、雨の音が再び耳に入り、店内の穏やかなBGMがやけに浮いて感じられた。
「てかさ。こんなゆるゆるな空気でいいの?」
栄花がふと我に返ったように、ストローを弄りながらつぶやく。
「ん?それはどういう・・・逆にピリついた空気が良いと言うのですか?」
「いや、なんか、ダメな状況なのに楽しくて、居心地が悪いというか、鳳に悪いというか・・・」
伏せられた瞳には、隠しきれない不安と罪悪感が揺れていた。
「栄花。」
「え、何?」
「俺も同感だ。」
まっすぐに彼女の目を見て、静かにうなずいた。
「え?」
「だからそろそろお開きにするか?」
あえて軽い調子で提案する俺に、栄花は慌てて首を振る。
「いや、そういうんじゃなくて。」
「じゃあ、どういうのなの?」
「私、一緒にいたい。」
消え入りそうな、けれど確かな声だった。
「うん。」
俺は短く答えた。二年ぶりに、旧友?としっかり話せるんだ。そりゃもっとしゃべりたくなるに決まってる。それに、鳳を待ちたいだとかいうのだろうか。
「うん?」
予想外の返答だったのか、栄花が目をぱちくりとさせる。
「あーっと、罪滅ぼし・・・というか罪悪感というか。心配しちゃってるから。」
照れ隠しのように早口で言い訳を並べる彼女を見て、俺は小さく息を吐いた。彼女の優しさが嬉しくもあり、同時に厄介でもあった。
「分かった。だけど、それは無理だ。」
「なんで?」
なんでかって言われると、俺が少し一人になりたいっていうのと、おそらく鳳は絶対に魔獣を殺しきるけど、死んでしまうという。
「それは、ねえ・・・」
っていうのを隠すために嘘を吐くしかないか・・・
「嘘考えるのはやめてね。」
ジロリと睨みつけられ、俺は言葉に詰まる。俺は言葉で言いくるめるのは不可能だと悟る。
「じゃあ、強硬手段。」
「まっ・・・」
俺は席を立ちあがり、伝票と一緒に小銭をテーブルに叩きつけた。
「釣りはもらっといて。」
「ちょっと!・・・しかもピッタリだし」
栄花が抗議の声を上げるのを背中で聞きながら、歩き出す。
「じゃあな」
あ、ヤバい。周りから痴話喧嘩?っていうささやき声が聞こえてきた。
「は、花!」
引き留めようと伸ばされた手と俺の間に、ふわりと薄い魔力の結界を挟ませる。ガラスを叩くような鈍い音が背後で響いたが、俺は振り返ることなく足早にカフェを去った。
店を出ると、冷たい雨はまだしとしとと降り続いていた・
「ガチで、生きて顔見せろよな。鳳。」
そう呟いた瞬間、俺は傘を席に置き忘れたことに気づき、栄花の下に戻り、結局とどまることになった。恥ずかし!




