第六十六便 (人の)フラグクラッシャーと呼ばないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
マスク 50枚セット、100枚セットなどを時々買います。
『驚きましたな』
髭が髭を触る。
『フッフ殿が人語を喋ることだけでなく、その当を得た意見に』
確かに、周りの兵士たちは困惑気味に顔を見合わせている。
『魔獣が言うように簡単ではないですの』
ヴィオレットが呆れたように言った。
『戦争は国と国の尊厳をかけたものですの。わが軍はもちろん、西の国の軍もそう簡単に退けないですの!』
『戦争どころじゃないのに、ここでにらみ合ってるだけの方がはるかにバカっぽいじゃん!』
『な、何を言うですの! これも戦略の内ですの!』
『フッフ、やめて。ヴィオレットも落ち着いて』
立場上意見を言いづらいのか、グリシーヌがとりあえず仲裁に入る。
『シェーヌ将軍、到着早々申し訳ありません』
『理想と現実は違う、ということですが……、というか』
髭を撫でる手と言葉を止め、オレの背後に回った。
『あっ、荷車の騎士殿! 既に荷を下ろして下さっていましたか』
『すみません、お取込み中みたいなので』
〝お取込み中〟って、今日は自分が元帥だって忘れてるでしょ?
『雑事に囚われず目的を最優先して動くとは、さすがは荷車の騎士殿』
「別にそう言うわけじゃ」
お兄ちゃんが薬草の箱を下ろしながら言った。
「運送屋の習性として、納品先に行ったら早く荷物を下ろしたいってだけですよ。で、どこへお持ちしましょう?」
『荷車の騎士殿に運んでいただくなどとんでもない。動ける兵士に運ばせましょう。西のモーヴ少将とも打ち合わせました。いずれにせよ、今日は戦闘はない』
そして(人なら)耳を塞ぎたくなるような大声を出した。
『動けるものは司令部に集まれ! グリシーヌ姫自ら薬草をお届けくださったぞ! これから煎じて病人に配るから手伝え!』
グリシーヌの話だと、北の都の人たちは洗練されてるって話だけど、このおっさんは例外? それとも、この島じゃこれが洗練されてる感じなの?
『シェーヌ将軍は例外よ』
オレの横に立ったグリシーヌが突然言った。
オレの心読んだの?
『だからかえって、わが国の軍には合っているのかも』
『何? やっぱ何だかんだで少し恨んでんの?』
オレはあえて訊いた。グリシーヌが、よく見るとまだ充血が残る目でオレを睨む。
『それ、思ってても言わないよね?』
それから微笑んだ。
『でも、ありがと』
そして薬草を煎じる手伝いに向かった。
……でも、おにいちゃんがその手を(ごく自然に!)掴んで止めた。
「荷車の騎士様?」
グリシーヌが少し歩を染めて呟く。お兄ちゃんが手を放すと、周囲を見回した。
「シェーヌ将軍が十分と言う量は下ろしました。残りは次の病の際の備蓄として城に持ち帰ってほしい、ということです」
『わかりました、それでは煎じるお手伝いを』
「いいえ、人は十分います。この後は俺の手伝いをして下さい」
『え、で、でも』
「俺は一応、元帥ですから。戦地では俺に従っていただきます」
『そ、それじゃ、荷車の騎士様……』
「そうですよ。俺が一日元帥を受任したのは、グリシーヌ姫様にあんな命令やこんな命令をするためです」
『はい、どんな命令でも従います、元帥様。あんな命令でも、こんな命令でも、そんな命令でも。そしてあんな攻撃でも、こんな攻撃でも、そんな攻撃でも、このグリシーヌ、元帥様の妻として全身で受け止めさせていただきます!』
……しまった。
燃料もないのに、無駄な妄想にCPUの電力を使ってしまった。
実際、もう少しで燃料の警告灯がつく。
まあ、そこから100㎞くらいは走ると思うけど、でも、たった100㎞。
そうなればバッテリーも時間の問題。
オレがこうして、
お兄ちゃんと喋れるのも、
グリシーヌと火花散らせるのも、
ヴィオレットと喧嘩できるのも、
もう、終わりが見えて来た。
でも、まあ、楽しかったよ。
……ほんとうは、
お姫様抱っことか、
間接キスとか、
腕枕とか、
してもらいたかったけど。
無理なのわかってるし。
ともかく、後少しの時間、オレも精一杯頑張るよ。
……オレが喋れなくなってもフラグが立たないようにねっ!!!




