第七十二便 ラノベの主人公みたいだなんて言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
非常警告灯 三角板が一般的です。
高速道路で停止してしまった時、これがないと減点+罰金になります(自分は経験がありませんが)。
車を運転される方は常備して下さい。
!!!
スマホ!!!!
今オレが見て、聞いて、喋ってるスマホ!
オレの顔(仮)も表示されるスマホ!!
つまり、ある意味オレ!!!
お兄ちゃんは、オレが寝てる間に、オレに入れてた???
お兄ちゃんが夜這いをかけたのは、グリシーヌたちじゃなくてオレだった!!???
「優しくしてね、お兄ちゃん」
「大丈夫、星の数を数えてる間に終わるよ(そりゃそうか)」
でも、オレのバカバカ!
(アプリを)入れられるところの記憶がないなんて!!!
えーとえーと、その時、オレは……。
あ、腐女神と話してた。
しかも、男の娘とBLの違いとか言うどうでもよすぎる話題で!!
ファ○キン腐女神!!!
オ、オレの、オレの初体験が……。
ていうか、寝てるオレを勝手に襲うなんて、お兄ちゃんのケダモノ!
「そもそもね、フッフが喋ったり表情変えたりするのは、以前誰かがスマホに入れたV何とかだか何とかtuberだか用のアプリ、確か顔の向きだけじゃなくて表情まで変えられる奴を、うまい具合に操作してるんだと思う」
……悲報。
オレ、とっくに非処女だった。
でも、また出て来た〝誰か〟って言葉。
どこかチクチクする感じのオレを、お兄ちゃんの言葉が現実に引き戻す。
「だから多分、スマホにアプリさえ入ってれば、フッフが直接操作できるんだと思う」
「ドローンを?」
「うん。当然中継器を通してでも。もちろん、電源ボタンなんかの物理的な操作は俺がやるけど」
お兄ちゃんはそう言うとドローンと中継器のスイッチを入れた。
「フッフ、ちょっとアプリにアクセスしてドローンを浮かせてみて」
「あ、うん」
我ながら何でわかるんだろう、と思いつつ、スマホ内のドローンのアプリと中継器のアプリを起動する。
Wi-Fi接続もできた。
リアルタイムカメラも起動し、ドローンの映像が入る。
「お、浮いた!」
「あ、ほんとだ!」
カメラに荷台の中が映る。
向きを変えると、今度はお兄ちゃんの顔。そのみぞおちにはオレの顔(仮)。
……に、このドローンのアプリが重なってる。
ほんとはスマホ自体横にしなきゃいけないみたいだけど、その辺は、まあ。
「初めてでこんなに安定して飛ばせるなんて、フッフはさすがだね」
「えへへ」
戸惑いながらも嬉しさは隠せない。
ていうか!
こ、これなら、ブルートゥース接続よりはるかに遠くに行けるから、ドローンでお兄ちゃんといつも一緒に!
燃料切れ間近のここに来て、まさかの同禽可能宣言??
「異世界ドローンでいいのですか?」
嫌味が聴こえたような気がした。
そもそも、既にそんなに長くない電池残量が表示されてる。
「電池の節約のために下ろしておいて」
わかってるよ!
ついつい不満に思っちゃう。
でも、お兄ちゃんが手のひらを上に向ければ、たちまちご機嫌。オレ(ドローン)は妖精気分でそこに着陸しながら、ふと気になって訊いた。
「こういうのって、専用のコントローラーもついてるんじゃないの?」
「うん、やたら立派なプロポがセットで入ってたよ」
お兄ちゃんはあっさり言った。
「そっちを使った方が遠くまで飛ばせるみたいだけど」
「だけど?」
「フッフに操作してもらえば、俺は運転や他のことに集中できるからね」
そう言いながらオレ(ドローン)を荷台に下ろし、オレ(スマホ)とオレ(本体)を撫でたってややこしいっ!
「電源はもちろん入れておく。Wi-Fi接続は維持して。幌は開けたままで留めておくから、何かあったら出動させて」
お兄ちゃんは毛布を敷いてドローンが走行中に荷台の中で暴れないようにすると、今度は中継器とネイラー(こっちも充電済み)と双眼鏡を持って助手席に回った。
『荷車の騎士様』
グリシーヌが不安そうにお兄ちゃんを見る。お兄ちゃんは双眼鏡を助手席のシートの上に、ネイラーを足元に置いて言った。
「こっちは遠くを見る道具です。念のために置いておきます」
『遠くを見る?』
「それからこっちは」
お兄ちゃんがネイラーを指さす。
「危ないので触らないで下さい」
『触れっていうフリじゃないからね』
『ダメって言われたことはしないわ!』
オレの追い打ちにグリシーヌが怒鳴る。多分、二人(お兄ちゃんとオレ)だけで後ろにいたのも気に入らないんだろう。
でも、お兄ちゃんはグリシーヌの苛立ちにも気づかず、助手席のドアを閉めると、中継器をルーフキャリアに固定した。
こういうところだけはラノベやアニメの主人公っぽいね。
注1 電動ネイラー 電動くぎ打ち機です。現場ではコンプレッサータイプが主流のようです。




