第百四便 あとは長野県民にまかせようなんて言わないでっ!
「自称女神、出てこーい!!」
返事がない。
「腐女子、出てこーい!!」
返事がない。
オレは少し考えてから、もう一度言った。
「〇〇も△△もフツーに彼女がいる。異論は認め」
「異議あり!!」
マジでつられて出て来やがった。
「失礼な。罠だとわかっていても戦わなければならない時があるのです」
そう言えばこっちの心が読めるんだった。
そもそも、ここじゃ、オレは喋ってるのか考えてるだけなのかよくわからないし。
自称あほ女神のせいで。
「最初のころと比べると態度の変化がひどいですね。ろくに敬語も使わないとは」
「当たり前じゃん! どうせオレ、ガソリンがなくてもうどうにもならないし。無能なあんたに媚び売っても意味ないもん」
「何と現金な」
「そっちこそ、人の弱み握って今までさんざんえらそーにしやがって。あんたがほんとに女神なら、今頃オレはそこらの木や草を燃料にして走って、変形して空飛んで火を吹くくらいになってるわっ!」
「それではもう、ただの〝異世界ロボット〟ですよ?」
「何でもいいよっ! お兄ちゃんと一緒にいられるなら!」
そこでふと、さっきお兄ちゃんが帰って来て訊けなかった疑問を思い出す。
「……そう言えば腐女神さん」
「何ですかその言葉は?」
「だって腐ってるじゃん」
「BLは腐っていません!」
「だからBLじゃなくてあんたが腐ってるのっ! いろんな意味でっ!」
「腐ってる? それ、褒め言葉ね」
「だからそう言うところ! この間もそうやっていきなりアカギネタぶっこんで来るしっ。しかも最初期のっ!」
「……はて、何のことでしょう」
声が明らかに動揺してる。
「この間、オレとお兄ちゃんを間違えてこの世界に送るわけない、とか言ってたじゃん!」
「い、言ってませんよ?」
「言ったよ! 〝まるで白痴だな〟とか言ってたじゃん!」
「そこに深い意図はありません。ただ、荷車の騎士がいつまでたっても据え膳を食わないことに少々歯がゆさは感じていましたが」
「お兄ちゃんがグリシーヌたちに手を出すはずないじゃん!」
「気付いていないのですか?」
自称女神がため息をついた。
「荷車の騎士が自制している大きな要因は、あなただということを」
「はぁ?」
「確かに、荷車の騎士の活躍にあなたは必須でした。でも、同時に、あなたが時に横やりを入れ、時には逆に煽る。そのたびに彼は冷静になっていたのです。むしろ、ならざるを得なかった、と言うべきかもしれませんが」
「ど、どういうこと?」
オレがお兄ちゃんの邪魔してる?
いや、もちろん邪魔してた自覚はあるけど、フラグを折った時だけじゃなくて、もっとウェーイしちゃえっ、て時も、何だかんだでお兄ちゃんに立ち止まらせてる?
「あれだけ誘惑が多い中、ほぼ何もしないで済む男性も少ないでしょう」
「あんたの好みのそっち系の可能性は?」
「生ものはちょっと。それに、ディレター中将と違って美形ではないので、妄想の対象外です」
「失礼過ぎるよっ! そういうところが腐の嫌われるゆえんだよ!」
反論できないところが更にムカつくけど、今の論点はそこじゃない。
「そ、そう言えば、この間も言ったように、お兄ちゃんは記憶が一部ないって言ってたけど」
「それについてはその時答えたでしょう?」
「答えになってなかったし」
「私から言わせれば、問題なのはあなたの方です」
「オ、オレ?」
「ええ」
自称女神は少し間を置いてから言った。
「あなたも荷車の騎士も気付いていないようですが、この世界に転移する時、実はOBD2の電源は入っていました。ただ、あなたには使い方以前に、それを使ってスマートホンにアクセスできる、ということに気付いていなかっただけで」
マジで?
