第九十便 四天王(笑)とか言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
メジャー まだ書いていなかったのが不思議です。
野営地が一瞬静まり返る。
それから、厨二病の部下たちが顔を見合わせ、失笑した。
『話が大きすぎると思ったら、ほら吹きか?』
『姿格好だけじゃなく、頭もおかしいのか』
『大体今がいつだと思ってる?』
ムカついて一言言ってやろうと思ったら、厨二病が部下を制した。
『訊きたいことは山のようにあるが、まず一つ。なぜ、九月の今、夏の魔女のことを言う? 来年の準備を今からする、ということかい?』
『何言ってるですの! 今日の話ですの』
ヴィオレットがオレの頭の上で言った。
『ヴィオレットたちは、今朝、南風のフェアリーと会ったですの!』
『言葉を返すようですが』
一応それなりの敬意を表しながら厨二病が訊く。
『南風のフェアリーに会って、無事逃げおおせた者は今まで誰一人いませんよ』
『逃げてないですの! 倒したですの!』
ヴィオレットが叫ぶ。
『ヴィオレットとお姉さまと荷車の騎士と魔獣は、南風のフェアリーを倒したですのっ!』
『あり得ない』
厨二病が真顔になる。
『それは何かの勘違い……』
『いいえ、本当です』
グリシーヌが歩み出る。
『もちろん、私たちだって見たのは初めてですが、南の国出身のゴシェ将軍は子供の頃にほんの僅かですが見たことがあるらしく、我々の話を聞く限り、それが〝南風のフェアリー〟だったことは間違いない、と』
「あ、すみません。ゴシェさんによると、今日出会ったそれの規模は小さかったらしいです」
お兄ちゃんが付け足す。
「南の国を襲った南風のフェアリーは、俺たちが見たものよりはるかに大きいようです」
『悪いが、規模の大小にかかわらず、到底信じられるものではない。プルニェ大尉』
厨二病がさっき撤退の合図を送ったロン毛のおっさんを振り返った。そういえば、他の三人が失笑してる間、おっさんは黙ってた。
おっさんは頷き、グリシーヌとヴィオレットを見た。
『拙者(意訳)は西の国のヴァーミリョン王に仕える四天王(超意訳)の一人、南のプルニェと申します。グリシーヌ姫。緊張状態故、馬上から失礼します』
『構いません』
『ヴィオレット姫』
『さっきの射は見事だったですの』
『正確無比な射手として西の首都にまで噂の聴こえるヴィオレット姫のお言葉、光栄に思います(うざっ)。しかし』
おっさんはお兄ちゃんに視線を移した。
『南風のフェアリーを倒した、という話、やはり信じるわけにはいきません』
『でも!』
『ゴシェ将軍と対峙したことはありませんが、南風のフェアリーを見たという時、彼は何歳でしたか?』
『五歳だったと聞いております』
グリシーヌが答える。
『では、失礼ながら記憶があいまいだった恐れも』
『そんなわけないですの!』
『拙者が襲われた時は十一でした』
『え?』
『は?』
グリシーヌとヴィオレットが同時に訊いた。
『拙者の一族は、西の国の南の辺境の守護者でした。生まれ育った街は、三十二年前、南の国の滅亡とほぼ同時に壊滅しました』
『で、では、我が国の港町みたいに、夏の魔女の余波を受けて……?』
『おっしゃる通りです。拙者は一族の屈強な戦士たちが敗走しながら南風のフェアリーに次々と飲み込まれていくのをこの目で見ました。そして、拙者ももうこれまで、と思った時、山から突然押し寄せた濁流にのみ込まれ、押し流されましたが、運よく助かった次第です』
『じゃあ、さっきの中二、じゃなくて中将の話と矛盾するじゃん! 〝南風のフェアリーに会って、無事逃げおおせた者は一人もいない〝っていう』
『無事ではない』
ロン毛がオレを見て、右の髪をかき上げた。
『この右目はその時失った。もちろん、目だけでなく、全身に重傷を負った』
「もしかして、プルニェさんも噛まれたんですか?」
『いや、噛まれる前に押し流された』
お兄ちゃんの質問に、ロン毛が見える方の左目をギロリとむける。
『噛まれて助かった者はさすがに知らぬ』
お兄ちゃんが考え込むけど、ロン毛は偉そうに無視して続ける。
『そんな拙者からすれば、小規模だろうと、三人と魔獣で南風のフェアリーを撃退したなど、信じられるものではありません』
「それじゃあ、ちょっと確認していただけますか?」
お兄ちゃんが顔を上げた。
「俺たちはこれから兵士の皆さんの催涙剤の除去や薬草の準備をするんで、その間にでも」




