第六十三便 知ったかぶらないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
眠気覚ましの菓子 だから太るんですね。
そんなこんなでオレたちは城を後にして前線に向かった。
お兄ちゃんが運転席、グリシーヌが助手席。
そして、ヴィオレットはルーフキャリアの上。
オレとスピードは変わらないってんだから、馬に乗って行けばいいのに、『戦士ではない荷車の騎士と魔獣を守ってあげるですの』と言って、当たり前のようにお兄ちゃんの膝の上に乗ろうとして却下された。
そうしたら、『敵が良く見える頭の上に乗るですの!』とか言い出した。
で、結局、お兄ちゃんから借りた防塵ゴーグルをして、クッションを敷いたルーフキャリアの上に座り、城でもらった弁当を食べている。
グリシーヌにとっては願ったりかなったり、ってとこか。
また、『あーん』とか始めかねないから、オレの監視が必要だけど。
……と思ったけど、そうでもない感じ。
やっぱ戦地に行くのは、戦闘が目的じゃないって言っても緊張するのかも。ヴィオレットと違って戦士じゃないし。
『あの、荷車の騎士様』
グリシーヌがかなり迷った後に口を開いた。
「はい? どうしました?」
お兄ちゃんはオレがなるべく跳ねないよう慎重にハンドルを操作しながら答えた。
『あの、南風のフェアリーは、なぜ私たちのところに飛んできて、そして、なぜ襲いかからなかったのでしょう?』
「それは俺も気になります」
『オレも気になるよ』
『フッフも?』
『うん。グリシーヌたちの前に飛んできた時は、朝襲ってきた時と色も違ったし』
ちなみに、オレがグリシーヌと喋るたちと喋る時は、そのすぐ後に日本語で言ってる。
「そうなの?」
「うん。ドラレコ、見る?」
「いや、後でいいよ。十時間は保存できるはずだし、薬草届けるのも遅くなってるし」
『色、ですか?』
「動物には、攻撃する時や身に危険を感じた時に色が変化するものもいるようです。ちなみに、この国には蜂はいますか?」
『ハチですか? いますよ。南の国では王家が養蜂をしていたようですが、滅亡と同時に秘伝も失われたそうです』
「刺されて亡くなる人は?」
『めったにいません。もちろん、刺されれば少し腫れますが』
グリシーヌが朝しゃぶった、じゃなくて朝刺されたお兄ちゃんの指をちらっと見た。
「その程度ですか。それではスズメバチは?」
「該当する単語がないよ」
オレが答える。あの自称女神も、もうちょっと柔軟性のある辞書積んどいてくれれば良かったのに。
「じゃあ、いないんだね?」
『あの、何でしょう?』
「あ、いいえ。何と言うか、俺たちがいた世界には、とっても危険な蜂がいまして。そいつは、攻撃する時に音、いわゆる警告音を出すんで、まあ、そう言う例もある、ということで」
『そうですか』
「ちなみに、俺のいた国では、その蜂に刺されて死ぬ人が、動物の被害では一番ひどいんですよ」
『〝南風のフェアリー〟みたいに?』
グリシーヌが眉を寄せた。
『噛まれた荷車の騎士様は大丈夫でしょうか?』
「結構時間が経ってるし大丈夫じゃないでしょうか」
お兄ちゃんが優しい笑顔を浮かべた。
「そもそも、それを言ったら、毒を吸い出して下さったグリシーヌ姫様の方が心配ですよ」
『!』
グリシーヌが顔を真っ赤にして息を止めた。
……何今更カマトトしてんだよ!?
『し、知りません!』
グリシーヌが俯き、上目遣いに鬼ちゃんを睨んだ。お兄ちゃんも一瞥したけど、真顔で言った。
「問題はそこです」
『あ』
グリシーヌが泣きそうになる。
『あ、あの……、お、お嫌……でしたか? 私が、に、荷車の騎士様の、ゆ、指を……』
「あ、いいえ、そう言うことではなくて」
お兄ちゃんがハンドルから手を放して手を振った。
「〝噛まれてから数時間経っている〟ってことです」
『え?』
「そして、グリシーヌ姫様が毒を吸い出して下さってからも同じ時間経っている、という」
『ど、どういうことですか?』
「スズメバチ、その危険な蜂に刺されて死亡するのは、一回目より二回目が多いんですよ。実際、俺の世話になった人は、スズメバチの巣を取ろうとして一度に6~7か所刺されたけど、生きてましたし。もっとも、医者には〝良く死ななかったね〟と言われたらしいですが」
お兄ちゃんがちょっと懐かしそうな顔をした。
「ある種の蜂に刺されると、血の中に抗体ができて、次に刺された時にアレルギー反応が起きるそうです」
『あ、あの』
グリシーヌが遠慮がちに言った。
『すみません。お恥ずかしいのですが、私、賢者様のお話を正しく理解するには勉強不足で』
「だってさ、お兄ちゃん」
オレがここぞとばかりに責める。
「女の子にそんな思いさせて、いいの?」
「あ、いや、す、すみません、グリシーヌ姫様」
お兄ちゃんが慌てて言った。
「お、俺だって良く理解してないし、仕組みを説明しろって言われても無理なんで、知ったぶってすみません」
グリシーヌはお兄ちゃんをじっと見つめた。
『もう、謙遜なさって』
それからクスリと笑う。
『荷車の騎士様は相変わらず奥ゆかしいんですね』
「いや、本当によくわかってないんですよ。俺こそ学もないし」
お兄ちゃんも顔を赤くしながら言い繕う。
「まあ、とにかく、血の中に特殊な成分ができて、二回目に刺された時にそれが反応して過剰なショックが起きる、ってことのようです」
『で、では、私たちも二度目に噛まれたら危険、ということですか?』
「もちろん、その可能性もあります」
お兄ちゃんが前を向いた。
「同時に、真逆の効果の可能性も」
注1 こういう話を書いていると、普段自分が、いかに知らないことをさも知ってるかのように話しているのかを痛感します。




