第五十八便 ファンタジーっぽい用語を使わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
サンダル サービスエリアでの休憩時などに。運転中、作業中は危険なので履きません。
〝南風のフェアリー〟(仮)の生体サンプルもあるし、オレたちは前線に向かう前に城に立ち寄った(そんなに遠回りじゃないし)。
虫はまだ動いてたけど、ガラスも食い破ることはできないようで、ビンの中でバタバタしてた。グリシーヌがそれをもって王様や医者(多分この国じゃインテリ)に見せに向かった。ヴィオレットも一度オレから降りた。お兄ちゃんはそのまま昨日借りた倉庫の前に行った。
「何するの?」
「この世界、というかこの状況を甘く見てた」
お兄ちゃんは倉庫の鍵を開けながら言った。
「預かってる荷物だから、なんて言ってられない。伝票を見た時にある程度中身は把握してある。今日必要になりそうなものを持っていく」
オレの荷台にはもちろん薬草の箱が山積みだったけど、多少の隙間があった。
お兄ちゃんは倉庫からいくつかの段ボール箱を出して、その隙間に詰め込んでいった。
積み込みが終わり、お兄ちゃんが幌のカーテンを閉めていると、例の守備兵隊長が走って来た。
『荷車の騎士殿!』
「あ、守備兵隊長さん」
『荷車の騎士殿!』
守備兵隊長はお兄ちゃんの前で息を整えると、やけにしゃちこばって言った。
『自己紹介がまだでしたが、私は現在、ご存知の通りこの国で守備兵隊長を務めるゴシェと申します』
「あらためまして、よろしくお願いします」
『また、南の国の出身です』
「お聞きしています」
『して、荷車の騎士殿、〝南風のフェアリー〟を斃されたと?』
「それが本当にそうかどうかわかりませんが、一応サンプルを持ってきました。守備兵隊長さんならご覧になったことがあるかもしれない、と思いまして」
『いや、残念ながら』
守備兵隊長、ゴシェは首を振った。
『私は当時五歳。この家宝の剣とともに』
そう言ってあのあんまり役に立たない剣を見た。
『鉄の長持ちに入れられ、馬車で脱出させられたので』
「そうですか」
『そして救出された時には、馬も車も跡形もなく』
「それは大変でしたね」
『ただ』
ゴシェがお兄ちゃんに向き直った。
『ただ、荷車の騎士殿が捕獲した虫は、長持ちの鍵穴からわずかに見えた影に似ています。そして何より、ヴィオレット姫のお話を伺う限り、それが〝南風のフェアリー〟であることは間違いありません』
そして姿勢を正す。
『わが故郷を滅ぼし、私の家族の命を奪った夏の魔女、そしてその三大使徒の一つ、〝南風のフェアリー〟を斃して下さった荷車の騎士殿は、私にとって恩人と言っていい存在です。本当にありがとうございます』
ゴシェが深々と頭を下げる。お兄ちゃんが慌てて、「い、いや、それはおおげさでは?」と後ずさる。
「それに、俺の力じゃありません。こっちにはフッフがいたし、グリシーヌ姫様、ヴィオレット姫様のお力添えがありました。そもそも」
お兄ちゃんがちらっとオレを見た。
「ほぼ捨て身の作戦でしたから」
『それがどのようなものであれ、これは歴史的な快挙です。南の国、東の国と言うくくりではなく、この島全体の』
ゴシェが顔を上げた。
『この島の有史以来、夏の魔女を撃退した国も英雄も存在しません。圧倒的な力に敗れていますし、常に矢面だったわが故郷、南の国は、とうとう三十二年前に滅びました』
ゴシェが南方の空を見上げた。お兄ちゃんは少し頭を下げて目を閉じた。
『その夏の魔女の三大使徒、〝熱波のエルフ〟、〝南風のフェアリー〟、〝砂漠のドワーフ〟のうち、最も恐れられていたのが、〝南風のフェアリー〟です』




