第六十七便 自分語りを始めないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
横ポケットのズボン 常備、というか履いています。
私に関して言えば、横のポケットはほとんど使わないのですが、作業着はほぼ無条件に横ポケットが付いています。
……人間、時間(実際には燃料)がない時に限って、ついつい余計なことしちゃうよね?
人間じゃないけど。
ということで、ちょっと戻って、「俺は一応元帥ですから」から。
「俺は一応、元帥ですから、今日は俺の指示に従ってください。俺と一緒に、一度前線を離れていただきます」
『え、でも?』
「俺たちはシェーヌ将軍やヴィオレット姫様と違い、戦士ではありません。ここにいても足手まといでしょう」
『それはそうかもしれませんが』
「西の国の軍がいつ回復するかわかりません。今のうちにできることをしておきたい」
『わ、わかりました』
グリシーヌは釈然としない感じだったけど、お兄ちゃんが助手席のドアを開けるとオレに乗り込んだ。それから髭シェーヌ(日本語的にグリシーヌに似てる。いっそ入れ替われ)に向かって歩き出すと、髭自身がこっちに駆け寄って来た。
『荷車の騎士殿!』
「あ、すみません。我々は一度……」
『いや、元帥殿』
髭が言い直し、姿勢を正した。
『存じ上げぬこととはいえ、大変失礼いたしました』
「あ、いえ。今日だけですし、それに俺、戦争は素人ですから」
『し、しかし、ヴィオレット姫の話では、南風のフェアリーを打ち倒したと』
「まあ、こっちにはフッフがいたし、グリシーヌ姫様、ヴィオレット姫様のお二人のお力もありましたし」
『必要以上の謙遜は部隊の士気を損ないます。ましてそれが、元帥殿であれば』
髭の割にはいいこと言うじゃん。
その口調がちょっとうざかったけど(オレのせいだってのは棚に上げて)。
とにかく、もう少しお兄ちゃんにオラつかせてよ。
『二年前、新年早々、私の部隊は、冬の魔王の使徒、氷雪のエルフの襲撃を受けました』
い、いや、髭の自分語りじゃなくて。
おっさんて、ほんと自分の話が好きだよね?
『私は田舎者で、北の国の中央の部隊からは敬遠されました。その結果、後方部隊に配属され、冬の魔王と正面からぶつかることはありませんでした。そんな私の部隊でさえ、二百人のほとんどが倒れました。生き残ったものの手や足を失った者もおります。しかし、それでさえ、あの戦争では幸福な方でした』
お兄ちゃんは黙って聞いている。
『通常の戦争には何らかの目的があります。富、領土拡大、国の威信など。だから、例えばこのような状況なら』
髭が門の向こうに目をやった。
『戦闘を再開しても双方に得るものがない、と、休戦のための話し合いもできます。しかし冬の魔王に話は通じません。少なくとも我々を襲撃した氷雪のエルフは、ただ、我々を滅ぼすことだけが目的のように感じました』
「はい」
お兄ちゃんが頷く。
「〝南風のフェアリー〟というものにも、そう言う目的のようなものを感じました。何と言うか、本能として、というか」
『元帥殿もですか』
意見が合ったというのに、髭の表情は渋い。
元帥様の前で何か不満あんの?
『私は、これまで冬の魔王について語るのを避けて来ました。決して勝てない以上、それについてあれこれ語るのは、戦友たちへの冒涜と思っていたからです。しかし』
髭がお兄ちゃんを見つめた。
『その恐ろしさは冬の魔王に匹敵すると言う夏の魔女、その三大使徒の一つ、南風のフェアリーを斃すお方が現れた今、私も又、感傷は一時忘れ、恐怖を克服する時だと思っております』
「あれは捨て身の作戦でしたし、もう使えないかも知れません」
お兄ちゃんがオレの方に歩きながら答えた。
「でも、俺は俺でできることをやって行こうと思います」
そしてお兄ちゃんはオレのドアに手をかけると、髭を振り返りながら言った。
「何と言っても、俺は運送屋ですから。運べるものは何でも運びますよ。それが薬草でも、勝利でも」




