第六十二便 生霊にならないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
緩めの靴 サンダルで運転は危ないので、主に運転用に。
雨で作業靴が濡れた場合の代えにも使います。
『荷車の騎士様』
グリシーヌが背伸びしてお兄ちゃんに耳打ちした。
さりげなく袖口掴んでんの見逃さないよ?
『我が国同様、我が国の軍もあくまで小規模で、基本的には自衛のための集団ですので』
「え? でも、前もおっしゃってましたが、戦争は今の西の国とのものが初めてってわけじゃないんですよね?」
『もちろんです。申しあげた通り、北の国とも国境付近の小競合いはありましたし、かつては南の国とも戦ったと聞きます。もちろん、西の国ともこれが初めてではありません。ただ、今回は、要はこの島の覇権の争いですし、一応の統率や士気向上のために、お父様が他国や古い資料を参考に急遽階級を設定したにすぎません』
相変わらず呑気な王様だね!
つーかグリシーヌ!
お兄ちゃんはそっちの言葉わかんないんだから耳打ちなんて意味ないじゃん!わかっててやってんだろ!?
「そうですか」
オレの通訳で理解したのに、いかにも耳打ちでわかったって感じでお兄ちゃんがグリシーヌを見た。
そうやって甘やかすからつけあがるんだよっ!オレの燃料が切れたら、そのメス、多分もっとグイグイ来るよ?
そんなオレの心配をよそに、お兄ちゃんは王様に訊いた。
「それはつまり、東の国の軍は俺の指揮下になる、ってことですか?」
『もちろんだ』
「でも、ゴシェさんはそれでよろしいんですか? ポッと出の俺の指揮下になるんですよ?」
『出自ではなく能力で重用して下さるのがポローニャ王の懐の深さです』
さっき〝王族特権〟とか言ってたの聞いてた?
『それに、荷車の騎士殿は恩人! このゴシェ、荷車の騎士殿の右腕として身命を賭す所存です!』
あーっ、うっとうしい!
『ヴィオレット姫様』
お兄ちゃんがヴィオレットに向き直った。
『そうなると、ヴィオレット姫様にも俺の指示に従っていただくことになりますが、それでよろしいんですか?』
ヴィオレットがお兄ちゃんをちらりと見ると、頬を染めて俯いた。
『ヴぃ、ヴィオレットは既に今朝、荷車の騎士に、抱きしめられて命令に従わされたですの』
……ポローニャ王。
ゴシェ将軍。
発展途上国のおじさんたちに教えてあげる。
文明国では、淫行条例違反は市中引き回し、強制わいせつは打ち首獄門だよ?
オレが許すから、この極悪人をさっさと逮捕しよう。
『ほう、ヴィオレットを手なずけるとは、さすがは荷車の騎士殿』
年端も行かない娘が蹂躙されたってのに(ほんとは弓を引くために腰を支えられただけだけどムカつくから)、オンボローニャ王、あんた、父親失格。
『既にヴィオレット姫の信頼も勝ち得ているとは、さすがは荷車の騎士殿です』
南の国出身者は耳が腐ってんの?
よそ者が! 南に帰れ!
医者も博物学者も『さすがだ』とか『すばらしい』とか言って頷いている。
つーか、この国、警察いないの?
……でも、一人だけ感動してないのもいる。
それどころか、敵を見る目で妹を見てる。
もちろん、グリシーヌ。
それからお兄ちゃんの袖を引っ張って恨めしそうに見た。
『荷車の騎士様、それは本当ですか?』
グリシーヌもわかって言ってるよね?
「え? え?」
お兄ちゃんがオレを見た。
「フッフ、通訳は?」
返事がない。
フッフはただの屍のようだ(知らないよ。少し反省しなさい)。
今だけはグリシーヌに味方してあげる。
敵の敵は友だからね。
まあでも、その友も敵だけど。
そんな何とも言えない雰囲気と、グリシーヌの生霊レベルの嫉妬に気圧されたのか、とうとうお兄ちゃんが答えた。
「わかりました」
さすがにこっちの話は通訳する。王様が満面の笑みを浮かべる。
『おおっ! それでは』
「とりあえず試用期間ということで、今日一日元帥を担当させてください」
は?
元帥の試用期間???
さすがのアホローニャ王も戸惑ってはいたけど、結局同意した。
『〝試用期間〟の意味がいまいちわからんが、まあいい。今日一日、荷車の騎士をわが軍の元帥に任命しよう』
こうしてお兄ちゃんは、一日署長ならぬ一日元帥(≒山賊の頭領)に任命された。




