第八十二便 『くっ、殺せ!』なんて言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
クーラーボックス 今年の夏は暑かったですね……。
オレは今、オレ生(実質二日)最大の危機に直面していた。
『くっ、殺せ!』だと?
いや、ここは冷静になって問題を整理しなきゃ。
まず、グリシーヌは淫行条例でぶった切ることができる。
ヴィオレットは正確な年齢がいまだわからないけど、場合によっては強制わいせつ砲で撃てるし、もしこれがだめでも、返す淫行条例で一刀両断だ。
でも、今目の前で両手を拘束されてる金髪は?
見た目二十歳前後。18歳以上は確実だろう。グリシーヌよりは確実に数歳上だ。
伝家の宝刀が使えない。
もちろん、お兄ちゃんとの年齢差は多分十歳以上。それだけで犯罪レベル。普通の感覚ならあり得ない。ていうか、ネットならもう「ドーテーの妄想」とか「特殊嫁」とか「ロリコン、頭おかしい」とか言って散々叩かれるレベルだ。
そもそもJKやJCがおっさんにデレるとかありえないし。
十代の女の子にとって、おっさんは敵以外の何物でもないから。
頭ポンポン?
それやって喜ばれるのは同年代のイケメンだけ。おっさんがやったら即刻暴行傷害罪。通報されて逮捕案件。
まあ、今のところお兄ちゃんはそれやってない(多分)けど。
……かなり怪しいことが起きてるような気もするけど、それはともかく。
でも、ここはそもそも「ドーテーの妄想」、というか、もてないバカ男が願望を書きなぐったような世界だ。
中世ファンタジー風。
男が少ないからハーレムデフォ。
(しょぼいとはいえ)王家の姉妹と、特に何のとりえもないおっさんが偶然仲良くなる。
さらに……。
第一王女は、既に〝受胎の儀〟とか言い出して大人の階段暴走中(落っこちろ!)。
第二王女は、半日でデレた根性なしのツンデレ。一応今のところ天然だとは思うけど、半端な子供という特権を利用して四十八手の一つを形の上ではクリアして姉の嫉妬と憎悪の対象になってる。
こんなチョロインしかいないような世界がかろうじて許されてるのは、今のところお兄ちゃんが聖人レベルで理性を保ってるか、又は目の前のことを処理するのにいっぱいいっぱいで何も考えてないからなのはもちろん、そこには〝法令〟と言う大きなギロチンがぶらさがってるからだ。
でも、金髪にそのギロチンは落ちない。
強制わいせつはもちろん、淫行条例の刃さえビッチには歯が立たない。
この時点で、既に敵の強さはラスボスクラス。
しかもその相手は〝姫騎士〟とか言う謎職業。
そして、最初にお兄ちゃんに言ったセリフが、『くっ、殺せ!』だ。
これってどう考えても、
『くっ、殺せ!』
↓
『んほぉぉ! 荷車の騎士しゃまぁっ! だいしゅきぃぃっ!!』
ってフラグの匂いがビンビン(以下略)。
……ていうか、あの自称女神、もっとオレに役に立つような知識をインストールしとくべきだよね?
まあ、翻訳ソフト入れてくれたのは良かったけど、それ以外のデータがろくなもんじゃない。
「……のにおいがびんびんする」とか。
どうせなら、お兄ちゃんにたかるコバエを追い払えるような有用な情報を入れといてくれれば良かったのに。
そもそも、あの自称女神自体確実に腐ってるし、絶対ツリッターでアカウント作って10分おきくらいに書き込んでるタイプだ。
で、「私のフォロワーは53万です」とか、すでに言いつくされたセリフをドヤ顔で言ってるはず。
実際はアカウント買いまくって。
それがバレて炎上して。
言い訳にならない言い訳して。
自分に都合の悪い相手は全部ブロックして。
論破されたツリートは削除して最初からなかったことにして。
更に別垢で「(自称)女神さんは悪くありません」「アンチなんて気にしないで下さい」「いつも応援してます」とか書き込んで、更にそれがバレたら「アカウントのっとられた」とか言いだして、最後にはアカウント削除して逃亡。
それを懲りずに何度も繰り返してるタイプだね。
暇そうだし。
だって女神って言う割には、知識がネット情報レベルばっかだもん。
つーか、言ってることもツリッターや掲示板で罵詈雑言まき散らしてる中二病患者っぽいし。
逆に言うとオレは、ツリッターの書き込み程度の情報から、この金髪を倒す手段を見つけきゃならないってこと。
フフッ、こんな熱い戦いは初めてだぜ。
燃料も残り僅かでこんな強大な敵を目の前にしてるのに、何だかワクワクしてきやがった……!!
でも! ここで! オレに天啓が舞い降りたっ!
お兄ちゃんは今日、東の国の元帥。
金髪は敵の将軍。
もしお兄ちゃんが金髪を貫通、じゃなくて金髪と内通するようなことがあれば、それはもう、外国と通謀して自国に武力を行使させる(相手は将軍だからね!)犯罪。
つまり、外患誘致罪!
死刑しかないことで有名な、外患誘致罪!
個人的には淫行条例違反+年齢差10歳以上も死刑でいいと思うけど、あっちのギロチンは生ぬるい。でも、こっちの刃に情けは一切ない。
〝くっころ〟が〝んほぉぉ!〟になることは絶対ないっ!
勝った……!
炭酸抜きコーラをがぶ飲みする少年格闘家が中国拳法達人相手のシミュレーションで勝った時の達成感を味わってる間(一秒弱、一応コンピューターなんで)、お兄ちゃんは金髪を後ろから抱きしめるように拘束していた。そして敵の騎士たちを牽制しながら口を開く。
「オレを撃つと筋肉が収縮して彼女の頭に釘が打ち込まれますよ。〝ドーベルマン刑事〟に書いてあったし」
〝ドーベルマン刑事〟の部分は通訳しない。どうせわからないし。
前半の意味も多分通ってないけど。
それからお兄ちゃんは、金髪の耳元で囁く。
「あなたも動かないで下さい。ここを撃つと人の顔がわからなくなるらしいですよ。〝ゼロゼロナナ〟で言ってたし」
〝007〟の部分は以下略。っていうか「ゼロゼロナナ」って……。
それでも抗おうとする金髪に、白馬の騎士が優し気な、でもどこか威圧感のある声で語り掛けた。
『モーヴ、すぐ助けるから今は抵抗するな』
『お、お兄様?』
金髪の表情が少し緩み、それから悔しそうに歯を食いしばりながら抵抗を諦めた。妹が落ち着くのを確認すると、白馬の騎士が抜いた剣でお兄ちゃんを指した。
『君が一晩に千馬時を走る魔獣を従え、炎の剣一振りで百人を倒し、天使の羽衣で空を舞い、白い雷と赤い涙の雨を降らす荷車の騎士か?』
二つ名、長っ!!
注1 ポケットの中で爆弾のスイッチを握ったテロリスト(?)を撃つと、筋肉が収縮してスイッチが入る、犯人もそれをわかってそうしている、というような話だったと思います。
注2 「007 スペクター」でそんな話がありました。検証サイトもありました。




