第八十八便 天使の軍団とか言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
割りばし 常に予備を持っています。既に本編で登場済みですね。
厨二病の眉がぴくりと動いた。他の四人もざわつく。
金髪が半目開きでお兄ちゃんを見つめる。
『地図……だと?』
「地図が国防上、軍事上どれだけ有用かは当然お分かりでしょう? 存在するかどうかもわからないドラゴンや巨人で隙間を埋めたような地図じゃない。山岳、河川、更に海岸線も正確。当然単位も統一され、その時の馬や御者の体調で変わるようないい加減なものではない正確な距離がわかります。場合によっては、西の国の砦の配置や城の位置も」
そういえばポローニャ王も地図は見せてくれなかった。セコいと思ったけど、確かにね。
「そして一枚作れば、こちらにはそれを増やす技術もある。全く同じものを百枚作るのに、一時間の半分の半分も要らない」
ヒゲたちもざわめく。
「ちなみにこちらには、携帯し、時間を正確に測る道具もあります。この島の単位とは多少違うかもしれませんが、常に同じ間隔で時を刻む道具です。これを使えば、太陽が昇っていなくても、〝今〟が正確にわかります」
『荷車の騎士、きさま……?』
『荷車の騎士様……?』
馬上の金髪とグリシーヌが同時に呟く。
「そちらの攻撃が絶対届かない空から、天使の軍団が一方的に槍や矢の雨を降らせる。地上ではポローニャ王に恩義を感じる東と西の精鋭たちが攻撃をしかける。しかも彼らは、正確な地図を持ち、一時間の7000分の1単位で作戦を同期させられる。いかに西の国が強大だろうと、この兵力差を埋めるほどのものですか?」
お兄ちゃんの話を聞き終えた厨二病が、ヒゲたち、自国の兵士、そしてこっちを見てから言った。
『モーヴを解放したのは、その絶対的な自信故か?』
「自信というほどでもないですよ。それに、俺は運送屋ですから。引き取ったら納品しないといけないんで」
それ関係なくない? ほら、厨二病も鼻で笑ってるじゃん。
『運送屋だから? 確かに荷車の騎士の通り名そのままだけど、面白いことを言うね、君は』
「〝騎士〟の部分については、自分で名乗ったこともないんですが」
『ついでに言うと、俺はこれまで戦争で負けたことが一度もない。部下を死なせたこともない。常勝無敗の荷車の騎士とは俺様のこと……』
「フッフ」
お兄ちゃんがオレを遮る。
「また何か勝手に言ってるでしょ?」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、シーッ! 今いいところなんだから!」
「何て言ったの?」
「『今まで負けたことないし、部下を死なせたことがない』って」
「と、取り消してよ」
「いいじゃん! 事実じゃん」
「戦争に行ったことがなくて、仕事でさえ部下を持ったことがないだけだし」
「だってあいつ偉そうでムカつくんだもん。お兄ちゃん敬語なのに、あいつは偉そうに喋って(口調はオレのせいだけど)」
「俺は気にしないって言ってるでしょ? 一応相手は何か王子様らしいし、とりあえず偉そうな人には敬語使っとけば間違いないんだよ」
「それかえってバカにしてんじゃん!」
「してないよ。処世術だよ」
「そういうお兄ちゃんのセコいトコ嫌い」
「客商売には必要なんだよ」
『敵の目の前で作成会議とは余裕だな』
あ、いたんだ。
『いや、言葉はわからないが、むしろ痴話喧嘩にさえ聞こえる』
え? 何? そうみえるの? 厨二病、いい奴じゃん!?
『いずれにせよ、我々など眼中にない、というところか?』
厨二病改めディレター中将は苦笑すると、後ろの妹を振り返った。
『モーヴ、以前言っただろう。自身や自軍の強さに酔って相手を見下していると、いつかしっぺ返しを食う、と』
『はい、お兄様』
金髪が頷き、『シェーヌ将軍』と声をかけた。
『はい?』
ヒゲがマスクを外し、答えた。
『自分では抑えていたつもりだが、思い返すと失礼があった。自分がその立場におかれ、初めてその屈辱を知った。まだ目がよく見えないため、馬上からで失礼なのは承知だが、あらためてお詫び申し上げる』
『お気にされることはない』
ヒゲが笑う。
『それも含めての戦争ですからな。とはいえ、多少溜飲が下がっているのは否めませんが』
『正直だな』
金髪が笑う。ヒゲも笑顔で答える。
『だが、荷車の騎士!』
でも、金髪はすぐに険しい表情に戻ってお兄ちゃんを睨む。
「はい?」
『私が謝ったのは、断じてきさまのためでないからなっ!』
「それはまあそうですね」
「死ね」
『死んで』
『死ねばいいですの』
あ、とうとう本格的に参戦してきやがった。
注1 一応この世界の一時間は大体現代日本の二時間くらいという設定を最初の方に書いています。




