第九十八便 生霊なんて出てこないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
ビニール袋 ベッドを解体した際、ネジなどを入れて置いたりします。
酔いつぶれたヴィオレットを、お兄ちゃんが金髪のテントに運んでいく。
お姫様抱っこで。
ぴょん吉状態のオレの目の前で、安心しきった顔で寝てる。
姉に続いてだっこされる妹にムカついてたけど、こうやって見るとヴィオレットもかわいいね。
なんて思ってるうちに、ブルートゥースの電波圏外になったみたいで、オレの感覚が外界から遮断される。
「チャンスです!」
突然(意識の中に)現れる自称女神。
「は?」
「あのテントには、すねたグリシーヌ姫、ほろ酔いのモーヴ姫がいます。更にヴィオレット姫をお姫様だっこで運ぶ。これはもう、やりたい放題しろというフリ以外の何物でもありません」
「はぁ、何言ってんすか?」
オレはため息をついた(出ないけど)。
「淫行条例違反、強制わいせつ罪、外患誘致罪で全部アウトですよ」
「あなたこそ何を言ってるんですか?」
自称女神が偉そうに言う。
「既に東と西は同盟寸前。昼とは状況も違います」
「で、でも、淫行条例他は生きてるし」
「ヴィオレット姫を見たでしょう? この世界に、〝未成年〟なんていう概念、存在しませんよ」
「それはお酒の話でしょ?」
「お酒だけではありません」
自称女神は今までにない強気な口調。
「そもそも、荷車の騎士の元の世界の感覚を持ち込むなら、ヴィオレット姫は殺人犯です」
「そ、それは、戦争だし」
「〝未成年〟を戦争に送り込んでもいいと? 人にせよ魔物にせよ、未成年に殺させていいと?」
「うう……」
「あなた方の世界とこの世界は違う。郷に入れば郷に従うべきでは?」
「で、でもっ!」
「本当なら、荷車の騎士は同盟などと言うまだるっこしいことはせず、最初から火炎瓶を降らせるべきだったんですよ。そうして西の国を蹂躙し、その勢いでモーヴ姫も蹂躙すれば良かったんです」
「でも、そんなことしてたら西の大軍に攻めこまれてたじゃん」
「後のことなど知ったことではありません」
「そ、そんな無責任な」
「これは私の考えではありません。切捨御免、従順で美しい異性。これらは、あなたがたのいた世界に住む、多くの人が願うことです」
「そ、それは」
「平和の名のもとに一方的な殺戮を繰り返し、愛の名のもとに奴隷のように異性を侍らせる。きれいごとを言っても、それが彼らの望みです」
「そうじゃない人だっているよっ!」
「そうじゃない人はそもそもここに来ないでしょう?」
「はい?」
「異世界と言うのは、そもそもそういうものです」
「い、意味がわかんないんだけど……」
「世界的にも性界的にも覇者になるのに必要な環境は十分あるのに。……荷車の騎士は、しょせん荷車の騎士ということでしょう」
「わけわからない論法でお兄ちゃんを侮辱するなっ!」
「まあ、予想しなかった形でも進み始めていますし、これはこれで順調とも言えますが、やはりもっと直接的な形が望ましいですね」
「さ、さっきから何言ってるの?」
「JD、JK、JC相当の年齢の乙女と四人になるのですよ? しかも二人は酔っているし、一人は、多少こじれたとはいえ、荷車の騎士に対して確実に特別以上の感情を抱いている。このテントに入って何もせずに帰って来るようでは……。ジンギスカンを見習ってください」
「む、むちゃくちゃだよ」
「元の世界の倫理観を維持していたらこの世界では生きていけませんよ?」
「ていうか」
自称女神に問いかける。
「予想しないとか順調とか、そもそも、オレとお兄ちゃんは間違えてこの世界に送られたんでしょ?」
「まるで白痴だな。私があの局面でそんなミスするかよ?」
「やっぱオタクじゃん! つーかそういうどーでもいい知識オレにインストールするくらいなら他の役に立つデータ入れてって言ってるじゃん! じゃなくて、ど、どういう意味……」
「……フッフ」
「え、え?」
「フッフ」
ぴょん吉状態のオレ(スマホ)と再接続する。
「あ、お兄ちゃん」
既に腕の中にヴィオレットはいない。
「ヴィオレットは、テント?」
「うん」
時間は……。
……感覚が遮断されてから数分。どう考えても何かできるような時間じゃない。
「ヴィオレット、おとなしく寝てた?」
「うん、良く寝てたよ。モーヴ少将も」
そして鼻で笑う。
「敵同士だったのにね。正直、ここの世界の感覚はいまだ俺にはわからないよ」
「グリシーヌは?」
「グリシーヌ姫様は向こうを向いてお休みだったみたいだから、よくわからないけど」
その時、視界の端に白い影が見えた。
ドレスを着た女性。金髪より少しだけ年上の、認めたくないけどすごい美人。
グリシーヌが大人になったらあんな感じ?
っていうか、幻影にさえ思える。
彼女は少し会釈をすると、また、すっと闇に消えた。
「み、見た?」
「う、うん」
お兄ちゃんもちょっと焦ってる。
「ゆ、幽霊かな?」
「い、いや、それはないと思うけど……」
「生霊だったりして」
「だ、誰の?」
「そりゃ、もちろん、グリシーヌの」
『呼びましたか?』
あまりに驚いた時は声が出ないのは、人間もオレも同じみたい。
振り返ると、いた。
生霊の本体が。
注1 「ジンギスカン」の歌詞から
注2 「アカギ」、完結しましたね。




