第百一便 「その先にある愛」とか言わないでっ!
ドライバーの仕事はかなり不規則だ。
それに、お兄ちゃんは建前上一人親方。労働基準法が関係ない世界を生きてる。
徹夜もそれなりにあったし、睡眠不足はそれなりに慣れてるとは思う。
でも、違う世界で、運転とは違う意味での命がけの状況が続いている。
それなのに、昨日の明け方から、ほぼまる一日起きてるけど、お兄ちゃん、大丈夫なのかな?
そんなオレの心配をよそに、お兄ちゃんがオレたちのところに歩み寄った。
「あ、おはようございます」
そしてグリシーヌママに頭を下げる。ママもにっこりと笑いう。
『おはようございます、荷車の騎士さん。娘たちが大変お世話になっているようで』
「あ、いえ。こちらこそ」
お兄ちゃんがグリシーヌを見やる。
「俺の方こそ、王様、お姫様たちには大変お世話になっております」
オレはお兄ちゃんの挨拶を通訳してから、グリシーヌに小声で訊いた。
『ねえ、大丈夫なの? 騎士と王妃って、一番やばいパターンじゃない?』
『北の国から入手した本で、そう言うお話を読んだことはあるわ』
グリシーヌが死んだ魚みたいな目で答える。
『でも、お母様ならあり得ない』
『どういうこと?』
グリシーヌはオレの質問を無視して母親に声をかけた。
『お母様、いついらしたの?』
『ついさっきよ。首都だけではなく、私の方にも使いが来てね』
『私の方?』
オレが思わず訊く。
『ああ。お母様はここから三馬時ほど北の避暑地でひ、静養なさってたの』
『あら、本当にその箱が喋るのね』
『フッフをご存じなのね』
『それはもう。静養先でも、荷車の騎士さんと魔獣さんの噂でもちきり。本当の魔獣さんはあっちでしょ?』
グリシーヌママがオレ(本体)を指さす。それからオレ(スマホ)に顔を寄せ、それから少しため息をついた。
『な、何すか?』
オレはムッとして言った。
『人の顔見て(人じゃないけど)、ため息つくとか、いくら王妃様でも失礼じゃ?』
『顔ではないの。声よ』
『声?』
『ええ。その声、どう考えても女の子みたいでしょう? いくら顔が女の子みたいだからといって、声まで女の子みたいな声である必要はないわ。ちゃんと男性らしい声じゃないと』
『勝手に性別決めないでよ! オレにはまだ、〝オレっ娘〟って言う可能性が微レ存』
『女の子なんて邪道!』
『自分の娘の前でよくそんなこと言えるよね?』
『本と現実を一緒にしないで!』
え?
何このおばさん。
呆気に取られてると、グリシーヌママはお兄ちゃんを見やった。
『登場の仕方、功績。更にディレター中将との戦い。そしてその先にある愛。全て理想通りなのに……』
『ちょ、ちょっと! その先って何だよ!』
『それなのに、はぁ……』
そしてまたため息。
『お、お母様! フッフの言う通り、いくら何でも失礼よっ!』
そうだそうだ!
あ、でも。
少なくともこのおばさん、お兄ちゃんには残念な感じ。ってことは、有閑マダム的宮廷風恋愛は発動しないかも。
それはそれで、一つ安心できるかな。
オレがフラグと戦う必要ないし。
「な、何だかよくわかりませんが、フッフと俺はちょっと出かけますんで」
お兄ちゃんは苦笑しながらオレ(本体)に戻り、そして荷台のカーテンを開けた。
「ですから、ヴィオレット姫様もお降りください」




