第八十三便 厨二病にならないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
はと目セット 幌の補修や追加の穴あけなどに。
オレ、思うんだよね。
剣士って、ようは肉体労働者じゃん。
畑で鍬持ってる農家のおじさんや、現場でツルハシ握ってるあんちゃんと変わらないよね。
っていうか、あの人たちは生産的なことしてる。
お兄ちゃんだって、鍬やツルハシはもたないけど、ハンマーくらいは持つし、現場に出入りすることはよくある。
でも、剣士のやることって、ただの破壊活動。
畑のキャベツ鍬で潰しまくったり、作りかけの家ツルハシで壊しまくってる人。
それが剣士の姿だ。
普通に考えれば、ただの危ない人。
それがなぜ重宝されるのかわからない。
さらに言えば、純粋な力の差なら、平均すれば男の方が上。
超人の女の人もいるけど、それは例外だ。知能の差と違って、男女の体力の平均的な差は確実にある。
ヴィオレットはいい射手だけど、それは正確さ、精密さの面で優れてるから。もちろんまだ体も小さいし、剣を振るのには向かないだろう。
ともかく、破壊活動しかしない危ない肉体労働者と〝姫騎士〟って、どう考えても結びつかないと思うんだけど。
そんなの、ファンタジーの中だけの話に決まってる!
……目の前にいるけど。
そしてその兄の、やっぱりただのテロリストが、偉そうにお兄ちゃんに破壊道具を向け、やたら長い二つ名を言ってかっこつけてるけど、鼻で笑っちゃう。
雰囲気イケメンなのもムカつく。お兄ちゃんの方がよっぽど……!
……。
………。
…………男は顔じゃないっ!
ていうか、長いせりふを流暢に言い過ぎ! 絶対それここに来るまで練習して来ただろ?
剣を向けるポーズも含めてイメトレして来ただろっ!?
金髪が兄と言うからには、多分これがディレター中将だろうけど。
なぁにが中将だ。
あんたこそ中二病だよっ!
いや、むしろ厨二病だよっ!
そんな厨二病の問い掛けに(一応通訳はしてる)お兄ちゃんは答えない。
じっさいのところ、大げさすぎて、「え? 誰のこと? 俺のことじゃないよね?」ってとこだろうから。
でも、無言のままのお兄ちゃんが不適に見えたのかも。
厨二病が続けて言った。
『その荷車の騎士が人質を取るような卑怯な真似をするとは、噂とはあてにならないものだね』
「休戦中の戦場に大軍を率いて迫るのは卑怯ではないんですか?」
お兄ちゃんが答える。厨二病が少し表情を変えた。
「あの林の向こうに、ざっと二千から三千人の兵が来てますよね?」
厨二病は少し後ろを振り返り、お兄ちゃんに視線を戻した。そして、オレ、オレの上に立つヴィオレット、そしてようやく追いついて来た髭たち十数人を見回すと、不敵に笑う。
『そこまで見越しての先制攻撃とは、さすがは荷車の騎士と言うべきか』
お兄ちゃんはやはり答えない。
……なぜなら、それも単なる偶然だから。
と、グリシーヌがオレのドアを開けて降りた。
『グリシーヌ、大丈夫なの?』
オレが小声で訊く。
『もちろん大丈夫じゃないわ』
グリシーヌはこっちを見もせず答える。
『荷車の騎士様、黙って見てればずっとビッチを抱きしめてるし』
『人質なんだからしょうがないじゃん』
『ならば私が人質になるわ』
だめだ。話が通じない。
『これはこれは、ご挨拶が遅れました』
でも、厨二病はグリシーヌを見やると慇懃に頭を下げ、剣を鞘に戻した。他の四人もそれに倣う。
『その威厳ある面持ち、東の国のグリシーヌ姫とお見受けします』
それ、威厳じゃないから。
『馬上から失礼します、西の国の王子、ディレター中将です』
あっちはあっちでいちいち芝居がかってやがるし。
『そして魔獣の上に立つのは、武勲の誉れ高いヴィオレット姫』
もっとあっさり言えないのかね、この厨二病は?
城のうざいおっさんとは違うめんどくささだよっ!
姉妹はしかし、何も答えず敵国の兄妹を睨む。厨二病は不敵に笑うと、お兄ちゃんに視線を戻した。
『そちらの条件は?』
「一つ目は、林の向こうの大軍の撤退」
お兄ちゃんの答えに厨二病の部下たちが殺気立つ。厨二病が無言でそれを制し、お兄ちゃんをもう一度じっと見つめる。それから部下の一人、大弓を持つ男に頷いた。男が箙から色のついた弓を出そうとするが、お兄ちゃんがもう一度念押しする。
「待機じゃありません。撤退です」
厨二病が眉を顰めた。お兄ちゃんが続ける。
「西の国からここまでせっかく御足労頂きましたが、林の向こうの兵士の皆さん全員に帰っていただくのが条件です。そうですね、さしあたり、向こうに見えた大きな川の対岸までは」
厨二病がもう一度射手を見て、再度頷く。射手はさっきの矢を箙に戻し、真っ白な矢を抜き出すと弓に番え、林の上空に向かって放った。矢が放物線を描いて林に落ちる。
「まず一つ目だ」
厨二病が肩をすくめた。お兄ちゃんがオレを見る。
「……うん、一応は大丈夫かな」
しばらくしてからオレが答える。お兄ちゃんは少しホッとした顔をすると、横ポケットからさっきの短剣を取り出し、金髪の方に向ける。
『約束は守った!』
厨二病が表情を険しくして剣に手を伸ばすけど、その前にお兄ちゃんが、金髪を拘束してた自分のベルトをその短剣で切断した。




