↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/125

第五十三便 臭いとか言わないでっ!

七つ道具(七つでは足りない)

両面テープ いろいろと。だんだん思いつかなくなってきました。


『荷車の騎士様、まさか?』


 わかっていただろうに、グリシーヌがあえて訊いた。窓から後ろを見ていたヴィオレットが怒鳴る。


『いくら荷車の騎士でも、そんなの無理に決まってるですの! 南風のフェアリー相手じゃ分が悪すぎますの! 退くべき時は退くのが兵士の心得ですの!』

「俺一人じゃ無理ですよ。でも、こっちにはフッフがいる」

 お兄ちゃんがルーフキャリアの荷をほどきながら答える。

「この先には村があった。オレたちが逃げ切っても、南風のフェアリーは村の人を襲うかも知れない。だからその前に俺たちで何とかしなければ」

「じゃあ、お兄ちゃん?」

「フッフには申し訳ないけど」

「そんなの今更じゃん!」

「ありがとう、フッフ」

 お兄ちゃんが笑ってる。見えなくてもわかる。

「村の手前に、干し草が山積みになった耕地だか牧草地だかがあったはずだ。ですよね、グリシーヌ姫様?」

『言われてみれば、確かに』

 グリシーヌがハンドルを強く握りしめて答える。

「そこで食い止めます」

「でも、干し草なんて昨日の雨で濡れてるんじゃない?」

「いや、道があんまり濡れてないところを見ると、この辺りはほとんど雨が降らなかったみたいだ。あんなに激しい雨だったのにね」

 

 言われてみれば、確かに。

 どうなってるんだろう、この島の気象は?


「ともかく、そこまでの間にできるだけ距離をとりたい。グリシーヌ姫様! もっとアクセルを!」

 

 そうだ、あれこれ考えるのは後にしよう。今はこの状況を何とかしないと。


『と、とにかく、ほら! グリシーヌ! 右足をもっとめいっぱい踏み込んで!』

『そんな無茶な!』

『馬車と大して変わらないでしょ?』

『馬車はこんなに速く走れないわ!』

『何ですの?』

 ヴィオレットも叫んだ。

『さっきより更に速いですの! 魔獣とはこんなに速く走るものだったですの!?』

 ヴィオレットの顔も引きつっている。

『ぱ、パンセルメールよりちょっと速いかも知れないですの!ほんのちょっとだけ!』

『そんなことより、ヴィオレット、南風のフェアリーは?』

『うっ、は、離れているですのっ!』

『どのくらい?』

『二十馬身、三十馬身、五十……』

「南風のフェアリーは時速50㎞ってとこだ」

 お兄ちゃんが屋根の上から言う。

「休耕地に着く前に最低でも250mくらい離したい。とにかく時速70㎞強で! 四速でこの道じゃ、アクセルベタ踏みでも多分それが限界だから」

「着いたらどうするの?」

「休耕地を一周する」

「え?」

「休耕地に入ったら右へカーブ、そしてすぐにハンドルを戻して左に、休耕地いっぱいの円を描くように。最初の地点に戻ってきたらもっと深くハンドルを切って休耕地を抜ける。グリシーヌ姫様にうまく説明して」


 確かに無茶過ぎる。

 でも、やるしかない。


 と、道の凹凸の衝撃でホルダーの角度が変わった。

 朝日に照らされたオレ自身の影も視界の端に映る。

 そして、携行缶を持って、オレの上をしゃがみながら後方に歩くお兄ちゃんの姿も。

「落ちないでよ! お兄ちゃん!」

「大丈夫! 後ろまで行ったら幌の縁につかまっておくから」

『ヴィオレット! フェアリーとの距離は?』

『かなり離れたですの! 百馬身はあるですの!』

 ヴィオレットの申告が正確かどうか知らないけど、今は信じるしかない。

『グリシーヌ! 休耕地に入ったら拳二つ分ハンドルを右に! それからすぐに左に切り直して!』

『わかったわよ! やればいいんでしょ!』

 グリシーヌがマジ切れしてる。

『も、もう、初めて荷車の騎士様にムカついたわ』

『最初に会った時と変わらないじゃん』

『それはまた違う話!』

『でも、このままのスピードじゃ転倒しちゃうしお兄ちゃんも落っこちちゃうから、オレが合図したら一度右足をアクセルから離して!』

『一度にいくつも言わないでっ!』

 グリシーヌが叫ぶ。ヴィオレットは相変わらず後方を見てる。

 休耕地まで10メートル。

『グリシーヌ! アクセルから足を離して!』

『これでいい!?』

 エンジンブレーキがかかり、一気に時速50㎞くらいまで減速する。

『いまだ! ハンドルを右に!』

 グリシーヌが舵を取った。オレが一度大きく右に曲がる。

『すぐ左に!』

 オレの向きが変わる。

『そうしたらまたアクセルを踏んで! そのまま広場を一周する感じで、多少ぶれてもいいから!』

 グリシーヌは必死の形相でハンドルをさばき、右足を踏み込む。

『そう、その調子』

 オレが休耕地を周って行く。崖の向こうと違って、この辺りはあんまり雨が降らなかったみたい。

『馬車を運転してただけあっていい勘してるね』

『お世辞は結構よ!』

『お兄ちゃんだったら絶対言うけどね』

『なんか臭いですの』

 ヴィオレットがこっちを見て眉を顰めた。


 こんな時になかなか鋭い突込みだね、ヴィオレット。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。