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第五十七便 王家の秘伝とか言わないでっ!

七つ道具(七つでは足りない)

着替え たいてい1セットは持っています。

 首都(多分、一応)までの道。

 ダッシュボードのドリンクホルダーには、さっきお兄ちゃんが空にした(その後洗った)ビン。

 アルミの蓋には、お兄ちゃんが細いドリルで開けた空気穴。

 そしてその中には、〝南風のフェアリー〟が一匹。弱ってるけど、まだ生きてる。

 ヴィオレットは『殺すですの!』と主張したが、お兄ちゃんが「検証が必要ですから」と言って譲らなかった。

 グリシーヌは、薬草を取りに来た往路、復路ともこの村に立ち寄ってるから、村長も知ってるらしい。南の国出身者を集めてもらったが、誰ひとり〝南風のフェアリー〟を見たことがなかった。

 ただ、南出身の年配の一人が、『この時期は通常南西の穏やかな風だが、昨日は南東から強い風が吹いた。三十年前に夏の魔女が南の国を滅ぼした時も同じだった』と言っていた。

 お兄ちゃんは少し考えこんでたけど、何も言わなかった。グリシーヌは例の休耕地について村長だけには説明し、『国で買い取るようはからう』と伝えた。


『あの王様があんなこと承諾するの?』

 村を後にしてからオレがグリシーヌに訊いた。

 あんまり有能そうじゃなかったし、とは言わなかったけど。

『この国は、西の国ほど階級が明確じゃないから』

 グリシーヌが言った。

『王族であっても、必要なら戦争に行くし、薬草も運ぶわ。ちなみにお父様は、数年前に腰を悪くするまで、ほぼ毎日畑に出ていた。曲がりなりにも〝王様〟っぽくなったのはここ一、二年よ』

「立派な方ですね」


 お兄ちゃんが笑った。


「道理でどこか親近感がわくわけだ」

『荷車の騎士様。親近感どころか、いずれ〝お義父さん〟と呼んでいただくのですから……』

 ……ってグリシーヌが思ったかどうか知らないけど、しっかりと頬を染めて俯いてやがったよチキショー。

 でも、オレは何度倒されても立ち上がる。

 フラグを折るため。

『でも、農作業する王様って立派な感じもするけど、〝王様〟としてそれでいいの? ていうか、そもそもこの国の王様の仕事って、何?』


 オレの、まあある意味当然の質問に対してグリシーヌが答えたところによると、島では一番小さかった(今もそうだけど)東の国の王様の仕事は、外交、貿易、道路の整備と管理、税(食料)の配分などらしい。

 もちろん、以前は南、最近では北からの難民の受け入れも主導していたようだ。

 逆に国内の村、町については、無理のない税以外では各町村の自治にまかせている、ということだった。


 そんな状況で、更に王様も農業に勤しんでるようじゃ、豊かな国なんて程遠い。

 考えてみると、城も貧相だったし。


 でも、そんなこんなで、今の王様は人気があるらしい。

 娘の申告だから話半分だけど。


「そうですか。本当に良い王様ですね」

『王様ではないですの。お義父様ですの』

 ……なんてことも言わず、やけにおとなしいまま、ヴィオレットは黙って窓の外を見ていた。


『それから、暦や時間の管理も王家の仕事です』


 一年が月の満ち欠けを元に12の月に分割されていること、その始まりは、農閑期で、多少のずれがあまり問題にならない冬だということは、オレのコンピュータやスマホに入ってるカレンダーと同じだ。ただ、一か月は30日で固定されていて、360日が過ぎたところで次の一年をいつ始めるか(つまりその年の閏日(うるうび)を何日にするか)を決めるのは王家の仕事だということだった。

 疑問だった時計については、城のある首都(一応)では、日時計と水時計の併用らしい。夜間や曇った日は先祖代々の水時計を基準にして、晴天の際の日時計で修正する、といった具合だ。


『このような技術は、地図の製作法同様の王家の秘伝となっています』

『セコッ』

「いや、そういう技術は大事だし、統治するってのはそういうもんなんだよ、きっと」


 オレのこの国の言葉での突っ込みにお兄ちゃんが日本語で突っ込む。

 

「で、もう既に9月だから、夏の魔女は来ないだろうと思い、冬の魔王のために準備していた、と」

『ええ』

 グリシーヌが頷く。

『さっきも言いましたが、後二か月くらいで冬です。西の国との戦争だって、今年、冬の魔王が来た時のためなのに、まさか夏の魔女が今頃来るなんて……』

 グリシーヌはそう言うと眉根を寄せた。

 ちなみに、ヴィオレットは相変わらず黙ったままで気持ち悪い。


 何か言えよ。

 そうすればオレがまた心の中で突っ込むから。


 だって、それができるのはもう後少しだし。

 ただでさえちょっとしかなかったガソリン、使っちゃったんだから。


「ごめんね、フッフ」


 お兄ちゃんが察したようにダッシュボードを撫でてくれた。


「そして、ありがとう」


 えへへ。


 オレは照れて目を伏せた(スマホホルダーは固定だけど、気分的に)。


 〝南風のフェアリー〟と目が合った。

 スマホに入ってる姿を〝妖精〟と言われたオレが言うのも何だけど、単体で見ると、本当にフェアリー(妖精)って感じがした。

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