確かに、最初に目覚めた時は、ナビやドラレコみたいな、有線の機器にしか考えが及ばなかったけど。
「これは私も後で気付いたのですが、実際にはブルートゥース経由でスマホに接続していたECUに、荷車の騎士のスマートホンの情報の一部が流れ込んだようです」
「あ……」
「本来なら、翻訳機能を持った有能なオタクのアシスタントになるはずだったのですが」
「オタクって設定必要?」
「それが無駄に自己主張の強い〝相棒〟になってしまい……」
「やっぱオレたちを意図して送ってんじゃん!」
「間違いの修正のためのフォローです」
「それで更に失敗してたら世話ないよねっ!」
「おかげで、私の査定が……」
ほんとこの女神俗物だな。
「聴こえていますよ?」
「聴かせてんのよ」
オレも俗物だった。
「……でも、これから挽回していただきます。そのためには、あなたの協力が不可欠ですから、よろしくお願いしますよ?」
「だーかーらーっ! お腹が減って動けないんだって!」
「そう言う時こそ、荷車の騎士を信じなさい。彼が無駄にあなたを走らせるわけがないでしょう?」
「はい?」
珍しくお兄ちゃんを評価するような発言にちょっとびっくりする。
そして、それ以上にその発言内容にも。
「ど、どういうこと?」
「以前言ったように、荷車の騎士は、異世界言語も魔術もレベルもスキルも剣技も、全てにおいて適性がない程の凡人です」
「それって侮辱」
「そして彼は、それでも異世界で生き残り、十分すぎるほどの活躍をしています」
「あ……」
「確かに、今のところファンタジー的なモンスターには遭遇していません。しかし、ある意味それより厄介な南風のフェアリーを倒した。そして更に国力は十数倍の敵国を懐柔した。これはある意味、バカみたいに剣を振り回して雑魚敵を切り倒すよりはるかに困難な業です」
確かにそうだ。
南風のフェアリーはともかく、ラシーヌとの同盟の話は、お兄ちゃんじゃなきゃできなかったかもしれない。
「もちろん、それぞれの成果にはあなたの存在が大きい。でも、それだけじゃない。彼の機知や人格がこの結果につながっている、と言うことは認めざるを得ません。もう、いっそのこと、〝凡庸欠格の湖の騎士〟という題名でもいいくらいです」
「赤帽全然関係ないじゃん! ていうか〝湖〟ってどこから出てきたの?」
「ノリです」
「ノリ?」
「そして出て来るヒロインを食いまくる、と。あ、そう言えば、野営地近くの湖の脇には、ヴィオレット姫が浸かった温泉がありましたし」
「温泉? 初耳だし! あきらかない後付けだしっ!」
「荷車の騎士も、さっさと手籠めにしておけばいいものを」
「お兄ちゃん、そんなロリペド野郎じゃないから! ヴィオレットもさすがに13歳以上っぽいけど、あの姉妹に関しては、淫行条例が守ってくれてるし」
「あなたがそう思うならそうなんでしょう、あなたの中ではね」
「そういうとこだよね」
「とにかく、中途半端なところでリタイアが許されるとは思わないで下さい」
声が遠ざかる。無駄とわかっていても叫ぶ。
「だから、燃料がないと!」
「そう言えば、大事なことを忘れていました」
声が戻って来た!
これって、よくあるプレゼンで、プレゼンテーターが「そういえばもう一つ大事なことを忘れていました」って言って、その日一番大事な発表をするパターンだ!
「荷車の騎士が元の世界で住んでいたのは長野県ですね?」
「う、うん」
「長野県には淫行条例がありません」
な、ななななな……!!
何やってんだよ長野県っ!
そんなんだから、「後は長野県民にまかせよう」とか言われちゃうんだよーーーーっ!!!!
注1 it'a true wolrd.
注2 ナオコサンが叫んだときはありませんでしたが、今の現実世界ではちゃんとあります。
長野県、グッジョブ!




