第九十一便 脅迫なんて言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
ガムテープ これがなかったことにびっくりです。何かと便利です。
「アセチレンガスは爆発するけど、これだけ拡散すればもう大丈夫だ」
お兄ちゃんが検知器をしまうと、野営地のかまどに火を起こす。ヒゲの部下の一部が薬草を煎じる準備を始める。
ヒゲと残りは、催涙剤で苦しむ兵士たちを拘束していく。兵士たちにもある程度話は聞こえていたようで、思うほどの抵抗はなかった。
車載冷凍庫の水で野営地の飲料水を冷やし、兵士たちの催涙剤を洗い流していく。ヴィオレットは傍らで弓を構え、万が一に備える。
その間、西の国の六人は、目が開き始めた金髪含め、お兄ちゃんのノーパソの画面を食い入るように見つめていた。こっちからは見えないけど、かっこつけた厨二病含む未開人が余計なところを触らない限り、ドライブレコーダーからコピーした動画がループしてるはずだ。
『まさか』
『いや、しかし』
『信じられん』
『これ自体が何かの魔法では?』
皆それぞれ勝手なことを言ってたけど、そのうち、六人が馬に乗ったままお兄ちゃんのところに来た。
『荷車の騎士殿』
厨二病の顔を一瞥してから、ロン毛が歩み出た。兵士の治療にあたっていたグリシーヌたちも手を止める。
「はい?」
『疑って申し訳なかった。確かに南風のフェアリーに間違いない』
「そうですか」
お兄ちゃんが立ち上がりながら答える。
「残念ながら、駆逐する場面は映っていませんので、倒したことの証明にはなりませんが」
『でも、ほんとですの!』
ヴィオレットが割って入る。
『荷車の騎士が描いた魔法円で退治したですの!』
『はい、ヴィオレット姫』
ロン毛が頷く。
『あの動く絵の中には、あきらかにフェアリーに向かっていくところもあった。その当事者がここにいるだけで、ヴィオレット姫の言葉を信じるに足りる』
『と、いうことだよ』
相変わらず偉そうな厨二病が引き継ぐ。
『プルニェ大尉がそう言う以上、僕らは君たちを信じるしかない』
『では、荷車の騎士様の申し出を受け入れる、と?』
グリシーヌが歩み寄り、当たり前のように(!)お兄ちゃんのそばに立ち、訊いた。
『我が国との同盟を結ぶ、と?』
『申し訳ありませんが、それはここでは決められません』
厨二病があいかわらずもったいぶる。
『同盟となると、それは最高権限者、つまり王の承諾が必要なので』
『こちらもそちらも後継者が代理、ということで十分では?』
『西の国では、議会の承認も必要となります』
厨二病がちょっと鼻で笑った。金髪もどこか勝ち誇って見える。
考えてみると、東の国に議会なんてたいそうなものなさそうだし。
グリシーヌが体を震えさせるけど、爆発する前にお兄ちゃんが言った。
「わかりました。それでは、一度持ち帰ってご検討ください」
『荷車の騎士様!』
「ただし、期限を切らせていただきます」
詰め寄るグリシーヌを無視してお兄ちゃんが続けた。
「そうですね。往復の時間もあるでしょうから、五日後の昼、この場所で」
『首都まで戻るだけで一日半かかるんだが』
「では、お急ぎください」
お兄ちゃんはそれからオレの荷台に回り、カーバイドを一掴み取り出した。
「こちらには人質がいる、ということをお忘れなく」
お兄ちゃんが野営地を見渡す。
「彼らを財物と交換するつもりはありませんが、有用な人材とは考えています。それから」
そして、さっき金髪に使ったペットボトルにカーバイドを入れる。
「ヴィオレット姫様」
『何ですの?』
お兄ちゃんに呼ばれ、ヴィオレットが笑顔で走って来た。
「火矢をご用意ください」
『よくわからないけど、わかったですの』
ヴィオレットが火矢を用意するそばで、ペットボトルに水を入れる。金髪の目が少しうるむが、お兄ちゃんは無視してキャップを閉め、時計を見る。
「ヴィオレット姫様、俺がこれを投げ、合図をしたら撃ってください」
『任せるですの』
お兄ちゃんは更に五秒くら待って、ボトルを人のいない遠くに投げた。
「今です!」
ヴィオレットの火矢が的を打ち抜く。激しい破裂音とともにボトルが爆発した。敵、味方が同時にどよめく。
『荷車の騎士! 今度は、お空に魔法円を作ったですの!?』
ヴィオレットが興奮して叫ぶ。グリシーヌも目を丸くする。
「もし回答がないようでしたら、次はあれを降らせます。そちらの軍隊、または首都に」
『脅迫か?』
厨二病が焦りを隠さず呟く。
お兄ちゃんがグリシーヌを振り返り、もう一度厨二病を見た。
「いいえ。グリシーヌ姫様の、心を込めた祈りです」
そして再度グリシーヌに視線を戻し、微笑んだ。
「西の国に、これ以上無駄な被害が出ないように、と」




