第百二便 騎士どうし物語とか書かないでっ!
まあ、オレもわかってたんだよ。
誰かがこっそり荷台に隠れたこと。そんなことするの、ヴィオレットしかいないし。
ヴィオレットは駄々をこねてたけど、結局お兄ちゃんに抱きかかえられて降りた。グリシーヌの周囲の空気が冷える。ママは微笑んで二人を見つめている。
『お母様!』
ヴィオレットが母親に駆け寄る。抱き着く我が子の頬をママが優しく撫でる。
『活躍は聞いています。母として誇らしくおもうわ』
それからグリシーヌを見る。
『もちろん、グリシーヌも』
『わ、私は』
グリシーヌが頬を染めて目を伏せる。それからヴィオレットを軽く睨む。
『そ、それよりヴィオレット。なぜフッフに隠れてたの?』
『そ、それは……』
ヴィオレットは母親の傍らで目を伏せる。
『に、荷車の騎士と魔獣が、どこかに行ってしまいそうな気がしたからですの』
酔いつぶれてたくせに、鋭いね。
『ヴィオレット』
グリシーヌが眉根を寄せる。
『わがまま言ってはダメ。荷車の騎士様は半日ほどお休みされるだけだから』
『で、でも』
ヴィオレットがグリシーヌに訴える。
『ヴィオレットは、荷車の騎士と契りを結んだですの! だからずっと一緒ですの!』
「お、お兄ちゃん!?」
『に、荷車の騎士様!?』
オレとグリシーヌが同時に叫ぶ。
「え、え?」
お兄ちゃんが通訳を求めてオレを見る。
でも、その間にグリシーヌママが優雅に立つ。その気迫にグリシーヌもオレも押し黙る。
『ヴィオレット、詳しく聞かせて?』
娘を正面から見据え、笑顔を浮かべたまま問い掛ける。
『〝契り〟って、どういうこと?』
『に、荷車の騎士が……』
ヴィオレットが視線を落とし、体を少し揺らす。
『ヴィオレットに、〝膝の上〟って言ったですの』
『は?』
『え?』
『膝の上に乗せるってことは、契りを交わすってことですの。だってお母様』
子供に何見せてんだよ! グリシーヌママとアホローニャ王っ!
『の持ってる本の絵がそうだったですの!』
『は?』
何それ?
ていうかグリシーヌ?
でも、グリシーヌはまた視線を泳がせ始める。
『お母様の持ってる騎士どう』
やっぱ持ってやがった! 有閑マダムの宮廷風恋愛本!
『しの、熱い友情と抱擁を描いた本にあったですの!』
騎士どう……し?
騎士同士?
『グリシーヌ?』
『え、ええと……』
『お母様が北から入手した本の挿絵だと、〝契り〟として、騎士が膝の上に別の騎士を座らせてたですの! 荷車の騎士もヴィオレットに膝の上に座れって言ったですの! あっちは裸でヴィオレットたちは服を着てたけど大差ないですの。だからヴィオレットたちも契りを交わしたですのっ!』
それ、まるっきりBL本じゃねーかっ!
『グリシーヌママ! 子供にエロ本見せてんなよっ!』
『騎士同士物語は純然たる文学。エロ本と一緒にしないで』
ママがムッとしてオレを睨む。
『ヴィオレットが読んだのは、〝義兄弟の契りを交わした二人の騎士が、9月〟、ちょうど今の時期ね、〝に再会しようという約束を交わす。でも、兄は姦計により投獄されてしまう。弟との約束を果たすため、兄は牢獄の中で自害し、魂となって千里をかけて会いに来る〟という、美しくも悲しい物語なのに』
『話は感動的かもしれないけど、裸の男二人の挿絵は何なの?』
『義兄弟の契りと言ったら必要な描写でしょ?』
当然のような顔で言ってやがる。
だめだ。
自称女神と同じだ。
それでいて美人。
〝クラスではおとなしい美人で通ってる〟とか言う生き物、ホントに存在したんだ。
……って、二年前?
北の輸入品?
『グリシーヌ』
オレはまたグリシーヌに小声で訊いた。
『もしかしたら、グリシーヌのママって、北の国が滅んで騎士同士物語が入手できなくなったからすねて引きこもってたの?』
『ほっといてよ。人の家庭のこと』
いや、お宅、一般家庭じゃないじゃん。
つーか図星かよっ!
『私なんて、子供の頃にお母様の本読んで以来、美形な人が怖くなっちゃったんだから』
『まあ、確かにトラウマにもなり得るけど。……じゃあ、厨二病、じゃなくて、ディレター中将とかは?』
『無理』
即答って。
政略結婚相手の最右翼なのに。
『だってあの人、お母様の本の挿絵で、膝の上に乗ってた人そっくりだもん! 絶対無理!』
母親にトラウマ植え付けられるとは、グリシーヌ、ちょっとかわいそう。
あれ、でも、おかしいな。
ホ〇が嫌いな女子なんかいないはずなのに。
あの自称女神だって……。
……ん?
そう言えば、三感が戻る前、あの自称女神、変なこと言ってたな。
まるで、意図してオレたちをこの世界に送ったとでも言いたげな……。
当然のようにBLっぽい本が流通してたみたいだし、ほんと、この世界ってどうなってるんだろう?
そして、オレたちはこの先どうなるんだろう?




