第百便 宮廷風恋愛とか言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
百話まで来ましたし、こじつけも多かったので、「七つ道具」コーナーは今回でいったん終了します。
もしお読み下さっていた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。参考になるものはありましたでしょうか?
また、何か思いついたら書いてみます。
さて、百番目の七つ道具(???)は、
心
です。
こころ、か……。
ではなく、一応「お客様の心を運ぶ」というキャッチフレーズなので、運ぶ側も一応〝心〟を。
まあ、いつも理想通りできているかどうかはわかりませんが、結果的にそのようになれば、と言う思いはあります。
この世界の一日が何時間か、はよくわからないけど、今のところ、時計での24時間と極端に差はないように感じる。三日しか経ってないし、あくまでおおざっぱに、だけど。
そして、以前グリシーヌが言っていた暦の話と合わせると、この世界で経過する一年は、元の世界の一年とほぼ同じみたい。
つまり、この世界での16歳は、元の世界での16歳とだいたい同じ。
一般に16歳と言えば高校一年生。もちろん、誕生日次第では高校二年生の可能性もある。今は9月ということだから、元の世界基準で、誕生日が4月~9月(の今日まで)ならグリシーヌは高校一年生。明日以降なら高校二年生。
それで出産が当たり前って。
世の高一、高二のJKって言ったら、たまにディスリーランドと乙女ロード行く以外は家でごろごろゲームしてベッドの上から「メシ」とか言ってママに甘えてるのがフツーだろーがっ!
グリシーヌのママ、頭おかしかったんじゃないのっ!?
い、いや、違う。
グリシーヌのママは被害者だ。逆算すると、どんなに遅くても十四歳くらいでグリシーヌを産んでることになる。もう、JK通り越してJCだ。元の世界なら、厨二病こじらせすぎて自分は一人暮らし余裕とか思ってる年齢だ。もちろん、食事、洗濯、掃除その他身の回りの世話全てはママが通ってやってくれること前提で。
そんなこどもに出産という、元の世界でももちろん、祈祷が身近な治療と言う医療レベルのこの世界なら、なおさら生死を賭した難行、グリシーヌママに押し付けたのは誰だ!?
……あの、アホローニャ王め……。
なぁにが人格者だ! この、ロリペド野郎!
『……ていうか、グリシーヌのママって、そう言えば城でも見かけなかったけど』
最後の部分はつい口をついて出ちゃった。
『あ……』
外したボタンをしめ直していたグリシーヌが眉根を寄せる。
『お母様は、二年前に……』
『あ、ごめん』
『ううん』
『って、え、じゃあ、さっきの美人、もしかしたら、グリシーヌのママの幽霊?』
『謝っといてそのセリフ?』
『あ、いや、何か……」
『それに、勝手に殺さないで。っていうか、お母様がこんなところまでいらっしゃるはずないし』
『何それ。どういう意味?』
『あ……』
グリシーヌは露骨に『しまった』という顔をした。
『ええと……』
グリシーヌが視線を泳がせる先に、オレ(本体)で作業中のお兄ちゃん。
『お母様は、に、二年前に、か、悲しい出来事があって、や、こ、心を痛めて籠ってらっしゃって……』
随分歯切れが悪いけど……。
はっ!?
もしかして、グリシーヌ、グリシーヌママとお兄ちゃんのスキャンダルを心配してる……?
まさか、お兄ちゃんに限って……。
で、でも、年齢的にはほぼ同じで釣り合う(最初は25歳くらいかと思ったけど)。
しかも、王妃と騎士。
王妃は、二年前の何かの悲劇でかくれていた。
そこに突如救世主のように現れた騎士。
これって、暇な貴族の奥様が無茶苦茶好むシチュエーションじゃん!
『騎士の物語を書きなさい。騎士は当然最強でモテモテ。でも、騎士が本当に心を寄せるのは、美しく優しい主君の后(つまり私)って設定はデフォね』
とか、パトロンの王妃がいかにも言いそうじゃん!
『い、いやぁ、でも、それって要は不倫ですし、王様に怒られてしまいそうです。私(作家)にはちょっと……』
『そこを何とかするのが作家の仕事でしょう。あなたの生活費を誰が出してやってると思ってるの?』
とか、余裕でパワハラまがいのこと言われて、最終的に投げちゃって、しょうがないから他の人が完結させるとか、または投げたってことにして王様から怒られることを回避するとかっ!
あんたの悪趣味な気まぐれがどれだけ後世に影響与えたと思ってんだよっ!
……とか言う文句はおいといて……。
実際、騎士と言えば宮廷風恋愛。
ここは異世界。
中世ヨーロッパ風ファンタジー世界。
やばい、やばすぎる……。
こ、ここに来て、新たなフラグが……。
『荷車の騎士さん、ようやく会えました』
「それは俺のセリフです。誰よりも美しく、気高い王妃様」
『グリシーヌたちは放っておいていいのですか?』
「いやぁ、正直、オムツもとれていないようなガキどもがオナモミみたいにまとわりついてきてうんざりしてたんですよね。モーヴ少将でさえただのガキ。俺と話したいなら、せめて母乳くらい出せるようになってからにしろ、って言いたいですね」
『荷車の騎士さんたら、ウフフ』
「王妃様には大変失礼ですが、あれこれアピールしてくるグリシーヌ姫様、ヴィオレット姫様にも嫌気がさしていたところです。彼女たちに至っては、もう、人間と言うより三葉虫やアンモナイトと喋ってる気分でした。やはり女性は、大人の気品と色気こそが進化の証です」
『まあ、お上手ね』
「王妃様と俺なら、淫行条例も強制わいせつも外患誘致も関係ないですしね」
『でも、いけないわ。私には夫が』
「何を言うのですか。それは恋をますますおいしくするスパイスですよ」
『とか言い出したらどうするのっ!?』
グリシーヌがオレ譲りの妄想癖を暴走させて叫ぶ……。
……叫ばない?
あんなに嫉妬深いグリシーヌが、ほぼ接触のない段階から金髪を警戒してたグリシーヌが、騎士と王妃との禁断の恋は想定しない?
自分のママだから?
まあ、その気持ちはわかるような気もするよ(ママいないけど)。
それとも、病弱だから?
いや、そこはむしろ有閑マダムにとってツボだと思うんだけど。
とはいうものの、病で籠ってるなら、グリシーヌのいう通りこんなところまで来るわけないか。
さっきのはグリシーヌ本人をオレが見間違えたのか、またはマジでグリシーヌの生霊だったのかな?
ほら、また投石器の影から覗いて……。
『お、お母様っ!!??』
グリシーヌが叫ぶ。お兄ちゃんがこっちを振り返る。
美人が物陰から歩み出た。東の空から差し込んできた朝日が、ムカつくくらい優雅な笑みを照らし出す。
『あら、見つかっちゃった』
そして穏やかなまなざしでオレたちを見つめる。
『おはよう、グリシーヌ。そして魔獣さん』




